【双児邂逅】


18の誕生日を迎える数日前。世界を飛びまわる仕事をしている父親が、何の予告もなく帰国してきた。
それ自体はさして珍しいことではないのだが、彼は『一人息子』である快斗を学校帰りの校門で待ち伏せ「少し話があるから、付いておいで」と言って、有無を言わさず車に乗らせたのだった。

「どったの、親父。珍しいじゃん。車出すの」

一見鮮やかな赤に見えて陰影によって深紅と紫の合間の艶やかな色味を醸す滑らかなフォルムの外車は、快斗の父・盗一専用のお気に入りの車だ。だが、普段は不在の為乗ることがなく、免許を取るに達していない年齢の息子や母親にメンテナンスは負担だろうと、知り合いに預けてしまっている。滞在日数の少ない帰国の間に出してくるのは珍しい。

「もしかして、しばらくこっち(日本)?」
「いや、用事が済んだらまた向こうだ」
「だよなぁ」
「たまには、息子とドライブもいいだろうと思ってね。お前も、もうすぐ18だろう?免許はどうするのかな」
「すぐ取りたい!っても、校則でさー。取ってもいいのは春休み以降なんだってよ」
「おや」
「半年以上取れない、乗れない、なんてさ」

つまらなそうに口をとがらせる息子に父は目を細めた。

「で、どこ行くんだ?」
「あの角の先ー」

車は郊外を抜け、街路樹に挟まれた広い道路を走っていた。緩やかな坂道を上っていくと、まばらに視界に入っていた家や建物が消えて、高く長い白い塀が続く。
助手席からすこし窓へと首を伸ばして塀の上を見上げれば、大きな白い資格の四角の建物ーそして、塀に苔蒸した緑色の板に金字で書かれた表札が見えた。

(・・・大学病院?)

快斗は車から降り、広い駐車場からそびえ立つ白い建物を見て、それから車のキーを操作し何やら車の後ろでゴソゴソと荷物を出そうとしている彼の父親を観察する。
特に具合が悪いという顔はしていなかったが、なにしろポーカーフェイスが得意な人である。この場に母親が居ないことも些か不安を掻き立てたが、盗一がケースに入った花とリボンのついた紙袋を車から出してきた事で、少し強ばっていた肩の力は抜けた。これから診療を受ける人間が手にする品々ではない。

「誰の見舞い?」
「お前ととても親しくて、お前の知らない人さ。ついておいで。見れば解るが、紹介しよう」
「へぇ・・・」

謎掛けのような答えだった。
親しいのに知らない?
知らないのに見れば解る?
紹介が必要なのに親しい?

白衣の者や病衣の者、杖をついた者やマスクをかけた者・・・人の多い広い玄関ロビーから外来診療部門の窓口のある通路を抜けて。長い廊下を過ぎると途端に人の姿はまばらになった。閑散とした廊下の突き当たりのエレベーターに乗り込む。
快斗は鏡ごしに盗一の指先を追ってランプの付いた階を確認し、エレベーター内部の横に表示されている病棟案内に目を遣った。

(総合外科・・・ねぇ)

誰か知り合いが怪我でもしたものか。快斗は首を傾げ、ちらりと盗一を見たが、彼はエレベーターの出入り口の方へ身体を向けジッと立っている。今、説明する気はないと見て、快斗は目的地(もしくは目当ての人物)とは別の疑問を投げかけた。

「見舞いに鉢植えはNGっていうけど、箱入りってOKなの?」

盗一は軽く肩をすくめる仕草をした。

「さて。彼はあまり香りの強いものは好まないと聞いたからだが。味気ない景色の中に鮮やかな色彩は必要だろうと思ったものだからね」

折衷案というやつさ、と笑う。
そういうモンかぁ?と快斗は思ったが、とりあえず、これから会うのが男性であることは解った為、ほんの少しがっかりした。病床の美人さんや美少女は儚げで綺麗そうだな、などと不埒かつ相手の状況を鑑みない失礼な想像をしていたからだった。

