「追加メールはナシ、かー」

快斗はパタンと携帯を閉じて溜息を吐いた。



【黄色い線の向こう側】



「あれ?アレって帝丹の制服じゃん」
「あ、あれ工藤新一だ!」
「マジ?」

突然消えてしまった今日の予定を惜しみながら、とぼとぼと江古田の校門を出て歩いていると、同じ方向へ歩いていた同じ制服を着た生徒が面白いもの発見!と言った風に声を上げた。
彼らの後方を歩いていた快斗は耳に飛び込んできた名前に、急いで、彼らに倣って人だかりの出来ている道路脇へ足早に進んで人垣の向こうを見る。
それとわかる制服警官とスーツ姿の私服刑事がまばらに歩き回る中に、明らかにその場から浮いている制服姿が一つ。彼は事故を起こしたと思しき故障車の運転席に上半身を入り込ませていた。学生服である事からして車の持ち主でも運転者でもない。元気そうな様子は事故の被害者でも加害者でもなさそうな雰囲気だ。それなのに厳めしい集団に受け入れられ、彼らと対等に言葉を交わす高校生の図という妙な光景。―だがしかし、学生服に身を包むのが帝丹高校所属のかの名探偵であるとわかってしまえば、途端に不自然さは消え去り、ごく当たり前に周囲は感嘆のため息とともに受け入れられるだけだった。

―なんだ、事件があるからって言ってたけど

現場がこんなに近いなら、「事件今日無理悪い」という8文字メールにもう一言付け加えてくれれば良かったのに・・・と、快斗は思った。そして、黄色地に「KEEPOUT」と書かれたラインの向こうにいる探偵に声をかけようとして―だが、快斗は目の前の光景に一瞬言葉に詰まる。
車から離れ、その傍らに立つ。検分を経て考えるところがあったのか、ジッと車を見つめ、口元に手を当てて立つ「名探偵」の名にふさわしい佇まい。
はっきり言ってかっこいい。
言葉を呑んで見とれてしまった。

「おー・・・なんかスゲェな」
「高校生に見えない貫禄っつーか、前に新聞で見たときはもっとチャラっぽいかと思ったけど、やっぱ真面目なんだろーな」
「かっこいい!」
「やっぱ凄いんだねー、工藤新一って」

野次馬は、事情聴取を受けている一般人や、ドラマではない本物の警察の働きぶりではなく、かの高校生探偵に釘付けだった。そこかしこから密やかな憧憬と賞賛を込めた囁きが沸いている。
周囲の声に、そうだろう、そうだろう、俺の名探偵はスゲェんだよ、と内心で頷く快斗だ。人を魅了してやまないあの彼が恋人だと思うとちょっといやかなり誇らしく思う。けれども、見せ物めいた状態に少しばかりいやこちらもかなりイライラするのも事実。
青い瞳が真実を追い求め真摯にかつとても綺麗に宝石が霞むほどに煌めくことなど、気づく人間は快斗以外いなくて良いのだ。誰だって、あんな綺麗な人を知ったら欲しくなるに決まってる。

誇らしい気持ちに独占欲が勝ち、快斗はさりげなく立ち入り禁止テープの最前に立って、声を上げた。

「新一!」

俯き加減で考えごとをしていた新一は、快斗の呼びかけにぱっと顔を上げた。
それから声の発生源を求め首を振る。

(お、意外に早く気づいたなー。情報待ちって感じかな)

無視される事も予想していた快斗は、反応の良い様子に嬉しくなる。
ここ!ここ!と手を振って笑う快斗の顔を、群衆の中に見つけた新一はふわりと笑った。

「わ、なんか」
「あんな顔するんだー」
「意外にカワイイ?」
「思ったより冷たくない感じ!」

新一の笑顔の後に増したひそひそする声を性能の良い快斗の耳は拾ってしまって、舌打ちしたくなった。
独占欲が出て声をかけた結果、独占欲が刺激されて不快になるとは本末転倒だ。
しかし、かといって、ここで野次馬をしつづけるのも恋人としては不本意な状態である。間を取って、今日の予定を示し合わせるくらいはしておきたい所だった。本当なら江古田の駅近くの本屋で待ち合わせをしていたのだ。

