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:01


いつものように気だるい月曜日の朝のことだった。
クラスメイトの団結厚い江古田高校2Bにて、黒羽快斗が、机の周りに群がる友人達に宿題のノートを気前良く見せてやっていると、不意に近づいて来た人物がおはようの挨拶より先に言ったのだ。

「トリック・オア・トリート?」

「へ?」
「あああ、紅子さま!」

さらりと流れる黒髪の耳にかけながら、流し眼を男子の集団へとくれてくるスーパー美人。
何言ってんだ?ああ、ハロウィンか。コイツ自分を魔女だなんだって言ってるもんな、などと思った快斗が口を開く前に、周りの友人達が目をハートにして反応した。

「今日はハロウィンですね、紅子さま」
「紅子さまになら、悪戯でも!」
「いやいやいや、紅子さまは甘い菓子を所望されているんだ!」
「では、これを!!」

快斗の机の上には、宿題の礼として献上されたチョコや飴が並んでいた。
だが、それら全てが掻っ攫われて机の上から消失する。

「え、ちょ、お前ら、それ俺のんだろ!?」
「悪いな、快斗。ノートの礼はまた今度だ」
「昼にピルクル買ってきてやるから」
「まずは紅子さまが先なんだ!お前も男なら判れ!」
「わかんねーよ!俺のお菓子!!」

テメーらもう宿題見せてやんねーぞ、と快斗が怒ったところで友人達は聞いてなかった。「あら、ありがとう」と言われ微笑まれてメロメロになっている。
ふふふ、と笑った後、再び紅子は快斗を見た。

「・・・黒羽くん、貴方は?」
「はぁ?」
「トリック・オア・トリート?」
「って、お菓子なんか持ってねーよ!てか、今お前が間接的に巻き上げたんじゃねぇか、俺のだったのに」
「そう・・・それはとても・・・残念ですわ」

言葉とは裏腹に更に笑みを深くした自称魔女のクラスメイトに、何故か酷く悪寒を感じた快斗だったが、どうせいつもの思わせぶりな台詞なのだろうと気にしないことにする。
週明けに少し早めに登校して宿題を写させてやる代わりにオヤツをゲットする計画を台無しにされ大きく溜息だ。セコイと言う無かれ、頭脳を使うには糖分が必要不可欠なのだから相応の代償というものだ。
それに快斗は今日の放課後、恋人の家でちょっとしたハロウィンぽい事でもしようと計画していた。カボチャのランタンを作って飾ったり、パンプキンな食卓を演出してみたり、もし恋人が親しくしている子供達が家を訪ねて来る予定があるなら、お菓子も必要になるかもな、などと考えていたので、魔女の手に渡ってしまったお菓子が惜しかった。真っ直ぐ恋人の家から登校してきた快斗は、生憎と子供が喜ぶチョコやキャンディを切らしていたのだ。
いやだが、待てよ、とふと快斗は考える。
放課後の待ち合わせで、恋人が―かの名探偵工藤新一が「トリック・オア・トリート?」とか言ってくれたらどうしよう。その場合、お菓子を所持していないほうが色々楽しいに違いない。勿論、快斗としては悪戯歓迎である。出来れば、性的な悪戯が。今朝だって、快斗よりも少し遅く家を出る新一に向かって、「新一もトリックオアトリートしよーな!勿論、お菓子は用意しなくていいから!」と言って登校してきた。玄関で見送ってくれた新一の頬が淡く紅く染まっていくのをずっと見ていたかったが、蹴りが飛んできたので、玄関の扉で防いで出てきたのだ。
そもそも新一は甘いお菓子が苦手だし、快斗とて新一から貰うのならお菓子よりも本人の方が良い。お菓子の補充は放課後のデート(買出し)でも出来るしな。うんうん、まずは新一からのアクションに期待?無理かなー、でも楽しみにしてくれてる筈だよな、ホント素直にそう言わないトコがまた可愛くって―そのまま、快斗はとても良い恋人について思いを馳せだし、へラリと顔を歪めた。

「本当に、残念・・・いえ、楽しみですこと」

だから、魔女がそう背後で呟いた事など知る由もなかった。






:02


なんということだ。


魔女が各地でサバトを行い魔の力が地上に溢れ、死者の魂が現世を漂い生者に混じる今宵。
私にひれ伏さぬ不届きな者であるあなた方に天誅を下して差し上げますわ!