「ここだ」

9階立ての最上階。
ナースステーションで来訪の旨を告げると、「いま、お部屋にいらっしゃると思いますよ」と淡いピンクが目に優しい看護士の女性が教えてくれた。

「・・・名前の札とか、出してないんだ」
「ここはプライバシー管理が厳重でね。外来でも余程でなければ番号でしか患者を呼ばないんだそうだ」
「ふーん」


コンコン

「はい」
「約束していた黒羽です。今、少し良いかな?」
「あ・・・どうぞ」

先導する父の背中越しに、よく通る声が快斗の耳に届いた。
カラリと横開きの扉が開いて、白いカーテンとその向こうに白いベッドが半分程見えた。ごそごそと動く気配。カーテンの向こうで誰かが身体を起こそうとしていた。部屋の奥の壁は一面窓になっていて、明るい陽光が薄い影を作っている。部屋に人影はベッドの上の一つだけ。

「ああ、そのままで構わないよ。無理はしないで」

足早に盗一はベッド脇に駆け寄り、カーテンの影に消える。その際素早く手荷物を快斗に押しつけてくれていた。
素直に荷物として、ベッド側へ歩き寄ると、目の前でベッドにかかっていたカーテンが開かれた。

「え・・・」


*** ***

快斗は言葉もなく瞠目して相手の顔を見つめる。
それは相手も同じのようで、大きく開かれた瞳と上下に震える睫の瞬きが、快斗にはよく見えた。
だが、彼は三秒後には、ベッドサイドに立つ盗一へと視線を移してしまう。逸れた視線がもったいない、と快斗は思った。だから、そのまま快斗は彼を見つめ続ける。

艶やかな黒髪は、快斗の頭と違って不規則に跳ねることなく、肩に触れる程度で切り揃えられている。彼が首を傾げると、しゃらりと音がしそうな綺麗な髪だった。
左右の合わせを右肘の下辺りで紐で結ぶだけの白い病院のものと思われる寝間着。細い首筋と少し骨の浮き出た鎖骨が丸見えで、つい、じっと見てしまってから、快斗は慌てて視線を他へ移す。見てはいけないものを見てしまった気恥ずかしさをもたらす眺めは、彼の肌が男が持つにしては白く滑らかすぎるせいだろう。白い透き通るような肌。
呆然と立ったまま無言で立つ快斗の手から、花の飾られたケースをさっさと取り上げた盗一が、その人にそれを差し出せば、陶器のように美しい指先が透明のガラスを撫でた。

「わざわざ?ありがとうございます」
「調子は少し、良いようだね」
「ええ。・・・それ、で。そちらの彼が」
「ああ。快斗だ」
「あ、はい」

父に名を呼ばれて、併せてその人の視線が再び向けられて、快斗は慌てて姿勢を正す。青みの強い綺麗な眼。じっと見てくる視線に心臓が高鳴りだすのを誤魔化すように、快斗は不必要に大きな声で名を名乗った。

「俺、黒羽快斗ってんだ!その、君は・・・」
「工藤新一といいます」

ぺこりと上体を屈めて頭を下げる仕種をするから、寝間偽の合わせ目が緩むように広がる。同じように頭を下げた快斗の視界には先程より広い肌面積が見え、思わず動きが止まる。そのまま覗き込むような姿勢で止まる。しかし、相手はさっさと上体を元に戻したので、幸いにも―いや残念にも?それ以上奥は見えなかった。
慌てて快斗も姿勢を正した。

一目見て、こんなにも眼を奪われる存在に会ったのは初めてだった。


*** ***


「本当に良かったのかい?快斗」

ボンヤリ窓の外を眺めつつ、心は今日の出来事をひたすら反芻している快斗は、隣からの問いかけに「うん・・・」と何ともボンヤリと返事をした。

「結構面倒な依頼だと思ったがね」
「あー、うん・・・」

『悪いな、いきなり変な頼みごとしてさ』

申し訳無さそうに眉を寄せる顔に、慌てて、首を横に振った。
彼にそんな顔をして欲しくなかった。
快斗にとって、彼の申し出は、彼が口にしたというだけで引き受けるのに十分な条件だった。内容なんてどうでも良かった。―というか、正確な所を実は把握していない気がする。快斗の頭には今日脳内に焼き付けた彼の姿ばかりが浮かんでいた。

「つっか、親父だって、そのつもりで俺連れてきたんじゃねぇの?双子で似てるからって」
「本来は単に顔合わせが目的だったがね」
「なー、マジであの人って俺の兄貴になるんだよな?」
「ああ。間違いなく私と千景の子さ。お前と同じに」


