*『微分』と同軸ぽい。
■積分■ □快⇒⇒ 新□



最近、知り合いから、多分友達になったらしいヤツがいる。
いや、周りが俺の友人と見做すようになったヤツと言うべきか。


最初「一目ぼれしました。付き合ってください」などと言って現れたその男、名を黒羽快斗といった。
だが、放課後のまだひと気のまばらにある学校正門前で、パッと見て同性と判る相手に突然そんな事を言われて、一体何と返せるか。
男が男に待ち伏せされて、告白。

しょっぱい。

とりあえず俺が出来たことといえば、四の五の言わずに相手を蹴り倒すことだった。
非道だと、我ながら思う。
仮にも好意を持って話しかけてきた―どころか告白をしてきた相手にすることではない。
俺も、そんな酷いことをする人間がいたら、ソイツの人間性を疑うだろう。
一応、俺も俺を疑った。
初対面の相手、のはず。
なのに、ソイツを認識し吐いた言葉を聞いた瞬間、フザケルナと頭が沸いたのだ。
呆れのような怒りのような。
別に男に告白されるのは初めてではなかったし、これまでは穏便にやんわりと、しかしキッパリ遺恨が残らないようにかわして来たのに、だ。

―しまった・・・ヤベェ

そう思って、地面に尻餅をついてコチラを見上げてくる相手を、初めてマトモに見た。なんだか自分に似ている顔があった。何とも言えずにいた俺(この時俺の制服の下では冷や汗がダラッダラに流れていた)を見て、ヤツは「ふむ?」と呟き、おもむろにニコリと笑った。
思ったほどダメージを与えていなかった様子に安心した後、そういや蹴り付けた衝撃がやけに軽かったな、と思った。

「ビックリさせてごめんね?」
「・・・ああ」
「俺さ、江古田高校3年の黒羽快斗って言います」

ピョンと跳ね起きる姿は軽業師のごとく、身体にバネの芯があるかのようだった。
スイっと黒羽の右手が差し出される。

「よろしく」
「・・・」

なんとなく拒絶しきれずに、手を出す。
ギュムと握ってきた手は意外とひんやりとしていた。
さっさと離そうしたが、逆に引っ張られ、何故か黒羽の顔が俺の顔近づく。

「アンタが好きなんだ」
「ッ!」

耳元で囁かれ、俺は反射的に身体を離した。
握られていた右手を慌てて引っ込める。

「ふざけるなよ」
「いやいや、本気」
「なお悪いな。返事はNOだ。消えろ」
「・・・どうしても?」
「ああ、断る」

俺は、コレは相手にしてはいけない手合いだ、と気づいた。
柔和な雰囲気を保ちながら、対峙する眼が全く笑っていない。細められた深い藍色の奥で、何かが澱んでいる。

「なんでさー、意外に仲良くなれっかもしれねーよ?」
「こっちに仲良くなる気がない以上、無理だな」
「片思いなんて、覚悟の上ってね!」
「思わなくていい」
「無ー理無理」

ケケケと笑って、黒羽は「じゃ、行こっか」と俺を促した。
何処に行く気だ。しかしヤツが足を向けているのは間違いなく、俺の帰宅方向ではあった。

「オメーと一緒に行く気はない」
「いいじゃん!一緒に帰ろうよ」
「なんで・・・」
「誰か待ってたりするわけ?それとも用事かなんかある?」

こんな時に限って、幼馴染は友人と買い物だと言って別行動だったし、警視庁からの協力要請も無かった。しかしだからと言って、コイツと行動する理由にはならないはずだ。
だが、「じゃ、いいじゃん!まずは知り合おうよ」とアッケラカンと言われ、わざわざ遠回りをして帰る気にもなれず、「気に入らないなら、別に話さなくてもいいしさ」との言葉に、そうか無視すりゃいいんだな、と思ったのが・・・・運のつきだった。



