□番外2□


最近、1年の黒羽くんと一緒にいるけど、仲良いの?

時折、そんな事を聞かれるようになった。確かによく一緒にはいる。学部は違うのに、よく顔を合わせるし、俺がルーティンワークの一つに入れている図書館(複数新聞の閲覧が主な目的だ)に行くと、それはもう遭遇率は8割近いのではないだろうかという位、目に入るし声を掛けられるのだ。
まぁ、気になる作家の新刊が被れば即効で読み込んで議論しあうのは楽しかったし、アイツの作る飯が美味いのがわかってからは、度々構内で奴お手製のお弁当を広げる事もあるので、確かに傍から見たら、学年違いの学部違いがよく一緒にいるものだと言う所かもしれない。(一部では俺とヤツの顔が似てる事から親戚とか従兄弟でもあるんじゃないか?と思われているらしい。生憎あんなパンを焼いたりハーブを育てたりするマメな親戚はいないのだが。訂正するもの面倒なので、適当に肯いたり「腹違いの兄弟だ」とか言ってみたりしている。)

そして、仲が良いの?と聞いてくるのは主に女子で、大体コチラが良いとも悪いとも返事をする前に、良かったら今度一緒に飲まない?勿論工藤くんも!と続くのがパターンだと判ってきた。興味のある相手を誘っての相互理解の場を設ける=コンパのお誘い、という至って健全な大学生の姿である。だが、生憎と俺はそういった酒の場が苦手で、彼女達の誘いにすぐに応じることもなく、大概黒羽のほうに、彼女達ごと丸投げするのが常だった。



ガタンっと学食の一角に、コーヒーだけを乗せたトレーを置いて、座る。
一緒に図書館から出てきた黒羽も、向かい側に腰掛ける。トレーにはココアとプリン。甘いものが好きな男である。

「で、さっきの話どうだ?今度の金曜日だってよ」
「…どうって、あの、先輩は?」
「行きたくないか?去年のミス東都が来るらしいぞー」
「はぁ、それはそれは。で?先輩は行くんですか?」
「……」
「あのですね、後輩を生贄にするのはやめましょー?」

一度コンパに黒羽を誘って、俺が当然欠席した時に、それはもう睨まれて、嫌味を言われまくった。先輩が来ると思ったから行ったのに!と詰られた。同席者の話によれば、黒羽は終始笑顔で話術巧みに場を盛り上げて、何人かの女の子に誘われたり携帯の番号を聞かれたりと、大収穫だったらしいと聞いていたから、黒羽の怒りは意味が判らなかった。
オイシイ誘いを持ってきた先輩に感謝するトコロじゃないのか、それは。
と、思ったら、その様子を面白く思わなかった面子―まぁモテない野郎の先輩ドモから、風当たりの強い辛い目に遭わされたらしく、流石に不味ったと反省した。それからは野郎の参加者のチェックは怠らないようにしている。
だが、黒羽の警戒は一向に解かれない。

「別に誰か誘って行けばいいじゃねーか。コンパなんか滅多に出ない去年だか一昨年のミスとか準ミスも来るって。だから絶対お前連れて来いってウルセェの。首席入学のイケンメン君、流石だな!」
「おんなじ台詞ソックリ返すぞ、この去年の総代様が!」

チッと舌打ちしてしまう。
黒羽は、俺といる時間が増えて、つまり俺の友人や知り合いやら学友やらとも顔を合わせる機会が増えて、そこで色々と俺について聞き及んでいるらしい。俺ですら忘れていた事をたまに持ち出してきては揶揄いの種にする。
ウンと言わない黒羽に、これは駄目か…と思ったが、今回は主催幹事が、同ゼミ生で同じ講義を取ってテスト前に協定を組んでノートやレポートを見せ合う友人なので、一応食い下がってみる。

「あ、男ドモのほうも釣り合うように顔と…性格が、まぁイイ奴らばっかだから大丈夫だぞ?」
「先輩が現場まで連れて行ってくれて、尚且つ帰りも責任持って送ってくれるんなら行きます」
「うわ、面倒くせー!なんだよ、帰りなんか誰と一緒になるか分らないだろ?!」
「俺、先輩以外にお持ち帰りしたい人っていないです、多分」
「…え、何それキモイ」
「ひっで!大体ね、先輩方に囲まれたらペーペーの一年なんか体よく使われるか、酒の肴になるだけでしょ?嫌だ。絶対、嫌だ」
「ああ…そう。ぅあー・・断るかー」

仕方なく、パチリと携帯を開いて駄目な旨をサッサと伝えてしまおうとした。
しかし、運悪く誘ってきた相手が、俺が座っている場所に向かって歩いてくるのが見えて、しまった、見つかった!と思った。
―電話なら、じゃ、そういう事でーとか何とか言って一方的に話を終らせるもの可能なのに!