そう、今日快斗が突然父に引き合わされたのは、なんと双子の兄という人物だったのだ。
本当なら二十歳になった時に再会するようなセッティングを各親は思い描いていたらしいのだが、『兄』の緊急事態によって、衝撃の再会は前倒しになったのだ。
突然のドッキリにしては手が込んでいるし、不思議と快斗は一目で新一なる人物が気に入ってしまったから、割とスンナリと事態を受け入れる事が出来た。

『あんまり、似てない?』
『・・・ですね』
『二卵性だからかな?でも、並んでいると同じ空気を感じるね』
『なー、ってことは誕生日が同じ?』
『僕は5月生まれだけど…』
『え!?俺6月だぜ!?』
『・・・少し、事情があってね。そもそもソレがきっかけで、彼は工藤の家の養子になることになったんだよ』

二卵性双生児。
赤ん坊を包む被膜、母体と繋がる胎盤自体が別々にあって、同時に二つの生命が存在する胎内で、片方の生育が悪いと言われて踏み切った別々の出産。それは、未成熟ながら発育が良く肺呼吸が可能な方を先に取り上げ、もう一人を胎内に残す形で行われた。先に取り出された未成熟児よりも更にずっと未成熟なもう一人が、少しでも長く母体から栄養が受けられるようにと。
絶対安静を医師に指示された夫妻は、先に生まれた赤ん坊の世話を夫の弟夫婦に頼み、一月が過ぎた頃に、もう一人の赤ん坊が生まれた。―そして、先に生まれたその子は、そのまま弟夫婦の養子へとなったのだ。
そんなことがあったのがかれこれ17年と少し前。

新一も初耳のことだったのか。快斗と同じく『出生の秘密』を黙って聞いていた。

「マジでさ、あの世界的有名作家って・・・俺の叔父にあたるわけ・・・?」

本日出逢った少年もさることながら、突然知らされた己の家の親戚関係もまた、快斗にとっては衝撃的事実だった。

「私も最近会ったのは、七年ほど前になるがね」
「・・・え」
「まったくクリスマスカードも、渡米の知らせもしてこない困った弟だよ」

まさか仲が悪いのかと、快斗が漸く父に目を向けると、ハンドルを握る父親は小さく笑いを口元に浮かべていた。

「覚えているかな?女優からのインタビューに、君も付いてきていた筈だが」

言われて、すこぶる回転の良い頭脳内を検索すれば、大した時間もかからずに『女優』『インタビュー』『親父と一緒』に当てはまる相手が記憶から現れた。

「あ・・・!そっかあの人が―」

とても綺麗なオバサンに感動し覚えたての花マジックを捧げたら、怒りのオーラを押し殺した笑顔で受取られた思い出が甦る。ちょっとだけ怖かったが、軽やかに父と会話する楽しい人。一世を風靡した麗しき大女優。思い出にあるその人は、美しく天真爛漫な笑顔を持つ優しそうな姿をしていた。
そして、確か―『ウチにもこの子と同じくらいの子供がいるけど、本当に面白くて可愛いわ』『元気一杯なの』『身近にいる誰かさんの影響で小説ばっかり読んでるんだけど』
・・・アレは、快斗と同じ血を引いた兄弟についての言葉だったのか、と時を越えて快斗はその事実を知る。

「男親は、実際に子を産み、育てる女性に言われるがままさ。しかし、彼女達の仲は良好だ。滅多に互いの家族が顔を合わせない距離に互いを置いたからこそ得られた結果だろう」
「・・・それにしたって」
「最も信頼している相手だから、己の分身ともいえる我が子を預けることができたのさ、私も彼女も」
「でも、」

生まれながらに共に在れた筈の存在。
今の今まで、その存在を知らずにいた事実は、快斗にとって悔しいような残念なような。なにしろ今日逢えたばかりというのに、快斗は『工藤新一』に対して、ずっと逢いたかったような、ずっと傍に居たいような、何とも恋しい気分を抱いていた。
―引き離さないで欲しかった、と思ったのだ。けれど、赤信号に車を停止させた父親が向けてきた眼に詰るような言葉は吐くことは出来なかった。

「優作も有希子くんも。勿論私も千景も。君とあの子をとても大切に想っている事だけは疑わないで欲しい。君たちを引き離した勝手な大人の言い分にしか聞こえなくとも」
「・・・ごめん」

快斗の両親にも、彼の両親にも様々な葛藤と遣り取りがあって。その全てを飲み込み、双子を別々の世界で育ててきた時間を経て、今の二つの家族が在るのだ、と。奇術師が滅多に見せないポーカーフェイスの奥の真摯な瞳に快斗は小さく謝罪を込めて肯いた。