「魔女」と名乗った不思議な衣装を纏った少女がそう宣言し、高笑いを放った一瞬後。
とても現実的ではない現象が、新一の目の前で発生した。

ともに、一体なんだと少女いや自称魔女なる人物を見上げていた(なにせ、彼女は彼らがジャック・オ・ランタンを庭木に吊そうとしていた所にーその庭木の頂上に突然現れたのだ)恋人が、その姿が、みるみるうちに変化していったのだ。

そして。

「わん」

現れたのは、犬だった。

「・・・・」
「・・・わふ」

新一は、消えた恋人の代わりに足下に現れたソレを見て、はくはく、と唇の戦慄かせる。

「・・・っ、か・・・い、と?」

なんとか捻りだした三文字に、目の前の犬は

「わん」

と大変元気よく鳴き声をあげた。


とにかくも、まずは新一は片手で自分の頬を数回たたいてみた。
感覚は、ある。念のため抓ってみると、ちゃんと痛かった。
さらに念のため、両手でパンっと両方をたたく。

ゴトリと笑い顔にくり抜かれたカボチャが地面に転がった。




:03


「どうやったら、元に戻るんだ・・・?」

リビングを落ち着き無く歩き回る事数分。経過したが、解決策はさっぱりと見あたらなかった。
そもそも、普通、人は変身したりしないので。多分、普通の手段ではダメなんだろう、という予感だけはしている。


魔女は、「いい格好ですわ!ホーッホホホホ」との捨て台詞を最後に、高笑いを木霊させて現れた時と同じように忽然と姿を消してしまったのだ。
あ、おい!と新一は声を上げたが、引き留める暇もない。
工藤家の庭には、新一と、一匹のわんこだけが残された。
一体どんなトリックで彼女の姿は消えたのかと、ヘリの存在を確認しようとしたが見あたらず、どこかに潜んだのかと庭中を捜索したが、なんの痕跡も見つかりはしなかったのである。


とりあえず、誰もいない庭から家の中へ。犬も大人しく新一の後に続いた。
犬の種類はコリーに入るだろうか。少し毛の長い大型犬。黒の滑らかな毛質が全体を覆い、腹辺りと足元は白色をしている。体躯はしっかりとしていて、新一の腰あたりまでの上背、尻尾は太く毛がフサフサだ。顔つきは・・・実に、犬だった。
犬好きの新一としては、これが普通の犬だったら、よしよしと腹を撫でてブラッシングの一つでもしてやる可愛さだ。
しかし。
しかしだ。
この犬は先ほどまで、確かに黒羽快斗だったのだ。

―どうすりゃいいんだ、これ・・・

当の本人いや本犬は、じっとお座り体勢で、時々尻尾を上下に揺らしている。部屋の中を歩き回る新一を時々追いかけては、じっと犬自身の足を見たり首をかしげたりしていた。
魔女が消えるまで大声で吠えていたが、今は大人しいものだ。
おそらく犬自身いや快斗自身も戸惑っているのだろう。
尋常ならざる非日常的事態。
そんな事、非でもなくわりと日常茶飯事な探偵であったが(なにしろ彼自身子供に変身したことがある)、流石に現象が現象だ。とにかく、頭の中を整理しよう、と。新一はドサリとソファに腰を下ろした。するとトタタタ・・・と犬―の快斗が、その新一の前に寄ってきた。
ちょうど、膝頭に、犬の鼻面が寄せられる。
とりあえず、撫でてみる。
クゥー・・と喉を鳴らして、犬は眼を細くした。
新一が触れると気持ちの良さそうな顔をするその反応が、あまりに快斗らしい感じがして、ああ、これはやっぱり快斗なのか?と考えた新一だ。

