*多分僧侶系神職。 *色々曖昧表現過多。 *沖矢さんは行間で絡んでるんじゃないかと。 *リクエストに無いパラレルと年の差要素発生。 *注釈・別当=何か偉い人=沖矢さん 以上を踏まえた上で問題なければどうぞ! 【bl】 酒に酔う―その酩酊感が、心も身体も浮遊するような心地を齎し、様々な鎖から解き放たれたような解放感を与えてくれる、と知ったのは何時の事だったろうか。 我に返った時の汚辱に塗れた姿が朝にやってきても、素面で望まぬ快楽を押し付けられ高ぶらせられるくらいなら、己の正体をなくし、己でないモノとして己を見て、その中に身を投じてしまうほうが楽だった。悪夢。長啼き鳥が呼ぶ頃その残滓が身のうちから溢れてきても、記憶が朧であればアレは悪い夢だったのだと曖昧に思っていられたから。 それでも身体に植えつけられた性の悦びは枯れることなく、呼び水となる刺激を与えずとも時に勝手に理性を喰らって暴れ出した。この時ばかりは、ひっそりと酒を口にし処理してしまう。そんな夜もあった。 ―だから、今視界の下、勝手に身体を弄繰り回す男の言葉は殆ど図星であったのだが、易々とそれを認めることは出来なかった。 「物足りないでしょう?幼子との暮らしでは」 「な・・・にが」 着物の合わせ目からするりと忍び込んだ指は、あまりに正確に彼を追い詰める動きをするから、酒精に浸された身体は簡単に熱を孕み始める。 「君を此処に呼んだのは久しぶりなのに、相変わらず…とても、良い」 「・・・っ、あ、あぁ」 言葉と、指先と。 過去において、散々にそれらに苛まれていた記憶は、頭ではなく肉体のほうに蓄積されているのだと思い知る。 「それとも、あの少年・・・君曰く『門前の小僧』に慰められているのかな」 「アイツは、関係な・・・う、るせっ」 「いけないね。上の者への礼儀を欠くのは悪いことだと教えただろう?」 挑発し、揶揄する手管。 ―お仕置きが必要だね そう言って笑うのは、今目の前にいる男なのか、過去に記憶している男なのか。酩酊する彼には、判断が付かなかった。 *** *** 「酒を召されてきたのか」 快斗は彼から漂ってくる匂いに顔を顰めた。 「口をつけた程度さ。別当から勧められたら断れないんだ、下っ端は」 「そも会合など滅多に出ないくせに。酒が振舞われるから、珍しく出向いたんでしょう」 「聡いな」 「褒められても嬉しくありませんよ。さ、召し物を代えましょう?住職。お酒零してきてませんか。結構匂います」 呆れ顔で身だしなみを整えようとする少年に、住職たる彼は凭れかかる。これは余程酔っているのかと、少年は溜息を吐いた。―そして、吐いた吐息の代わりに、彼の纏う空気を吸い込んで、そのもわりとした酒の芳香にううぅと呻いてしまう。ようやく14の年を数える少年には、この匂いを纏わせてよい気分で目を閉じている年上の男の気がしれない。 「清拭の用意をします。それとも、湯を?」 「え、面倒。もう寝たい」 「駄目ですよ。寝具に匂いがつきます。せめて、着替えを」 「えー」 面倒だ、面倒だ、と駄々をこねるように凭れた肩口に頭をぐりぐりと胸に押し付けてくる男に、少年はイラッときた。 まったくだらしない。 「脱がすよ、新一さん」 なので、尊じる呼び方ではなく昔からの呼び名でそう言う。すると、むぅむぅと目を頑なに閉じようとした男―新一が、ぱちと目を開いた。 「お、珍しく呼んだな、快斗」 「アンタがだらしないからだ。ったく酒が入ると駄目だよな」 「うめぇもん、こんな貧乏寺じゃ滅多に口に出来ねぇしさ」 「そりゃ、檀家増やすわけでもお布施増やそーとするわけでもなく、名ばかりの寺って看板つけてるだけじゃ、金も供物も集まんないだろ」 「それでいいって言ってるじゃねぇか、オメー」 「勿論、いいよ?俺はね」 貧しいくせに、困っている人間を見捨てて置けないこの寺に住まう住職に救われたのは快斗の方だから、彼の生き方ややり方を非難する気など毛頭ない。 けれども、もう少し生きやすいように、賢く立ち回れないものかと時々思ってしまう。しかし、いや本当に賢しかったら、快斗を引き取ることなどしなかったかもれない、とも考えられた。器用そうでいて、面倒臭がりの不器用な優しさを持つこの人だから、快斗が傍にいることを許してくれているのだ・・・と、思うと彼は彼のままでいてもらわなくては困るなぁと思うのだった。 