*** ***


綺麗に装飾を施された花の姿を指でなぞる。ガラスケースのひんやりした感触が心地好い。趣味も品も良い、心遣いの感じられる品だな、と新一は思った。

「いるかしら?」

不意にガラッと開かれた扉に目をやる。
「ああ」と応えると、新一と同じ年頃の白衣を着た女性が、カルテをめくりながら、新一が座るベッドへと歩いてきた。そのまま幾つかの問診をし検温をして、手早く診察を済ませると、まじまじと新一の顔を見てから呟いた。

「思ったほど似てなかったわね」
「ん?宮野、見てたのか」
「ええ、帰りがけに詰め所に声をかけてきた時に少しね」
「似てない、か?」
「二卵性だからかしらね。面白い顔の子だと思ったわ・・・あら、不満?心配しなくても貴方も彼もタイプは違うけれど、どちらも良い男よ」
「ちげーよ!」

小さくむくれたのを笑われて、新一は一層不満な顔をした。
それから、そっと自分の頭に手をやる。

「俺は、似てる気がしたんだ」
「そう・・・かしら?まぁ、似てなければわざわざ小芝居を打って、感動のご対面なんて演出は必要ないものね」

ぱちぱち、と小さな音がした後、ズルッと黒髪が新一の手の中に納まる。少しばかり蒸していた頭を振ると、後頭部のクセッ毛が跳ねた。

「似てる、つぅか、・・・近い、気がした」
「・・・双子のシンパシー?魂の共感かしら?リアリストの貴方でも同じ腹から生まれた相手には説明の付かない感覚を抱くものなのね」
「うっせー」

結構高価な自然の髪質に見えるウィッグは、女優をしている母親の衣裳部屋から拝借したモノ。99パーセントの真実に1パーセントの虚偽を紛れ込ませるのが見破られない嘘の付き方―とは、いつ読んだ本の中に書いてあったことだったか。この程度の見せ掛けの変化で同情を誘えるなら儲けもの、くらいの気持ちで取り入れた演技は果たして、母親の変装の師匠という奇術師には通用したのだろうか。いや、そこは別に良い。見破られていても、きっと彼は要らぬことを口にするような人ではないと思えた。何しろ、新一にとって血の繋がった父親であるらしいし。実感はあまり無いが。とはいえ、同じ『息子』のどちらかを贔屓するタイプには見えないかった。―新一の育ての親と同じに。

とにかく、必要なのは、新一と同じ年恰好の、新一のフリをすることが出来る人物の方なのだ。父親のもう一人の息子の方は―実の弟は、新一の言葉にすべて首を縦に振っていた気がする。いや、時折横にも振っていたが、それは新一の「駄目かな?」という消極的な願いの言葉に「駄目じゃない!」と否定の形の肯定をくれた時だけだ。

「とにかく、協力の約束は取り付けたぜ」
「ロスから日本くんだりまでやってきて、影武者立てて探偵活動、なんて…ご両親が知ったら何ていうかしらね」

呆れた声音と溜息に、新一はフンと鼻を鳴らす。

「病院に軟禁しようなんて手ェ使おうとすっから、こっちも切り札切るしかなくなるんだろ」
「・・・帰国早々に事件に巻き込まれた挙句に怪我して入院。大人しくしていろっていう保護者命令を聞かず、ちゃっちゃと生き別れの兄弟を探し当てる・・・そしてまた探偵しに病院を抜け出そうなんて。まるきり探偵馬鹿だわ。いえ、もう貴方がイコール探偵なのだとしたら、貴方に『探偵』とつけるのもおこがましいわね」

「―おい、それ馬鹿しか残ってねぇじゃねーか。にゃろぅ」

―まぁ、なんとでも言えば良い。
ロスにて『探偵』を名乗り、この度日本へとやってきた少年にとって、生き別れの兄弟との対面すら、彼の探偵としての道具に過ぎない、と考えていたのだ。

しかし。

まさか、感動の再会に感極まった―せいで色々極まったらしい実の双子の弟に求愛される未来が刻一刻と近づいてくるなどとは、探偵の慧眼を持ってしても予測しきれることではなかったのである。






