□漂泊思慕□ *原作をご存知ない方には分かり難い仕様です。 *原作をご存知の方にも分かり難い有り様です。 *某ゴースト/ハントのパロ。 *新一⇒黒羽超常現象調査事務所で働いてる。霊感のある変な能力持ち。 *キッド⇒新一の夢によく出る黒羽(ry事務所所長? ―これは、夢。きっと。多分。 真っ暗な中、ぼんやりとほの白い輪郭が浮かび上がる古びた校舎の周りで、いくつもの鬼火がゆっくりとした動きで飛び交う。 事務所に依頼された怪現象の起こる旧校舎の調査の合間に、どうやら寝てしまったようだ、と思った。俺の霊感は、夢うつつの状態が一番、能力が発揮されるらしい。起きている状態では殆ど見えないし感じる事も少ない、いわゆる幽霊の気配がよくわかる。 「よぉ、新一。来たんだな。…面白いモン、見せてやろうか」 声の元を探って視線をめぐらせると、曖昧に広がる暗闇の合間から白い陽炎のような光が揺らぎ立ち、その中からフワリと俺の所属する黒羽超常現象―まぁ要は悪霊を退治したり心霊現象の調査をしたりする事務所の所長様が近くに降り立った。 パチン と、彼が指を鳴らす。 すると突然、目の前の校舎がその輪郭を作る線だけを残して、まるで中が透ける様な光景に切り替わった。壁が消え、床が消え、しかし漂う鬼火と校舎内に居る人影はそのままに。 「なんだ、コレ…。おい所ちょ」 「キッド」 「……」 「キッドって呼べってこないだも言っただろ」 「呼んだら、すっげぇ冷たい目で見られたんだけど。誰と勘違いしてる?とか言われたし」 「あー、アレね?表の俺ね?無視していいよ、アイツ馬鹿なんだ」 「つぅか、所長って名前快斗じゃねーか。キッドってなんだよ」 「愛称だって」 ニヤリと笑う彼は、起きている時とは、まったく違う雰囲気だった。 俺がごく普通に目を覚ましている世界では、所長は冷たい月のような印象なのに。 ごく稀に遭遇するこっちの彼は、いつも面白そうに時に優雅に笑っていて、対比するなら月は月でも兎が棲んでるような暖かな黄色い満月みたいな感じなのだ。 『無駄霊感』 『推理じゃなくて調査しろ』 …とか言って残念な目で見ることもなく、俺に、霊にも優しく視線を向ける彼は、時に全くの別人に思える。 でも、何度見てもやはりその顔はいつもの所長と同じで、いつだってその落差が落ち着かない。 「ホラ、よく見て場所を覚えておけ」 白い手袋で包まれた指先が校舎の一部を指し示す。 ふわり、ゆらりと動く小さな鬼火が、大きな渦のような黒い靄に引き込まれて消えていく。そして、靄は大きくなる―気持ち悪い光景だった。アレでは、まるで。 「食って、る?」 「そう、どんどん大きくなる」 「…なんで…霊が霊を食うんだ?!」 「原因があるはずだぜ。調べて、さっさと止めさせないと解放されない魂がどんどん増えていく」 「俺、行かねぇと」 不安を掻き立てられる情景だった。何より、その景色の中に調査の為にと協力してくれている学生の姿や、一応仲間とも呼べる同業者が写り込んでいるのが嫌だった。小さな鬼火を払いながら、彼らは大きな靄へ誘導されているように見えた。 ―早く向こうで、アイツらに教えてやらねぇとッ… 意思のみで存在する世界で、その思いは行動に直結する。 しかし。 「待て。靄の大きい場所だけは、ちゃんと覚えてけ。そんで、近づかないようにな?」 「あ、ああ」 実体のない夢の中の身体がふわっと浮きかけたのを、所長―キッドが手を伸ばして繋ぎとめる。そうか、夢の中の者同士なら触れるのか、と不思議な感覚がわいた。 そして、触れている部分から、更に不思議な漣のような感触が起こる。 相手から伝わってくるソレはとても暖かくて、強く、何かを― 「ホラ」 「っ!あ、悪ィ…。っと、どの辺りになる?」 声を掛けられ、慌てて視線を旧校舎に向ける。 透ける建物が、複雑に対物線を交わらせていて見えにくい。それでも、一階の左端(確か保健室が…ああ、怪談があった)と二階の中央部辺り(あの辺りにあった怪談は理科室の―)の靄が大きい事が分かった。他にも二つ。 「目を覚ましたら、さっさと逃げろよ?それか、誰かに退魔法を教えてもらえ。俺は不向きだから、他の奴、な」 「?わかった」 「危ないんだ、とても」 手に触れる力は変わらないのに、伝わってくる波が大きくなる。 これは彼の感情なのだと、唐突に気がついた。 暖かく、優しい手は、布越しなのに―実物でないはずなのに、そうとは思わせない。 白いスーツのような服に手袋、大きなシルクハットを頭に乗せたスタイルは暗闇に浮かぶには奇妙な姿なのに、妙に似合っている。 以前、『こうした方がコッチに来たとき見つけやすいだろ?』と笑っていた。 現実の世界では、黒い服しか着ないのに。 殆ど笑いさえしないのに。 「じゃ、行くな。…キッド」 「いっておいで、新一。くれぐれも気をつけて…あと、俺にヨロシク」 嬉しそうに笑って、パチと彼が片目を閉じたのを見たのを最後に、意識がまたどこかへ移動していくのを感じていた。 そんな場合じゃないと分かっていたけれど、もう少し、話をしていたかった。 浮上していくような、いや、引っ張られるような変な感覚。 ハッとして目を開くと、先程まで優しい笑顔をしていた相手が、超絶不機嫌な顔でコチラを睨んでいた。 「起きろ」 「…ぇあ?」 「寝ぼけてんじゃねぇよ。仕事中だ」 「キッ…所長かよ」 「?何だ、お前。また『抜けて』たのか?」 「あー、多分…」 「相変わらずよくワカンねぇ能力だよなぁ。ま、いい。話せ」 黒い服を着た全く笑わない仕事一番の所長様は、腕を組んで尊大にそう言った。 『おい』とか『お前』とばかり俺を呼ぶ、いつもの彼だった。 |