*『微分』『積分』でのアレ
■レター■ □(快⇒)新+哀□


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前略

工藤新一さま



好きです。


        黒羽

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「・・・わかりやすいわね」
「まぁな」
「シンプルイズベスト。いくら鈍い貴方でも読み間違えないようがないわ」
「そうだな」

照れも何も無く返されて、ふと、まさかと思った。

「一応確認するけど、わかっているのよね?」

「いやがらせ、だな」


灰原哀は、遠い目をして、目の前にいる麗人を見つめた。


「野郎が、野郎に告白なんか寒いじゃねーか!」
「さんざん、されていたんじゃなくて?」
「あー、どいつもこいつも、探偵とか俺が気に食わないらしかったからな」
「本気でいってるの?」

そういえば、この探偵は、学校だので男から呼び出しがあった日、帰宅した後でさえ非常に怒っている時があった。

『俺が、オンナにでも見えんのかよ?!』
『好きって、だから何しろッつーんだ?』

【話がある】と果たし状よろしく靴箱に入っている紙をみて、難癖か喧嘩かと警戒し向かってみれば、愛の告白。とりわけ、江戸川コナンから元の姿に戻ってから、そんな事が増えたようだ。抜け切れない子供っぽい仕草に血迷う人間が増えたか、行方不明だった彼を捕まえたいと思うようになったのか。
なんにしろ、彼らの想いなど、欠片たりともこの人に伝わっていないに違いない。

―別にソレは構わないけど

とてもノーマルに育っていた彼は、男同士の組み合わせなど認められないのか、と思ったが、恋愛の形は自由云々の台詞を言っていたのも聞いたこともある。

「あー、・・・まぁな、そういうヤツもいるってのは解ってけど、そういうのを、なんで俺に向かって言うのかがわかんねーんだ」
「・・・貴方だから、とは言われなかった?」
「言われたな。でも、俺はそういうの無理だし・・・」

どうも、単に、己の身に性別無視の自由な恋愛形を仕掛けられることが、アリエナイらしい。
男を好きになる男は、男を好きになれる男を好きになるのが当然、とでも言うのか。

―報われないわね


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前略
工藤新一さま







       黒羽
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「これ・・・あら、懐かしいわ」

皺のついた紙は、水分が乾いたせいか。
濡らすとハッキリ浮き上がるであろう文字は、ぼんやりと『スキ』と読めた。

「ということは、こっちの焦げてるのは炙り文字ね」

クスリと思わず笑みがこぼれた。
内容も、様式も、相手の気を引きたい気持ちが非常に解りやすい。
まんまと引っ掛かっている彼。

「こっちのは・・・ウビフ語?」
「死滅言語で書くなら、もうこれ死滅状態でいいよな?つったら次はプログラミング言語が来たぜ」
「フォーンランから何進化したのかしら」
「あ、進法変化してるのもあった気が・・・」

ガッサガサとひっくり返される封筒が、何通かリビングテーブルから滑り落ちた。
ヤレヤレと拾い上げる。きっとどの封筒にも、変らぬ言葉が書いてあるのだろう。

「あのね、工藤くん。それで?この手紙をどうしたいのかしら。単なる自慢?」
「自慢になるかよ。どうしらいいのか聞きてーんだ」

何言ってるのかしら?と、灰原はマジマジと決まり悪そうな顔でガシガシ頭を掻いている新一を見つめた。なんて、彼らしくない姿だろう。

「コイツ、手紙の差出人さ、最初会った時、なんっかストーカーにでもなりそうな感じがあってさ」
「・・・ここのところ、毎日一緒に帰ってきてるわよね?」
「ああ、でも変なヤツだと思ったし・・今も思ってるけど。で、最初はホント、付き纏いの証拠として提出することもあるかもしれねーって思って」
「確かに、貴方が彼を嫌がっている上で、こんなに送りつけられていれば」
「や、ほとんど手渡し」
「受け取ったの」
「受け取るまで、目の前から動かねーんだ」
「・・・・」
「無視して行こうとすると、ついてくるし」
「そうね、それは付き纏いね。なんで、そこでそのまま無視し続けないの!」
「ずっと話かけてきやがってさー。撒こうと思っても、全然振り切れねーし」