***(ひとまず)(無理矢理に)幕 




〜ある夫妻の夜の寝室にて。


「ねぇ、あの子達どうだった?」
「人間を形成するのは環境だ、という事を確信したくらいかな」
「・・・ということは、あの子」
「実に優作の息子、有希子くんの息子、といった具合だねぇ。良い女優にも物語を紐解き謎を推理する人間にもなれそうだ。例えば、『探偵』を目指すには最高の素質だね」
「まぁ・・・じゃ、アノ子は?反発でもしたかしら。謎を作るが好きな子だから」
「いいや。すっかり兄の存在に心酔しているかな。まるで一目惚れでもしたかのように、とても物分りの良い弟になっていた。・・・とてもね」
「あら」

我が「実の」子に引き合わせたときの、我が「育ての」子の姿を思い返し、盗一は苦笑を浮かべた。
ある日海外の仕事先に突然送られてきたFAX。送信元は日本から、送信者の名前は―・・・。
盗一が無理矢理に仕事の都合を付けて、我が家へ帰宅する前に会いに行ったもう一人の「実の」息子。彼は、殆ど初めて会う「実の」父親の前で臆することなく、彼の要望を伝えてきたのだった。
―彼が依頼されたのは、兄に弟を会わせる事だけ。後の交渉は全て「上の」子任せ。

『俺のフリをして欲しいんだ』

そう言った言葉の裏に、情報収集の一環でとっていた某国の新聞に時折載っていた「D・S・KUDOU」―Dは、 Detectiveの略だ―が脳裏に浮かんだが、盗一は沈黙を通した。どちらも間違いなく我が子なのだ。これは静観するのが親の役目と、ポーカーフェイスを崩さないようにするのは骨が折れた。肩が震えていなかったか心配になる程度に。笑いを堪えようとすると、腹辺りから振動が起こるものだ。

「従順に、利用されても気付きそうにないくらいには、兄上が気に入ったようだよ」
「馬鹿なのねー」
「まぁどっちもどっちだろうな。―おそらく」

双子が並んでいる所を見るのも、17年ぶりになるのか。
二人の物心が付く前に、敢えて没交渉の関係を示し合わせて別れた時、確かハイハイまではしていた。部屋の隅と隅に置いてやると、傍に玩具があっても二組の親が呼んでも、あっという間に部屋の中央に向かって進んで二人でじゃれあうのだ。
今日久しぶりに目にした二人も、あっという間に引き合ったように思う。磁力は幾分か上の子の方が大きいようだったが。

本当は一緒に育てるつもりだった二つの命。しかし、先に産んだ子は、母親が抱き上げる暇も無くNICUへ連れられ、彼女自身も絶対安静の管理入院の下に置かれて。まだお腹の中で必死に生きようと母体と繋がる命を抱えていては、顔を見ることもロクに叶わなかった。忙しい仕事の合間に入院する母子への見舞いや世話をと、夫は何とかこなしてくれたが、直ぐに寝不足から病院の椅子に座った姿で寝込んでしまうようになって、―夫婦はある決断をした。
信頼していた夫の弟夫婦は本当によくやってくれたと思う。
彼女ともう一人の子の入院期間は長く、保育器から赤ん坊を抱き上げて病院から出れるようになるまで半年近くの時が費やされた。

―その間に情が移るのは自然な事だった。まして、弟夫婦は「ずっと恋人同士みたいじゃない?」と言いながら、子供が出来ない事を深く悩んでいたのだ。
母子が漸く退院して、先に病院から出ていたもう一人を迎えに行った弟夫婦のリビングで、初めて並んで転がる二人の男の子。泣きもせずに互いを見つめ、小さな小さな手を互いに握ったり「あー」「ぶぅ」とまるで会話するような声を立てるのは、とてもとても可愛くて。―それは、弟夫婦も同じ気持ちだったのだ。

「あの時の判断、良かったわよね?」
「勿論さ」
「絶対、有希ちゃんと優作くんなら、大丈夫って思ったもん」
「ああ、とても良い子だったよ。実に―面白く育ったと思う」
「面白さなら、快斗も負けないわね」
「そうだね」

18も近くなれば、殆ど成人と同じ扱いだ。彼らは彼ら同士で、これからの関係を築いていくのだろうな、と話をして、夫妻は寝室の明りを落とした。




さて再会双子の今後は如何に





尻切れトンボ感一杯でスイマセン!
いつか事件編も・・・とは思いつつ。
これにて。

リクエスト有難う御座いました!


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