「単純だな、おまえ」


私の目の前に立って、そう言いのける赤い髪の毛の彼は、なんともない、と言ったような顔をした。単純って…。何気に私はその言葉にショックを受けたし、その言葉を言った丸井にも少し腹が立った。軽くキッ、とにらんでやると「なんだよぃ」と言ったように首を傾げた。丸井が首を傾げたところで、可愛げも何もないけれど。


「単純って、なんか丸井には言われたくない」

「は?俺のどこが単純だよぃ」

「すぐ新しいお菓子が発売されたら目移りするところとか」

「その単純とお前の単純とは違ぇだろい」

「同じだし。」

「俺は一言優しく声をかけられただけで好きかも〜とか言ったりしねえし。」

「(言い返せない)」



な?と、勝ち誇った笑みを浮かべる丸井に私は息をのんだ。今日の朝、電車でうっかり定期券を落としてしまって、それをたまたま大学生くらいの男の人に「はい」って笑顔で拾ってもらったんだ。その笑顔がすごいかっこよくて、今も頭から離れない。んで、好きになっちゃったかも、なんて冗談めいて言えば丸井が冒頭の言葉を言ったわけで。きっと丸井はその発言は軽い気持ちで言ったんだろうけど。



「お前さ、絶対将来騙されて悪い男に引っかかりそうだよな」

「じゃあ仁王くんで練習するからいいよ」

「意味わかんねえよ。仁王で遊ぶとかサイテー」

「遊ぶなんて言ってないじゃん。てか私大丈夫だし」

「ホントかよい。お前優しくされたらすぐキュンとする癖あるだろ」

「ないもん!大丈夫だもん!」

「そのうち軽い女とか言われんじゃねえの。」



しれっと言うブン太に、私はそう思われていたのか、と思うとなんだか少し悲しくなった。そんな悪いイメージを持たれていたのか。なにその最悪な印象…。ネガティブな思考になると、じわり、と涙袋に涙が溜まっていく。さっきまで丸井を見ていた私の顔は、涙が出そうになったことですぐに顔を下に向けて、丸井に泣き顔を見られないように俯いた。「お、おい」それに気付いた丸井は慌てた声で動揺していたみたい。俯いただけでわかるとか、それもきっとたくさん告白されて、そのぶん断り続けて来た丸井の経験上でわかるんだろうな。こんなに酷い言葉言うのに、どうしてモテるんだろう、かっこいいから?…って、なんでそんなこと考えているんだろう。



「お前、泣いてる?」

「…っ、泣いて、ない」

「(泣いてる…)ごめんって、軽い気持ちで言っただけで本当はそんなこと微塵も思ってねえよ」

「嘘だよ」

「本当だって、泣きやめってだから」

「……」



泣きやめ、なんて言ってもまだ涙さえ流してないんだけれど。と思ったら一滴だけ涙がポタッと落ちてきて、スカートがほんの少し丸い形で濃くなった。丸井は慌てて何かを取り出していたみたいで、ポケットを漁っている。目をこすって、丸井を見た。




「ん」

「…なに?」

「お詫び。あげる、お前に」

「キャンディ?」

「そう。お前の好きな苺」

「あ、ありがとう」

「だから泣くなよ。泣かせたの俺だけど」

「まだ泣いてないよ(涙こぼれたけど)」

「じゃあこれから泣くな!」

「……丸井ってこうやって泣かれるのは迷惑?」

「超迷惑」

「!」

「だってさ」

「うん、」

「泣くより、お前には笑ってて欲しいじゃん」



な?って、人懐こい笑みでにひっと歯を見せて、私の方を見て笑った。ああ、なんか今ならわかった気がする。丸井がどうして人気なのか。みんなこの笑顔に惚れたんだなあ、なんて。さっき丸井から貰ったキャンディを袋から取り出して口に入れた。大好きな苺の味が広がる。



「えへへ、おいしい」

「泣きやんだ?」

「うん、ありがとう」

「お、笑顔になった」

「うん、」

「しっかし、お前もさあ」

「うん?」

「キャンディあげただけで笑顔になるとかさあ」



ははっと子供みたいに笑う丸井に、私ははてなマークを浮かべる。次に出て来た言葉によって、わたしはそれから呆れてまた「もう」なんて笑うんだけどさ。まあ、次に出て来た言葉、って言っても…冒頭の丸井の言葉に戻るわけだけど。




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丸井ブン太 / March
「歓落」さまへ提出
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました!

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