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第一回 お風呂攻防戦


 工藤邸の風呂は猫足バスタブという、一般家庭では中々お目にかかれないものである。初めてそれを見た文次郎もわが目を疑い、流石は工藤邸だと逆に納得した。
 あまり知られていないが大の風呂好きである文次郎だが、しかし工藤邸の風呂には入りたいと思わなかった。猫足バスタブ自体に興味がない訳では無いのだが、偏見その他諸々で「猫足バスタブは美人が入るもの」と思い込んでいるためだ。よって嬉々として掃除はするも、どれだけ勧められても入ろうとはしなかった。
 それがいけなかったのだろうか、なんでも文次郎と一緒にしたがるようになった新一は、とうとう風呂まで一緒に入りたいと言いだした。
「考え直せ新一、今すぐ考え直んだ!」
「い・や・だ」
「男二人で入っても面白くないだろ!」
「銭湯じゃ大勢と入るだろ? 恥ずかしがることねぇ」
「違う! 羞恥心とかそういう問題じゃない!」
 脱衣兼洗面所で入る入らないの攻防を繰り広げる二人。傍から見れば異様な光景だが、生憎つけられている監視カメラはオフになっているので誰も見ていない。
 入ると駄々をこねる新一に文次郎は深い息を吐く。最近日に日に懐き度、もとい依存が強くなってきている気はしていたが、ここまでとは思わなかった。新一の中で己はどんな存在になっているのか気になるが、答えが怖いので聞くことはしない。
「新一、お前は高校生だろ? もうすぐで大人になるお前が男と二人で風呂なんかに入ってみろ。間違いなく哀に絶対零度の目を向けられるぞ、俺が」
「文次郎なら問題なしだろ」
「どう考えてもありだ! 問題ありまくりだバカタレィ!」
「一緒に入る位いいじゃねぇかバーロー!」
 全くもってよくない。文次郎はだからと新一を納得させようとする。
 一緒に入らない理由は様々挙げられるのだが、一番はやはり恋人の存在だろう。家政夫のことは伝えてあるもののそれが工藤邸であることは言っておらず、新一のことも外では「坊ちゃん」と呼び名前も出していないのだが、文次郎に関する事になると妙な嗅覚を発揮する恋人に疑われてしまえば、ここに通う事すら危うくなってしまうのだ。
 然し、それを一から説明すれば更に面倒くさいことになってしまうことは目に見えている。故に二番目以降の理由で新一を説得させようとするのだが、中々納得してくれない。
 平行線をたどる言い争いの勝者が決まったのは、それから数十分後のことだった。


2015/02/17 pixiv
2015/02/26 加筆修正
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