―でも、本当に?
「なぁ、どーする?いや、どうすればいいんだ?あ、あのさっきの女の子、もしかして、知り合いか?」

呆然としつつも、新一は、素早く細密に記憶のページをめくっていて、さっきの魔女なる人物は己の交友歴には存在しない、と確認していた。
そして、彼女の台詞を反芻して気がついた事を、犬に、いや快斗と思わしき存在に向かって提示する。

「ひれ伏さぬ不届き者、って事は、少なくとも、不届きをした過去があるってことだろ?それに、あなた方って彼女は言ったが、俺はああいった人間と関わった事はない・・・こんな魔法みてーな・・・?」

そこで、新一は眼をぱちぱちして、カッと頬を染めて、周りを見渡した。
すぐ側にいた犬が「キャン」と鳴くがかまわずに大声を上げる。

「快斗!!いるんだろ、でてこいよ!!」

そうだ、よく考えたら、そんな事あり得ぇだろ!?と。これは快斗とその協力者に担がれた、と、そう思ったのだ。

「誰に頼んだのか知らねーけど、全く見事な入れ替わりだったよ!ああ、驚いた!これで満足か?!」

ちょっと腹が立って乱暴な言葉になる。
しかし帰ってきたのは静寂だけ。
返事はない。いや、クゥーン・・・と新一の足下で切なそうな鳴き声がしただけだった。
だが、構わずに、新一はもう一度庭木を調べて、カメラか何かないか調べるべく動き出す。いやその前に本人を捕まえてやらなければ。
くるくると犬は新一の周りを走るのだが、あえて視界には入れなかった。
いくら自身が身体縮小だの非現実的な目に遭ったことはあっても、人から他生物への変身だの人間浮遊だのあまりにも科学的でなさすぎる。
「魔法」を認めがたいリアリストが、現実的可能性を探求し出すのは仕方ない姿でもあった。
そして、躍起になってトリックを探し出そうとする探偵を止められる者などこの場には存在しなかったのである。






:04


(おいおい、どーなってんだ、こりゃあ)

快斗は視点がオカシくなった己の体を眺め回した。
毛だ。毛がフサフサだ。
あれ、俺ってこんなに体毛スゴかったっけ?などとは思わなかった。なにせ、体のサイズがおかしい。
快斗の恋人の膝辺りに視点があって、愛しい相手を見上げなければならない状態なのだ。
しかも、手足が、両方とも同程度の長さで、人のものではない手の感覚。地面が近い。部屋の明かりの漏れている場所で確認すれば、やはり手にあたる部分も毛深くてー見たことのある形状をしていた。
犬だ。
犬だろう、多分。
猫にしては大きいし、猿だのゴリラにしては手足が短い。地球上の生物ではないかもとチラッと考えたが、口からでてくる「わん」としか言えない鳴き声に、これは犬だと確信した。

「わふん、ふ・・・」

新一、と呼びかけたかったが、どうしても人語にはならないようである。怪盗キッドが誇った声帯模写能力はこの姿には備わってはいないようだった。
ぐるり、と犬の視界で辺りを見回す。快斗が何度も名前を呼びかけようとした相手は、居間のテラスから庭に出てしまっている。追いかけよう、とも思ったが、おそらく混乱した状態の恋人が目の前で起きた「事実」が「真実」であると飲み込むのにはまだ時間がかかるだろう。
犬の嗅覚を頼りに、自身をこんな姿に変えた既知の魔女を探しに行くべきだろうか。いや、今の新一を一人にしておくのは些か心配である。
それに、箒で空を飛んで怪盗の前に現れるようなあの魔女の臭いを辿る自信もない。
快斗はしばらく考えた後、ある一つの可能性を見つけて、リビングのテラスから庭へと駆けだした。





わん わん わんわん 


「おや?」
「なにかしら?・・・犬みたいだけど」

工藤家に隣接する阿笠邸では、天才発明家とその養女が、秋の夜長の研究の合間に夜のティータイムを取っていたところだった。
遠吠えではなく、近付いてくる犬の鳴き声に小学生女児は眉を顰める。