「快斗。今、学校終ったのか?」
「そー。新一こそ、呼ばれて学校抜けてきたのか?それとも」
「学校は終ってる。・・・途中で、変な様子の車見つけちまってさ」

少し申し訳なさそうな顔に、快斗は気にするなよと苦笑を浮かべる。

「待ち合わせは覚えててくれたんだろ。つか本屋越して来てるってことは、俺のトコまで来るつもりだったんだろ?」
「いちおうな。早く着いてたし」

そっぽを向いて適当に言っている風だが、ほんのり染まっている頬の赤さが可愛くて仕方ない。照れているのだ新一は。快斗は嬉しくなってしまう。それだけでドタキャンされた悲しみなどとうの彼方へ消えていくのを感じていた。

「まぁ新一が事件に寄り道すんのは当たり前だし。でもデートのキャンセル入れてくるって事は、すぐ終わりそうにないのか?」
「現場検証始まったのちょっと前なんだ。様子のおかしい車が気になって、覗いてみたら人がぐったりしてて」
「おま、発見者かよ!」
「ん?ああ。命は助かりそうだぜ」
「・・・ご苦労様っす!」

彼の、事件に遭うのと同じく、人を救うという宿命のような、特質というか体質?は、日常の行き帰りの中でも当たり前に発揮されていて、その天使のような所業に敬礼を贈る快斗だ。
デートの予定が消える代わりに、誰かの命の炎を消さずに済んだというなら、幸いの重きが人命にあるのは言わずもながだった。

快斗が、かの高名な名探偵とお付き合いを始めてかれこれ半年ほど立つが、彼の事件最優先の態度は付き合う以前からなんら変わらない。そういう部分を含めて惚れたので、たとえデートがお流れになっても、仕方ねーな、と彼の揺らがぬ探偵としての姿を誇らしく思うのが半分、あとは半ば諦めの境地である。
何でも見通そうとするあの青い瞳も、事件や怪盗を追いかける身体も、他者を害した犯人を許さぬ気高くある精神と、そのくせ謎を解くために障害となるなら法すら蹴り倒して突き進む姿は全く快斗にとっては興味が尽きず時に眩しくもあって、愛すべき彼の在り方なのだった。

とはいえ、せっかくお付き合いをする関係になったのだから、別々の学校で過ごした後は(今日の所はデートはともかくとして)一緒に過ごしたい、というのが快斗の本音だった。
事件が片づくまでどこかで、何なら彼の家で待たせてもらおうか、と提案しようと口を開く。

「しんい」「工藤くん!」

だが、その声が途中で遮られた。
車を検分していた鑑識員と思われる青いジャンバーを羽織った男が新一を呼ぶ。即座に新一は「悪ぃ、じゃあな!」と快斗に告げると声の主の方へ走って行ってしまった。

「早いぜ名探偵・・・」

事件を前に、有力な情報ほど魅力的なものもあるまい。解ってはいたが、振り返りもしない相手につれなさを感じてしまう快斗だ。じっと背中を見てそれが向かった先にいた人物も視界に入った。

「・・・トメさん、って人じゃねーよな?」

ジャンバーと同色の帽子を目深にかぶっているが、スッキリした顎のラインや肌の感じからして若い。背は快斗よりも高く180センチはゆうに越えているだろう。顔は見えないが、イイオトコの雰囲気がある。

「ちょ、なんか」
(近いって!)

捜査上の秘密を保持する為にだろう。彼らは顔を寄せて密談の形を取る。背の高い鑑識の男のほうが背中を屈めて新一に近づき、口元で手の衝立を作る。新一も自然、その衝立の中に進んで顔を近づけた。
二人の距離は今、男の手のひら半分程度しかない。

「息かかる!かけんな!吸うな!」

もしかせずとも事件に関わる重大な用件を話し合っている、という図なのに、快斗の目には恋人が見知らぬ男とそりゃもう親密に密談している図にしか映らなかった。
べつにこんな光景はこれが初めてではないはずなのに、妙に心がざわついた。
相手が青いキャップを目深に被っているせいでよく見えないが、アレは絶対に新一の顔を至近距離で鑑賞しているに違いない、と快斗は思う。
少しのやり取りの後、新一は再び車に近づいて再度検分を始めた。すると男は場所を新一に譲るように動いて、ちょうど探偵の姿を野次馬から隠すような位置に立った。恋人の姿を見えなくされて、快斗の苛々は更に募る。

