□番外11□ 思い出してみれば、前日の夜は父親としたたかに呑み潰れての登校で、その日の夜も呑み放題な場所で好き放題に呑んでの黒羽宅襲撃だったわけで。 ぱかっと妙にハッキリと眼を開いて目が覚めた朝、俺が最初に見たのは、じっと俺をみつめる黒羽の顔だった。 なんだか、昨日もこんな目覚めだった気がするなァとボンヤリ思っていたら、その顔が近づいてきて、乾いた俺の口元に、濡れた奴の―「ッおま、え」慌てて、離れようとしたが、がっちりと上に乗ってきやがった。 「よく寝れました?すっごい気持ち良さそうにイッた後、すっごい気持ちよく寝落ちしてくれた工藤先輩」 「……」 怒っているのだろうか。 いや、しかし、それは不可抗力に近いものがあってだな、とおぼろげに昨夜の記憶が頭に再生されて、あぁううぉ…と意味不明な言葉しか出てこない。 「酔ってるの解ってたけど、結構普通に喋るしさ、感じてたし」 ちゃんと覚えてます?と言われて、「たぶん、大体は」と答えた。 「んじゃ、続きからで良いですよね?」 「……どの」 「そりゃ、もちろん」 言って、触れてきた手に身体が跳ねた。ちょっと待て!と俺は奴の手を押さえる。 「先輩?」 「あああ、あの、レポート提出!今日までの、だから」 「夕方まででしょう?立てなくなったら、俺が責任もって届けに行きますんで、大丈夫です」 「でも」 「『工藤なら図書館で書き上げてたみたいだな』って佐藤さんが」 「?!」 「お土産渡しそびれたんで、お詫び電話で確認しました!」 ニコニコ笑う顔に、反論は許されなさそうだ、と。 カーテンで遮ってなお暑く差す日差しの、何も隠す事ができない明るさが憎い、と思った。 窓のほうを睨む俺に、その思考を察したのか、黒羽は笑った。 「ぜんぶ、みたい。ぜんぶ、さわりたい」 そうすることで理解しあえることが、一体何なのか。俺には推測しきれなかったが、少なくとも今まで知らなかった黒羽をみることは出来るのだろうと、俺も負けじと黒羽を見て、口を開いた。 「ぜんぶ、みせろ」 【番外快新話:終】 |