「新一さんの傍にいられるならいくら貧しくても我慢きくけどさ。酒は出てこないぜ?」 「・・・んんー、作る?」 「それ、禁止のお触れが出てただろ」 「こっそり」 「寺の看板没収されたらどうすんの」 「それはそれで」 「墓は?ここってどうなるわけ?」 「本寺から誰かくるだろ」 「したら、俺たち追い出されるじゃん。そうなったらヤベーつって、会合に行ってるんだろ?」 「あ。そいうやそうか」 全く酔っ払いはこれだから参る。 あれ?と頭を傾げる大人にぞんざいに対応しながら、快斗はとにかく酒臭い服を脱がそうと帯を緩め、着者の袷を開こうとした。 ―と、その時隙間からぽろっと金子が転がり出てきたものだから、快斗はぎょっとした。 「何、どしたのさ、これ」 「おー、お土産」 「いやいや」 「ああ、大法要依の稚児祝宴のな」 「は?!それで金子だの着物振舞われるのはお稚児だけだろ…って、まさか」 「別当に言われたら、な」 断れ切れないのだ、と彼が言ったものだから、快斗は怒りと呆れで頭が真っ白になった。 ぐっと着者の袷を開いて、その奥へと鼻面を突っ込んで、匂いをかいだ。 とんでもない酒臭さに隠れて、生臭い青臭さが残っていた。 「なんで?!勧行受けること無いから、もうアイツらの相手はしないって!」 「・・・仕方ない」 「だったら!最初から行くことなんか!!」 「行かないと寺主失格って書面が来たからな。主無し寺って言われたらここ取り上げられるかもしれねーし。稚児行列があるってのに、俺は一人だったからなぁ」 祝宴を取り仕切るのが、あの別当だったことも災いした。名を沖矢という。人の良い顔をし柔らかな言葉と顔を使って、えげつない要求をしてくる人間。とうに稚児なる歳から離れた彼に対して『私の後ろに立って頂きましょう。衣装なら少し大きめのモノがあります。寺主役は十分な数がいますから。稚児筆頭をして頂き、その分謝礼をお渡しします―』法要依には各寺が大寺院へ寄付を納めるのが通例だが、彼の寺にはそんな余分な金はない。そもそも出席したいとも思っていないから居ない者として扱われる気でいた。それなのに、まさかの指名と、役目。あげくに施しをくれるのと言うのだから、本当にえげつない男だった。 「・・・なんで、俺連れて行かなかったんだよ」 「オメーは預かり子だ。稚児じゃねぇ」 「俺はここの寺小僧って、やつなんだろ?」 「門前の寺小僧、な」 くくっと笑う顔は、幾つになっても美しい貌をしている。 快斗を拾ったとき、この人は19の年だったと聞いていた。17の時に流れ着いたこの村に成り行きで居ついて、この庵で勝手に「住職」を名乗っていた。いや、周りが勝手にそう呼んでいたのだとか。 だが、借り住んでいた庵の本来の管理者である本寺の人間がきた時、何がしかのやり取りがあって、そこで彼は本当の「住職」になる修練を受けたのだ。ちょうど快斗を拾い、抱え込んだときに、彼はきちんとした身分を手にする決意をしたようだった。 つまりは、―快斗の、ために。 「何人?どんだけ、相手してきたの」 「―別当だけさ。酒を馬鹿みたいに注がれたが、飲み干して帰ってきてやった」 酔わせて、乱れさせたやろうとしたのを、振り切って。 泊まりを言い渡されたが、役自は果たしていたから無視した。 「やめて、って言ったじゃねぇか」 「もう、ない」 「・・・うそ」 「ホントだって。次の大法要依があの本寺に回ってくるのは13年後だ。さすがにその年じゃ、稚児衣装は着れねぇし」 「・・・・・・」 「お前が門前じゃなく寺修行に入りたいなら、あと一年待てよな。そうすりゃ夜伽役が課せられることもない」 「だったら、なんで。新一さんだって、修行に入った時とっくに元服の年過ぎてたじゃねぇか」 「寺主の位階を一番手っ取り早くくれるって言われたからなぁ」 「そんな、の」 「ここの寺領の作物は採り放題、寄与は薄くとも村人からは弔い手としての敬意を寄せられ、寺主通行証で境への行き来は隠密路を使わなくても自由だし。・・・お前も安心して暮らせるなら、俺としては多少の対価を支払うくらい何でもないさ」 本当に何でもないと笑いながらの言い方に、堪えられない苛立ちが沸く。