「なにしてんだよ警察・・・」

「快斗ー、さっきから何言ってんだよ?」

不意に声をかけられ、快斗は声のした方に顔を向ける。野次馬の中に数人いた同じ学校の制服を着たメンツの中に、快斗のクラスメイトの姿があった。

「何だ、オメー野次馬かよ」
「お前だってそーだろ?つっか今の時間・・・掃除当番サボったのかよ。明日中森サンにまた追いかけ回されるぜ!」
「けけけ、平気平気ー。って俺ァ野次馬じゃねーよ!」
「どこがだよ」
「俺のこ・・・いや知り合いが、そこにいるから!」
「知り合い?中森警部いたっけ?」
「ちっがーう!ダチだ。いやダチっつーか、もっと親しいつーか、・・・なんつーか、」

工藤新一が恋人であることを恥ずかしいとも不都合だとも微塵も思っていない快斗だが、有象無象及び新一と懇意にしている警察関係者の前でそれを主張するのははばかれた。
何より数メートル先に恋人本人もいらっしゃるのだ。
ここで場を騒然とさせること請け合いな発言は控えるべきかと快斗は自重する。周囲はどうでもいいけれど、誰よりも大事な恋人が困るような事態を作るのは本意ではない。いや、本意としては、俺の!と周りに知らしめたいのだが、何分、照れ屋な恋人は快斗がそんな真似をしたら、簡単には許してくれない上、下手をすればこの場で強制的に意識のみ退場させられる恐れもあった。―工藤新一の蹴りは大変威力があるのである。

「ダチって・・・」
「あそこ」

快斗の視線を追ったクラスメイトはマジか!と驚いた様子だった。まぁそれはそうだろうと快斗はニヤリと笑う。なにせ相手は有名人。同じクラスのロンドン在住の探偵とは次元の違う名探偵。
小声で工藤との関係を示した快斗に合わせたのか、クラスメイトはそっと快斗の耳にささやいてくる。

「すげーな、工藤新一と知り合いって!なぁなぁ紹介」
「しねーぞ。アイツただでさえ忙しいのに。お前らに捕まったら俺との時間が減る!」
「ん、だよー!少しぐれーいいじゃん。あ、今度E女の子とカラオケしよって話あるんだよ、な、そこに」
「ダメ!」
「もちろん黒羽も来ていいから!」
「行かねーし。だいたい、あの名探偵より美人用意できるわけ?」

眼を眇めてそう言ってみれば、彼はううぅと唸った。実物の麗しさを目の前にして反論など出来ようはずがない。

「紅子さまといい、工藤まで声かけ範囲内とかマジねぇぞ。美人は独占禁止なんだぞ!」
「紅子に声かけたことなんかねーし。工藤は特別なの。独り占めして当たり前ー」

ニッと笑ってやれば頭を小突いてくる相手に快斗はサッと身をかわそうとして、黄色い境界線を越えそうになった。すると、いつのまにか背後から近づいてきていた人物がよろけた快斗の体を黄色のテープの外へと押し戻した。

「こっから先は入っちゃ駄目だよ、君・・・あ」
「すいませ、あ。高木さん!どーも」
「黒羽くんか。そっか江古田だもんね」

人の良い笑顔で話しかけてきたのは、たびたび新一がお世話になっている否お世話している馴染みの刑事だった。快斗が新一とよく一緒にいるようになってから、殆ど必然的事由によりよく居合わせる事が多いこの相手は、すっかり快斗とも顔馴染みになっていた。

「ええ、丁度通り道で。・・・てか一課がお出ましってことは―」
「うん。工藤くんが調べてくれって指定してきた所から、毒物が見つかってね。たぶん本庁預かりになるかな」
「じゃ、工藤は」
「もしかして、約束してた?工藤くんと」
「はい。出来れば早めに返して欲しいっすね」

にっこり笑う快斗に、困った顔で眉を下げて笑う高木刑事。努力するよ・・・と頭を掻いて、そそくさと新一の方へ向かおうとしたのを、快斗は慌てて引き留めた。
言っておかなければいけないことがあった。

「それと!所轄か一課かわかりませんけど、新人教育しっかりしてくださいよ。現場の指揮を高校生が取ってちゃマズイんじゃないんですかー?」
「ええ?!」
「鑑識さん方が調べたことを、警官を通さず「工藤が聞く前」に工藤に教えてました」