「よ!工藤―。に、黒羽?おお…ホント、並んでると顔似てんの分かるね、君ら」
「腹違いで種違いらしいからな」
「なんですか、ソレ」
「という、噂がある。真偽は工藤すら知らないっていうな」
「つーか、腹も種も違ってたら、かなり他人じゃないスかね?」

初対面でもないのか、黒羽と友人・佐藤はポンポンと会話をし出す。俺はさっさと用件を伝える事にした。伝えるだけ伝えて、この場から逃げ出そうという算段である。

「あ、佐藤。コンパの件さ、パスな」
「んん?」
「俺も、黒羽もパスで!」
「駄目」

くっそう。いい様立ち上がろうとしたら、さっと佐藤が隣に座ってきた。通路側に。窓際の席なんか取るんじゃなかったと後悔が沸く。

「面倒くさい」
「そう言って、ほとんど出てこない工藤君を連れて行くって言っちゃてるからね。今回ばかりは連行な」
「ヤダ、面倒くさい」
「駄目。我がまま言わないの、新ちゃん!…ちゃんと一次会で帰してやるって」
「誰が新ちゃんだ。つーか、無理。嫌」
「お前だ新ちゃん。つーか、こっちも無理。駄目」

押し問答を続けていると、黒羽が不意に口を挟んだ。何だか、ひどく不機嫌そうな。まぁ、無視して話し込んでいるから暇なんだろう。

「あの、ソレって本命が工藤先輩ってことですか?」
「ん〜?まぁ、ね。いや、黒羽君も是非にってウルサイんだよ?でも、学年は別に誰も気にしないけど、学部が違うし、やっぱり駄目だったーで、君の場合は問題ないから」

少しでもイイ面子揃えたいからホントは来て欲しいんだけどね、と呟く佐藤の声は本気なのかウソん気なのか判断が難しい。女子の視線を牛耳りそうな顔なんか、複数あっても他の野郎ドモにとっては微妙だろうに。高嶺の花を誘い出すには、見目の良い男がそんなに必要なのだろうか。疑問だ。しかし、俺はこの場をお断りで乗り切ることに集中する。

「俺も、やっぱ駄目でしたで、問題な」「いワケなかろーが。プレゼミの上の本ゼミ所属だぞ、ミス。直接先輩になるかもしれねーの!いちお、ソレ見越しての2年と3年の有志コンパなんだからな」
「…あーだっけ?いや、別に、それならソレで来年になってから、ゼミコンでいいじゃねぇか…」
「今!今フリーだから、コンパに来てくれるって話だろうが。親睦目的のコンパと一緒にすんな」
「どんなコンパもコンパだろ。それに、金曜には彼氏いるかもしれねーって」
「夢ぐらい見させろよ…」

はぁああああーと溜め息を付いて、佐藤は黒羽に視線を送る。黒羽は困ったように少し笑う。関係ないヤツはイイよなぁと勝手ながらムカついたので、こっちも大仰に溜め息を吐いた。―コレは諦めが肝心かもしれない。

「… 一次会だけだぞ?」
「おおお!」
「飯食って帰るだけな」
「居てくれれば問題無し!よっしゃ、工藤が飯のみOKしました!ってメール送信(まわ)しとくわ。…撤回させねぇぞ?」
「一次会の会費しか持って行かない。携帯も忘れていくことにする」
「構わん。つーか、工藤なら、それでも連行されるんだろーけど」

どこへだ。不穏な気配がするのでやっぱり嫌だなぁと顔が勝手に渋面を作る。それを正面から見ていた黒羽が、クスっと笑った。

「どこで呑むんです?」
「ん?興味があるなら来るか?」
「それは…。ミスがご一緒だと高い店になったりするんですか?」
「さぁ?」
「工藤に答えられるワケねーだろ。あそこにする予定なんだよ。駅前の『花咲』。リーズナブルで女性サービスのある店!移動も楽だしな。ま、ちょっと高いかなー。いちお、車持ちの男が多いし」
「あー、あの。駐車場広いですよね。立地が良い分お値段上乗せって聞いた事ありますよ」
「3000円ポッキリじゃないなら、行かねぇ。大体駅前なのに車もって来る奴って何なの?邪魔じゃね?」
「…お持ち帰りに使うんでしょ、そこは。シッカリしてくださいよ先輩」
「財布には稲造か式部入れとけよ。なぁ、前から思ってたんだが、工藤って、彼女欲しくないのかよ?放っといてもモテまくってるのは入学以来だけど、特定の相手って作らねーの?それとも実はいるのか?」
「面倒くさい…」

切り込んできた質問に、いつもの答えを返した。佐藤は、かわし方がワンパターンだよ、工藤くん…と呟く。

「東都駅から電車で10分。超セレブのマンションだの豪邸しかない東都のビバヒル族のクセになぁ…。しかも親は海外なんだろ?ヒルズに一人暮らし!どんだけ女子が工藤の家に行きたがってるか知らねーのか」
「そうなんですか?そういや、先輩って自宅住まいって言いながら親御さんの話って聞かないんですよね」
「どうでもいいだろ」

憶測ばかりの我が家ごとにまで及ぶ佐藤のそれ以上の追及は拒否すると、俺は視線を黒羽に向けた。黒羽はプリンを食べていた。一口いります?と示されたが、首を横に振る。それから、カスタードの優しい黄色に、ふと思いついたことが口からぺロリと漏れた。

「あ、彼女が嫌がるからコンパは出られない事にすればいいのか」
「…あ、じゃないでしょ。先輩」
「工藤はフリーって送信しとくな!」
「……」

我ながら馬鹿な事を言ったなぁ、と机に突っ伏した。頭上から、同輩と後輩の笑い声が降ってきた。








続く
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