□くろばと!□


「なんで、黒馬鹿がいるんだ」

コナンは憮然とした顔で、台所に立つ黒羽を見た。いつぞやのエプロンと三角巾をつけて、鼻歌交じりにフライパンで何か炒めている。鼻腔をくすぐる美味しそうな肉の香りは、おそらくウインナー。
こっそり忍び込むとか、ヒッソリ上がりこむ事はこれまで何度もあったが、こうも堂々とした態度というのはこの家では初めてだな、とコナンは思った。しかも新一のいない1階で。

「おはよう、コナンくん」
「はよ……なんでいやがる」
「そりゃ、お世話になるし。これからは毎日ご飯作って上げられるからね!」

なんだか物凄く不穏な事が聞こえたが。
コナンは慌てて、二階へと踵を返そうとした。しかし、ソレを察した黒羽がヒョイとコナンの身体を持ち上げてしまう。

「駄目だぜ?新一、夕べっつか、今日寝たの2時過ぎなんだ」
「センセ、だろ?!」
「まぁ、常々堂々と、『新一』って呼んじゃうコナンくんに、ちょっとジェラってみただけ」
「オメーは原稿届けなくて良いのかよ?始発はとっくに出てるだろ」
「バイク便呼んで預けてあるし、さっき着いたって連絡きたから無問題〜」

いや、ではさっきの『毎日ご飯』とは一体なんだ。

「コナンくんさ、前言ったよね?センセが良いよっていったら、俺とも家族になってくれるって」
「……嘘だろ!?」
「ふっふっふ」

驚愕に眼を見開いた子供に、黒羽は何も言わずに笑う。

「待て、ちょっと待て」
「何を〜?」
「俺が小学校に上がるまではヤメロ!あと鼻歌もヤメロ!何かムカつく!」
「…なんでさー」
「疲れんだよ!オメーら見てるの!それに、俺の不在時間が長いほうが黒馬鹿だって都合いいだろ!?」
「ちょ、なんで、そんなオマセさんなのさ、コナンくんったら!」
「バーロ!だったらなぁ、新一に痕残すな!たまに風呂入ってる時、どんだけ俺が気まずい思いし―」

「おい」

台所の入り口で、諸々の感情を押し殺した―いや殺しきれてない怒気に震える声がした。
やべッとコナンは口元を両手で抑える。
黒羽の顔は既に真っ青だった。

「無意識だ!しょうがないだろ、センセの背中があんまり綺麗だから!」
「俺だって、新一が背中洗ってくれとか言わなけりゃ気付かない位置だった!」

『打ち合わせ』と言い置いて月に二回程度、作家の方から編集者の自宅に赴く事がある。大抵泊りがけで。そういう時は京極が留守番に付き合いにやって来て、思い切りゲームが出来たり本を読めるコナンとしては嬉しい夜なのだが、翌日の二人の様子と来たら、如何とも言い様がない有様で。
黒馬鹿は馬鹿100%だし、養父は養父でツンデレ度が大幅アップしているし。
だから、そんな日は京極と共にさっさと外に遊びに行くことにしているコナンなのだ。―そんな日が日常になるのはハッキリいってお断りしたい。

「黒羽、帰れ。いや、消えろ、さっさと失せろ!」
「!?ええ、だって、俺、今日はご飯終ったら物置の掃除…」
「必要ねぇ!!」
「センセ、酷い!!」

どうやら、歓迎したくない事態は回避できそうだ。
口を滑らせたのが、ナイスプレーになった、とコナンはひっそりと笑った。



□掃除が延期になった日□




完!
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