そもそも本来(今回は一応第一発見者という関係はあるが)いくら有名な探偵でも「高校生」であり、警察関係者ではない相手に捜査上の秘密を洩らすのはあってはならない事態である。一般人しかも学生、未成年。子供の遊び場じゃないぞとあしらわれても致し方ない身分。
それでも彼が特別に扱われるのは、それだけの実績を持ちながら謙虚に己の分を弁えてその立ち位置を築き上げているからだ。(時に度を越えることがあっても、それこそ法遵守に縛られない自由さついでに若さの無鉄砲さを武器にして立ち回る姿に、口では無茶をするなと叱責を与えながらも、その視線で感謝を顕し、こっそりと人の眼がないところで頭を下げる警官だっている)己の能力を鼻にかけたり、自分自身以外の力(例えば親の力だとか)で周囲を圧すのでは、捜査の主力たる大人達からの本当の協力は得られない。工藤新一は彼自身の力を認められて、警察の救世主と言わしめている高校生探偵なのだ。

―でもさ

「刑事さんが無能だって、内から外から言ってるみたいでしたよ」

にっこり笑った顔はさぞや嫌味に映っただろう。
しかし、高木刑事は苦笑いの、その口の端をひくりと震わせただけで、そそくさと黄色のテープの向こう側へと早足に向かっていった。
そちらに入ることが出来ない快斗は、その背中を静かに睨む。別に快斗は彼の能力を低くは見ていない。何しろ慧眼の持ち主の恋人が贔屓して時に頼っている相手だ。使えない人間を工藤新一は頼りはしない。それに結婚秒読みの彼女もいるので、新一の色香に惑わされることもそうあるまいと安心していられる点も、快斗的には高評価だ。
ただ。まったく、さっさと彼なりその上司なりがこの現場に来ていれば、こんな不快な気分にはならなかっただろうに、という八つ当たり的な怒りが偶々彼に向いてしまっただけだった。

笑っていながら冷たい雰囲気を醸す快斗に、傍に居たクラスメイトはひそひそと「おま、刑事に喧嘩売ってンなよ!」囁いてきたが、快斗は曖昧に肯いただけだった。


*** ***


「あー、ラーメン美味かったー!」
「そーだな。つぅか腹重い」
「あれでかよ?新一のチャーハン俺が半分食べてたじゃん。食細いよな、新一」
「オメーが食いすぎなんだろ。デザートまでラーメン屋でくうなよ」
「だって、うまいじゃん杏仁豆腐」

二人で、夕闇が深い米花の町をのんびり歩く。伸びる影は暗闇と同化する一歩手前だ。
今日は元からあった予定はナシで、急遽快斗が米花町にあるラーメン屋に行きたくなったと騒いだから、夕飯を一緒に食べて工藤宅で終電までの時間を過ごすというプランになった。ラーメン屋からの工藤家への道すがら、他愛ないことを好きな人と喋りながら歩くのは、なんとも心楽しい。
事件に恋人との時間を奪われ、予定キャンセル下手をしたらそのままデート自体がお流れになる可能性も視野に入れていたから、快斗としてはプラン変更くらい何でもない無上の幸せを感じていた。嬉しさを隠さずに、いつもなら新一が近すぎる!と怒って離れる距離へぐいぐい入っていく。時折肩が触れ、殆ど手が触れているような近さだ。だが案外新一はそれについて文句はないようだった。時々落ち着き無くきょろきょろと周囲を見るが、誰もいないと解るとむしろ新一が快斗に凭れるようにしてくる。いっそ手を繋いでしまいたい快斗だが、それにはもう少し暗闇が必要だろうな、と思い我慢した。
快斗がそんな衝動を抑えようと深呼吸をすると、新一がそういえば、と話し出した。


「あのさ、高木さんに何か言ったか?」
「別に?」
「・・・ホントは、現場検証がすんだら、第一発見者としての調書取るって事だったのによ。高木さんがイキナリ帰っていいよって言ったんだ。まぁ発見時の様子と不審点とかは話しておいたから別に支障はないだろうけど・・・お前、何か喋ってたよな?」
「あれ、気づいてたのか?後から来た高木さんには、俺が見たまんまのこと御注進しただけだぜ」
「・・・それは」
「まず、鑑識が新一呼びつける不思議とか。刑事が新一の予断込みで検証結果話すのをウンウン聞いてる所とか。現場指揮がどう見ても高校生にあったトコとかを、俺なりに台詞で端的に」
「言ってみろ」
「警察って無能なの?かな」

