考察:あだ名呼びの訳 追記

「甲太先輩と乙太先輩はどうしてあだ名呼びをするんですか?」

 唐突な質問に、蓬川甲太と乙太は四角い目をパチパチと数回瞬かせた。双子が唯一可愛がっている後輩の潮江文次郎は左右形の違う大きな目には、ただただ純粋な疑問しか浮かんでいない。
 然し。双子は顔を合わせる。甲太の顔にも乙太の顔にも困惑の表情が浮かんでいる。

 双子にとってあだ名は信頼の証である。それはつまり、双子の完成された独自の世界にその者達を入れてもいいということ。そして、双子だけに許された特別なものでもある。
 林蔵のことをさっちゃんと呼んでいいのも双子だけで。
 徳ヱ門のことを小姓と呼んでいいのも双子だけで。
 仁ノ助のことを組頭と呼んでいいのも双子だけで。
 文次郎のことをなっちゃんと呼んでいいのも双子だけで。
 双子だけに許された特権。誰にでも分かる双子の信頼の証。

「信頼の証だよ」
「信頼、ですか?」
「うん、信頼。僕達はなっちゃん達が大好きだって」

 完成された独自の世界の中の決まりであるそれを、果たしてこの後輩は理解してくれるだろうか。どうすれば、理解してくれるだろうか。

「あっ、そうだ!」
「何ですか?」
「ねえなっちゃん! 僕達のことをあだ名で呼んで!」

 二人揃っての言葉に、文次郎の目がパチクリと丸くなる。

「僕のことはこーた」
「僕のことはおーた」

 理解してほしい。だから、同じように呼んでもらおう。特別な名前を呼べる特権を、この後輩に与えよう。

「僕達のこと、あだ名で呼んで!」

 そうすればきっと、この子は分かってくれるから。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
でもなっちゃん呼びは嫌な文次郎

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