それから黒羽は、何故か俺が一人で帰宅する日にチョコチョコ現れ。次第に、そばに誰かが居ても、俺が付いて行かざるを得ないような理由を作って。(主に俺が発売待ちしていた新刊を早売りしてる本屋を見つけただの、上手いコーヒー屋を見つけただの、プロやアマチュアのサッカー試合が見物できるとか)
しまいには当然のように。


「帰ろ」

そう、言って。




□ ■ □ ■ □ ■ □ ■



「あ、もういるわ。ホント、仲良くなったよねぇ」
「江古田って、いつも早く終わるんだね」

教室から一緒に出てきた蘭と園子が、校門の石柱に寄りかかって立つ黒羽を見て言った。
時折彼女たちも、俺と黒羽と共に帰路を歩いていたが、そんな時の黒羽はひどく静かだった。俺とだけならば、ウルサイくらいによく喋るのに。聞いても居ないことから、コチラが何気なく口にしたことに反応して。
知識量で自分と張れるだけでなく、突拍子も無い思考回路を巡って出される会話は決してツマラナイものではなかったから、静かな黒羽というのは、なんだか不自然で妙にコチラの居心地が悪くなった。なので、最近では、すっかり彼女達との帰宅は無い。

「じゃねー!」
「ばいばい、新一、黒羽くん」

キャッキャと笑いながら去っていく二人に軽く手を振る。
軽やかに翻るスカートはとても良い。スラリと覗く脚がまた。などと、少々不埒な事を思って見送っていると、隣からニュッと腕が出てきた。
手には白い封筒。

「ハイ、これ」

困ったことに、最近では、黒羽が差し出すこの封筒にも、・・・慣れた。慣れてしまった。
しかし、この点については、白い封筒を見るたびに何とも言えない気持ちが浮かんで、この状況に少し後悔を覚える。
その場で封を切り、さっと眼を通す。
昨日一昨日と、警察に事件協力をしていて一緒に帰れなかった分なのだろう。

相変わらず、内容は変らない。

「返事、いるか?」
「前と同じ?」
「・・・まぁ」
「じゃ、いーや」

黒羽は、肩をすくめてアッサリと言い放つ。

「で、今日は?」
「学校のヤツがさ、新しく出来たシュークリーム屋が超絶品って言ってたから、ちょっと付き合ってくんね?」
「げ・・・俺は食わねーぞ、ンな甘いモン」
「えー?コーヒークリームとか抹茶もあるって言ってたし、一つくらいイケルって」
「店に寄ればいいんだな」
「で、俺ンちか、工藤ンちでお茶しようぜ!」
「じゃ、お前の家な。どーせ、オフクロさんの分も買ってくんだろ」
「ん」

ニコニコ笑って歩き出す。つられて、俺も足を踏み出す。なんでもない会話をしながら、今日受け取った封筒を鞄にしまった。

はたしてコレは何通目になるのだったか。

そろそろ仕舞ってある引き出しが一杯になるんじゃないだろうか、と思った。
最初は不穏な眼を見せた相手の、今後の行動如何によっては・・・と、証拠保存のつもりだった。
しかし黒羽は、俺の目の前に隠れることなく現れては必ず俺の顔を見て笑い、手紙は出来る限り手渡しで寄越してきて、付きまとわれている感が少しずつ薄れていって、いつの間にか当たり前のように一緒に帰るようになっている。

そうして、変わらない言葉が、耳に、眼に入ってくる。

積もっていく紙の束に、時折何か圧力のような、焦燥のような、『何か』を感じるようになってきている。

『何か』は、重いようでフワフワしているような掴み所が無いまま、甘いような苦いような妙な心地を齎し。飲み込むことも吐き出してしまうことも出来ないまま、喉の奥、胸のあたりにつっかえているのだ。




(こんなことなら、最初から) 

(一通目を、あの時ヤツの目の前で破って)

(溜め込むなんて愚行はせずに)





―捨てておけば良かった。











今更捨てられないらしい。

ストーカーの思惑通り。
色々流され慣らされ付け込まれまくっている。

100通集めるとスゴイ暗号が!
・・・とか。

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