□軽やかなステップで□


江戸川コナンからアイドルこなんちゃんへの変身シーンというはナカナカ面白い。
まずメイクだ。
ベースも何も不要と思われる元々綺麗な顔に、儚げな印象を与えるための白みが強いファンデと、ポンポンと軽い頬の赤みを乗せる。睫毛はビューラーで伸ばして軽く上に跳ねさせて、それで十分にも見えるのだが、平面になりがちな日本人独特の眼窩の浅さをフォローするため一応つけ睫毛も加える。目蓋上方と目元にだけ少しラメの入ったカラーを入れるが、それはその時の衣装に合わせた色を使うようにしている。
それから口唇には慎重にピンク色を刷く。妙な色気の漂う美貌があまりに増すと、子供らしさが損なわれるので、むしろ赤味を抑えるための可愛らしさを強調するピンクだ。
顔が出来たら、頭にふんわり栗色の巻き毛のカツラを被せてしっかりと留める。こっちは軽く整えるだけで勝手に本人仕様になってくれるので世話はない。顔がぼやけないように、頬にかかる部分の髪色は薄めの栗色。陽に透けると金色になったりする。職人の絶妙な技で出来たカツラだと思う。凄い。

首周りに巻いていたエチケット用のスカーフをしゅるっと解いて、衣装と合っているかチェックする。

うん、可愛い。
今日も上出来。

解いたスカーフをクルクルと手のひらに閉じ込め、ポンっとお花に変えて、最後に被せた帽子に添えてみた。

ま、アリだろ、花ぐらい。可愛いし。

さっきまで、殺人事件満載の推理小説を読んで口の端をククっと引き上げて眼を眇めていた眼鏡坊主の面影は全く無いと言えるだろう。もっとも瞳にはカラーコンタクトも何も入れていないから、強く烈しい青い眼差しはそのままだ。眼だけ見て、気がつく人間もいるのではないだろうかと思うが、こなんちゃんになると一応何がしかのスイッチが入るのか、目元が緩んでそれなりに柔らかい表情になるから、余程この子の眼差しに貫かれ続けている人間でもなければ判らないと思う…おそらく。

初めてこなんちゃんに対面した時は、突然天使が現れたのかと本気で思ったこと3秒間。
図らずも呼吸を止めて魅入ってしまった―いや魅入られたと言うべきか。
笑うでもなく面白がるでもなく、ただ眼前に出現したまま俺の反応を待っていたらしいその子の前で、いち・に・さん…と数える間呆然としたが、次の瞬間ハッとした。覚えのある気配、瞳。それだけで十分だった。

とはいえ理解しても、直ぐには言葉が出てこなかったくらいで。
あの衝撃はとんでもなかった。
俺の言葉すら出ない動揺を見たこなんちゃんが、『おーい?大丈夫かオメー』と声をかけてくれて、漸く動き出せたくらいだ。

一応、子供化した俺はこなんちゃんを真似ているが、歌うとか踊るとか何らかのアクションをしていないと偽者だとバレるのではないかと今だに不安になる時がある。天性のオーラを真似ろというのは不可能だし―そんなのは神域を侵すことに近い愚行だと思う。
その気になれば、動かずともいっそ台詞など喋らなくとも、神がかり的子役になれそうだと常々思うのだが、現在のところ社長の意向と威光でアイドル路線である。

そうアイドル。

だから。


「なー…トイレ行きてーんだけど。どっちに入ればイイんだ?俺…」

「ばっ!…ッあ、のなァ、アイドルはトイレなんか行かねーんだ!家で済ましてこいっ!っつか着替えの前に大丈夫か聞いただろーが!?」

「生理現象なんだから仕方ねーだろ!無茶言うな!」

「ああもう、間違っても男子便所にゃ近づくなよ!?」




いつの間にか、影武者兼専属メイク係にまでなってしまった俺にも夢をみせてくれ。






   ***終る?***



五分後、彼は女子トイレから軽やかなステップで控え室に戻ってきました。








いいように使われすぎている怪盗。
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