まるで己の身体など無価値であり意味もないような。弄ばれるように扱われても、どうでもいいような―否、そうじゃない、と快斗は目を伏せた。 この場所を守ろうとしてくれているのだ、この人は。 曲がりなりにも【住職】と呼ばれた彼が、これまで弔ってきた誰かの為に。 盗人の子供と石を投げられ村を追われて、行き場を失くした快斗の為に。 通行証の恩恵は捨てがたいと笑い、実際月の半分は世俗の不可思議を追いかけて山を降りてしまうのだけれど、快斗が案じる頃には必ず戻ってきてくれる。 「お湯、用意する。洗わせて」 「だから、面倒だって」 「嫌だから。俺が。新一さんに、こんな誰かの匂いついてんの。すっげー嫌」 きっと、神職に就くには相応しくない目をしているだろう、と快斗は思う。私怨と欲に塗れているに違いない。だが、それこそ誰よりも綺麗で仏のようなこの人を穢す人間が、彼の格上に在るというなら、所詮人は人でしかないと言っているのも同然なのだ。神に仕えると言いながら、神に作られし人を従えて傲慢に在る。 「嫌か?」 「嫌だ」 なにを当たり前のことを。 即答する快斗に、彼は面白そうに目を細めた。 目じりがまだほんのりと赤い。白皙の頬もまた血色が良く、そうかそうかと言葉と一緒に洩れる呼気の酒の匂いは引かない。 ―酔っている。 「・・・だったら、お前が匂いを付け替えてみるか?」 「は・・・?」 「俺が知らないでも思ってるのか?」 ―酔っている、はず。 なのに、快斗を見据える目は、真実を見抜くように煌めいて、少年がそっと心の中で抱いていた欲望を言い当てた。 恩人に対して想うには後ろめたく妄りがましいソレ。高潔という言葉の似合う人への薄汚い感情。そんなものを知られたら、窘められるか、いやそれならともかく、まかり間違って相応の相手を探せる他の村なり山に行けと言い渡されるのを恐れて、悟られないようにしてきたというのに。 快斗は、新一の僧衣を掴む手が震え出すのを止められなかった。 「な、に。違っ、俺、俺は」 「慌てなくていいさ。ここには俺とオメーしかいねぇ」 「俺は・・・ッ、ごめ・・・出てけって、いう・・・?」 「はぁ?」 知られたら、嫌われる。疎まれる。そう思い込んでいたから、快斗は突然の事態に言い訳も出来ず―泣きたくなった。 しかし、対する新一はといえば、毒気を抜かれたようにポカンとした顔。 首を傾げて幼子に戻ったかのように涙すら浮かべる少年を見て、それから、そっと息を吐くと、ぽんぽんとあやす様に快斗の頭を叩いた。 「悪いな。変な絡み方をした」 「・・・しん、いち」 「オメーはどこにも行かなくていい。好きなだけ俺の傍に居ろよ。別に嫌いやしねぇ」 「本当?俺、その・・・確かに、新一さんのこと、変な気持ち、で…」 「変じゃねーよ。快斗がいいなら、俺は構わない」 「いいって、あの・・・俺は、…新一さんと居たい」 「・・・ああ」 笑って肯いてやって、新一は「風呂」と呟いた。 「え?」 「悪酔いしてるみてーだから、やっぱり湯、貰う。・・・用意してくれるか?」 「勿論!」 快斗は新一の着物の袷を直すと、ぱっと立ち上がる。 「そのまま寝るなよ?直ぐに準備すっから!」 カタンと障子の戸が閉じパタパタと足音が遠ざかるのを聞きながら新一は、大きく溜息を吐いた。 「なんだ・・・かわされたのか?いや、思ったより鈍いのか?ああ、くそ」 酒宴の際に半端に昂ぶらせられた身体を持て余して、ついつい最近富みに艶っぽい視線を向けてくる相手を誘った―つもり、だったのだが。 「無理矢理やったら、アイツらと同じになっちまうしなー」 身体の生育に似合わず幼い心は、やはり十の年の前に二親と別れたせいか。始めは親代わりと思い育ててきたのだが、少年が向けてくる感情は、子供染みた独占欲を越えて、色を付け始めている思っていたのに。 「時期尚早ってやつか」 どうにもまだ若い果実を摘み取るには、相手の成熟も己の手練も未完成のようだと溜息を吐いた。 bl ・・・B(ぼうず)L(らぶ) 色々勘違いして盛大に間違ってこの上なく不敬不適切極まりない内容、大変申し訳ありまっせん! 書いてる人間は大変に楽しかったです! 全く何がどうしてこうなったというべき結果ですが、リクエストありがとうございましたー! なお没にした 住職になる前の話はコチラ→ |