悔しいのか何なのか、口を尖らせて言う彼からは、肝心の嫌悪といった感情が見当たらない。

―惚気にしか、聞こえないのは気のせいかしら

灰原は深く深く眉間に皺を刻んで、ため息を吐いた。
ストーカーに対処する基本は、無視のはずだ。
この手紙を彼に渡している人物は、間違いなく非常に高い知能を持っているのだろう。
おそらく、工藤新一と同レベルかそれ以上の。
(彼と対等にやり合えて)
そして、元来物臭で時に人見知りをしやすい彼が警戒しているのを承知で近づき、そのまま付かず離れずの位置をキープしているらしいことから、コミュニケート能力が彼の数倍は高いものと思われる。
(彼を翻弄することも可能な)
きっと『友人にするなら最も望ましい』相手なのだ。
(彼と並び立てる、つまり相対する位置にも立てる)

「厄介ね」
「ああ」
「でも、まずは貴方がハッキリとした拒絶を示さないといけないのよ?半端に相手をすることは、行為を助長させて良くない結果にしかならないわ」
「してる。してるはずなんだ。大体、手紙の返事には其の都度全部NOで返してるし、・・・妙な真似、されるわけでもないし」
「じゃ、コレはアレよ」

些か面倒くさくなった灰原は、一つの方向性を示すことにした。
きっと間違えているだろう、と思うが、この際どうでもいい。
目の前の人間は、きっと答えが出るまで、いや下手をすれば答えが明らかになった後でさえ、お生際悪くのた打ち回るに違いない。
いくら大事な隣人であっても、付き合いきれそうにない。

「彼はきっと、貴方と」
「俺と?」
「親友になりたいのね」
「・・・・へぁ?!」

間抜けな声に、ああ、これは無意識で自覚することを拒否しているのだ、と灰原は確信した。
ならば尚更付き合ってやるなどバカバカしい。

「一目ぼれ、とか言って。こんなん寄越すのに?」
「インパクトあるじゃない。貴方の一番になりたいのよ。友人でも何でも」
「でもよ」
「大体、変な真似、されてないんでしょ?毎日健全に放課後遊んで、お手紙貰うだけなんて。今時の高校生なら、告ってOKなら、その日のうち肉体関係を結ぶそうじゃない」
「いや、男だし、俺もソイツも」
「だったら、親友でいいんじゃないの」
「・・・そう、か?」
「だって、何だかんだ言って、一緒に居ると楽しいんでしょう?」
「ああ。それは、確かに」

親指を顎に当て、思案するポーズに入った相手を見て、灰原は遠い目をして手紙の山を見つめた。
可哀想に、と思わないでもなかった。
しかし、いっそ相手がキレでもすれば話は早くなるだろう。
ヒラリと中身の抜かれた封筒を一つ手に取り、目の前で回して見る。
白い封筒は、中の適当な便箋よりも、余程上質な紙で出来ていた。
まるで、大切なのは中身ではなく、この存在自体と言わんばかり。だからこそ、探偵も封筒ごと処分も出来ずに持て余して、わざわざ相談などという彼らしくない真似に出たのだろうが。

青みがかって見える程、白く綺麗な、まるで。

―まるで?

どこかで同じものをみたのかしら、と灰原は額に手を当てた。

「あ、その封筒さ、メーカーわかるか?」
「?いいえ・・・。品が良くて、凄く綺麗よね」

ブツブツなにやら自問自答していた探偵が、探偵の眼で、面白そうに灰原を―正確には彼女が指で摘んでいる封筒を見た。

「怪盗KIDの予告状が、そんな封筒に入ってきたことがあるんだそうだ」
「・・・まぁ」
「今度、入手先を聞いてみようと思ってる」
「そう。解ったら私にも教えてくれるかしら?とても、素敵だから」
「いいぜ」


白い封筒。
彼に、顔も良く似ているという差出人。

脳裏をよぎるイメージは、当たっているのだろうか。
そして、当たっていたら、彼はどうするのだろうか。


彼の無意識は、彼を守るために働いているのね、と灰原は思った。










暗号でも仕込んでみるかと書き始め、何が書きたかったのか見失う良くある例。
ライトなストーカーコメディという当初の目的は何処に行ったのだろうか。

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