□うそうそ□ ■快新■



すこし前までごく一般的な高校生をしていた己が、怪盗との二足草鞋を履くようになって早や1年。大分、二重生活と二重性格が板についてきたと思う。ところどころ穴もあるけど、依然正体がバレていないのだから概ね良いといえる状況だった。・・・ハズだ。


「うそ臭い顔してんな」

出会いがしらに暴言にしか聞こえない台詞を頂いた。
ちょ、まてコラ。初対面の相手に言う言葉かそれが。

「うわ・・・なんか前にさ、新聞で持ち上げられてンの見たことあったけど、まさしく、そのままなんだな。ヤな感じィ。制服には蝶ネクタイつけねーんだ?」
「悪かったな。校則で禁止されてんだ」
「せっかくのブレザーが台無しだな!青のジャケットに良く映えてたのによ」
「・・・ハッ!テメーこそ、学ランくずし過ぎだろ、詰めろ襟」

「やめなよ、快斗!」
「新一、失礼じゃない」

俺の隣には幼馴染がいて、相手もそうで、彼女達はなんかどこか(青子がひったくりに遭いそうになった所を通りがかりの空手の使い手が助けたとかなんとか)で知り合ったとかで、まぁ、そのうちこんな瞬間も来るんだろうな〜とはつらつら考えてはいた。
毛利といえばコナンである。
コナンといえば、あの―この、高校生探偵なのだ。

「別に?勝手な印象言っただけだし。・・・悪かったな」
「・・・うそ臭ぇ」

絶対自分が悪いとか考えてねぇだろ、お前、とか続けられて、ニコリと笑った顔の、口元が少々つりあがってくる。仕方ない。ここでポーカーフェイス続ける方が不自然。なんでもない相手なら適当に煙に巻けばイイが、何しろ相手は名探偵だ。

「ひとを見たら泥棒と思えってのが探偵の信条なわけ?だいたいさ、『どもども、よろしく』って至極友好的な挨拶をだな、なんで嘘とか言っちゃうワケ」
「社交辞令にすらなってねぇ挨拶をだな、受け取れとか、無理」
「・・・なんなんだよ?」
「・・・なんだろうな?」

おもいっきり視線を合わせて、きた。
決してたじろいではいけないと、そう思って見返す。
確かに青い眼は、どっかの魔女いわく『全てを見通す慧眼』であるのだろう。ひたりと中てられた視線に痛みすら感じる。けれど、俺こそジッチャンのいやさ親父の名にかけて、内心を悟られないための壁を張り巡らせる。
たかが視線だけで、踏み越えることなど出来ない。させない。

「ふぅん」
「何がぁ?挨拶が適当なのがいけなかったワケ?うわ〜探偵の工藤さんだ〜、サイン下さい☆とか言ったら良かったかな」
「バーロー」

「あ、青子は欲しい!・・・です」
「へ?」
「青子ちゃん・・・」

漂う緊張感なぞ知ったことではない素っ頓狂な発言に、探偵はマヌケな声をあげ、その幼馴染は苦笑を浮かべた。

「お〜い。・・・色紙なんか持ってねーだろ、青子」
「ああ、そっかぁ!今度、持ってくから、その・・・お願いします!」
「いや、サインとか書くような芸能人じゃないし」
「コレはただの推理馬鹿よー?青子ちゃん」
「でも欲しいな・・駄目かなぁ」
「いや、駄目とかでなく」
「まぁ、今度、ね?」

なんとなく、上の空になった会話が途切れたところで、俺達は二手に分かれた。


「んじゃ、行くか。黒羽くん?」
「いやいや、なんで、オイ!青子!!」

俺と、その隣に名探偵が残されて・・・って、どういう状況だ。
青子は、強くて優しい己の数倍ナイスバディの毛利さんとサクサク歩いて行ってしまう。そーりゃぁ自分を助けてくれた素敵な女の子にお買い物に誘われればホイホイ行くだろうけど、別に行くのは構わねーけど!
―なんで、コイツを残していくんだ!
しかし青子はチラリと振り返るとバイバイ〜と手を振るのみ。
毛利さんは「失礼な事しないようにね!」と隣のヤツに声を掛けていた。

「俺は社交辞令じゃなく、オメーをお茶に誘ってやる。行くぞ」
「・・・そこは、社交辞令で構いませんが」
「美味いコーヒー屋があるから、いいだろ」

よくない。しかし断るのもなんだか癪である。

「え。そこってパフェとか置いてある?」
「ねえな。なんだ、ンなもんが食いたいのか」
「アイスとかクレープでもいいけど?」
「・・・・チーズケーキならあった気がする」
「おっけ!」

まぁ、コレでも二足草鞋はむしろハイヒール並みでも歩行可能と思ってるいるので、少しばかり楽しんでやろうと腹をくくれば、むくむくと好奇心がうずいてくる。

「甘いモンが好きなのか」
「美味いじゃん。あ、コーヒー屋ってもココアくらいあるよね?」

辛党なのか渋党なのか、名探偵は眉を顰める。
これは甘いものが駄目なのかもしれない。なんて勿体無い!

「お前の方が蝶ネクタイ似合いそうだな」
「はぁ?」
「態度も味覚もガキって感じ」
「ほうほう。つまり、工藤探偵はあの赤い蝶ネクタイがお坊ちゃん染みてたことは承知の上だったと!」

嘘くさい態度が子供っぽいと同義にされたことに違和感はあったが、あえてツッコミはせず、いいセンスですよねーとニヤニヤ笑ってやれば、やや頬を赤くした相手が脚を蹴り上げてきた。甘い!そんな攻撃は青子との日々の鍛錬で慣れている。やや青子よりスピードがあって、大分威力がありそうな感じではあったが。当たらなければイイのだ。

「・・・で、お前、誰だよ?」
「黒羽快斗ですが。さっきも言ったんだけどね!ってゆーか、さっき呼んだよね!まぁ、いいや・・・どうぞ、よろしく?高校生探偵の工藤さん」
「・・・・さっきよりマシか。こちらこそ?よろしく頼むぜキッドさんよ」


ピシリとどこかで音がしたが、俺は諸々の色々を瞬殺して、ニッコリ笑った。

「何のことだか」
「ホラ、お前、もう少し一般人の感情推移と表情筋の変異とか研究しといたほうがいいぞ。皮かぶってないと、イマイチなんだな」
「・・・何言ってんだか」

ヤレヤレと肩をすくめて、今度はコチラからひたりと視線を合わせてみた。
面白がるような口元にそぐわない、真っ直ぐな眼。
その程度の言葉で落ちるはずもないこと位わかっているだろうに。

「なんて、嘘だけどな」
「そっか!びっくりした〜」
「ガキっぽいからキッドと掛けてみたんだけどな、まさか引っかかるとかな」
「・・・・・は」
「まぁ、それも嘘だけどさ」

この野郎、と思いつつ、俺は空を見上げた。
狡猾らしい人間の、しかも何でも見通す慧眼なんてもの、罪人は直接見てはいけなかったのだ。

「探偵って、そういう嘘つくヒトのことだっけ・・・・」
「嘘くさいヤツには、少しくらい嘘混じらせないと、さ」


見上げた空もさっき見た眼と同じに青くて、アレ?これ逃げ場なくねぇ?とかぼんやり思った。











アレ?この話なんだろう・・・
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