にこにこ笑ってのたまう快斗に、新一は大きく息を吐いた。
どおりで、今日の高木はしきりに背後を気にして「ここはいいから!お陰でトリックわかったし、あとは物証が出れば犯人も特定されるし。けど、鑑定に時間がかかるみたいだから、調書も今日じゃなくて大丈夫!容疑者には人を付けるよ!」と迅速に新一を現場から締め出すはずである。

「お前な・・・俺が捜査し難くなるじゃねぇか」
「だってよー」

じっとりを睨まれて、やや分が悪い快斗は口を尖らせた。

「いくら警察関係者だからって、俺より落ちるけどイケメンとか、キッドより劣るだろうけど優男とか、そんなのが新一の傍に近づくの見てられなかったんだっつの」
「・・・?そんなのいたっけ」
「俺より少しばかり背が高かったな。ガタイも良かった。新一の事呼んだ声も渋かった」
「えーと・・・?」
「大体、ソイツが!これみよがしに新一に近づいてさぁ。現場検証結果を警官通さずに新一に直で、しかもあんな近くで話すとか!もう狙ってるとしか思えなかったぜ」
「なにいってんだよ・・・」
「事件のことしか話してないよな?口説かれてね―よな?!」
「バーロ、あるわけねぇだろ。人の命かかってんだぞ」

むっとした気配がしたので、快斗は慌てて、別に浮気を疑うわけじゃないけど!と付け加える。だが、それは逆効果だったようで、新一は歩調を速めて快斗より先を歩き出した。

「ちょ、しんいち」

同じく足を急がせる快斗を振り返らずに、新一は「お前こそ」と小さく言った。

「え?俺が、なに…」
「オメーこそ、同じ学校のヤツと楽しそうにヒソヒソしてやがったくせに」
「へ?」
「俺は必要があって、仕方なく、だ」
「新一?・・・あ、あの」

快斗の直ぐ前を歩く背中は、闇に紛れて見えないなんてことにはならないが、それでも表情の読めない角度と距離は、言葉の真意を判り難くさせる為のものだろう。もっとも、常人離れしたIQの数値・・・よりもずっと、測定不能の快斗の新一への愛情があれば、新一が快斗と同じ不満をぶつけてきているのだと簡単に理解してしまう。
そして、そうと解ってしまえば。

「新一!」
「ん、だよ」
「俺、新一が一番好きだからな!」

欲しい言葉を返してもらうために必要な素直さを示すことに、快斗が躊躇うことはない。
返って来たのは「バーロ」という憎まれ口だったが、ちらっと快斗を振り返った新一の照れを隠したくて隠しきれて居ない威力の無い―いや、ある意味威力はフルマックスな―ぎゅっと眉を寄せ唇を尖らせ視線を彷徨わせる様子は、言葉よりも雄弁に彼の心の裡を語っていた。
快斗は素早く先ほどの新一のように辺りを見回した後、少し前にある新一の手をぎゅっと握った。快斗の手は振り払われること無く、逆に力を込め返してきた新一の手の暖かさや指先の細さを味わった。

「へへ」
「・・・大通りに出るまで、な」
「ん」

互いに完全に機嫌を直したところで、でさ、と念のために快斗は訊ねる。

「あの鑑識野郎って、また会いそうな感じ?」
「どうだろ。所轄の鑑識班の人だったし・・・あ、でも」
「ん?」
「『親父を見習っていつか本庁に行きたいです』って言っててさ」
「・・・へぇ。本庁のほうが名探偵に会えそうだから、とか?」
「変な顔で笑うなよ。そうじゃなくて、多分、親父さん越えたいんだろ。俺も聞いて驚いた」
「って?」
「意外に大きい息子さんがいるんだよな、トメさん」
「ええ!?」

突然出てきた工藤新一が小さな姿をしていた時からずっと懇意にしているベテラン鑑識官の名前に、快斗はその日一番の驚きの声を上げたのだった。









結構強力ライバル予感




↓リクエスト↓
○快斗と第三者のイケメンが新一をとりあう萌えなお話〜。





・・・どう考えてもご希望から的外れ捲くった内容ですっいませんでしたー!
えっと捜査に役立つイケメンに新一が弱かったら快斗的に超心配、辺りから話作りをしたのに、新一はよろめかないわ快斗とイケメン絡まないわの不思議展開。何故か新一が快斗のクラスメートモブに嫉妬でラーメン旨いよ方向に。しかしそんな迷走もどM的に楽しんで書かせて頂きました!

トメさんには、娘さん鑑識官?な説もありますが、ここは息子で。

リクエストありがとうございました!

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