「庭に入り込んだみたいね」
「どこの犬かのう」

博士は窓辺に行ってカーテンを開けた。

「おや!」

すると、ガチャとガラスの揺れる音がして、大きな陰が目の前に出現する。驚いた博士は手にしていたティーカップを危うく落っことしそうになった。

「あちちっ」
「気をつけて博士。そのカップ、ジノリよ。あら・・・大きな犬ね」
「哀くん・・・カップよりワシの心配は・・・。おお、何かと思えば犬じゃなー。さっきは飛んできたから大きく見えたのかの」

大人の腰辺りから天井へと大きく設計されている窓。
ちょうど女児が外を覗いた視線の先に犬がいた。

「何かしら?見たことないコだけど」

ねぇ、ちょっと。とでも言うように、見知らぬ犬は窓に前足を掛けて、クゥクゥと鳴いている。

「・・・なんだか、開けてくれとでも言ってるみたいじゃ」
「本当ね」

大声で吠えたてたり、庭を掘り返したり彷徨き回るような不穏な気配でもあれば、すぐに保健所へ通報するところだ。
だがその犬のじっと窓の中を―博士と哀とを―見る目は、もの悲しげですらあって、凶暴そうな気配はない。
時折、窓に掛かっている前足の片方が、ノックでもするようにカシャカチャと窓を叩いた。

「博士、心当たりは?餌づけでもしたの?」
「しとらんよ。哀くんこそ、探偵団のみんなとコッソリ飼ってたりは」
「してないわ」

人間の方には心当たりが無いのに、犬の方では明らかに住人に用があるような風情である。
専門分野外の事だとしても、目の前の奇異な現象を観察し推測するのは研究者のサガとでもいうもの。
二人はじっと犬を見つめた。
犬の方は、ますます窓辺の二人に鼻を鳴らすような声や体躯に似合わない小さな鳴き声で存在をアピールする。

「・・・人に慣れているみたいね」
「でも首輪はしとらんしのう」

妙ななつっこさが垣間見える犬の姿。
拾ってください、という押し売りならぬ押し飼われ志願犬のようである。思い切って、博士は窓を開けてみる。

「どこから来たのかね」

窓の外に少し身を乗り出し問いを投げてみた。もちろん返答など期待していない。よく見えない部分にドッグタグか、もしくは耳あたりに個体識別チップでも取り付けられていないか確認しようとしたのだ。
すると、犬は屈んだ博士の白衣に前足をかけると、ぐっと顔を寄せてきた。

「おお!?」
「博士?!噛まれて」
「大丈夫じゃ、哀くん。噛まれてはおらんよ、・・・っうはは、擽るでない、こら!」

ぱっと犬が離れる。
一体なんだったのかと二人は犬を見て、首を傾げた。

「あれ・・・」
「ワシのペンじゃな」
「くわえてどうしようっていうのかしら・・・?」
「遊び道具に見えたのかのぅ」
「ボールの代わりなのかしら」

よく分からない犬の行動に、なんとか理屈の通りそうな理由を考えてみるが、あまりしっくりこない。
犬はせっかく手にした遊び道具を人間に向けて、「あそんで」というアクションを取ろうとはしていない。
それどころか、犬はペンを地面に置いて何度か噛みなおした後、ちろっと傍観している人間二人を一瞥してから柔らかな地面に向かってペンの先を動かそうとした。
その姿に、これは妙すぎる、と哀はハッとした。
まるで、口にしているモノの役割を知っている、という態度。

「博士、紙」
「へ?」
「早く!」

言われるまま、博士はあわてて机の上に適当に乗せていた藁半紙を哀に渡す。哀はすぐにそれを犬の足下に落とした。






:05



「じゃぁ、やっぱりコイツが快斗・・・だって?」
「そうよ。全く、彼らしい行動よね。現実とかけ離れすぎた現状を認識拒否してる相手に、変化した自分以外の人間からの説得を試みるなんて」
「でも、犬だぜ?犬だろ?!」
「ええ。でもホラ、これを見なさい工藤くん」

ひらりと示された紙に新一は目を丸くした。
とてもいびつだし、ブレているし、所々濡れてもいるが、ちゃんと読めた。

【オレ カイト】
【ヘンシン イヌ】

「私と博士の目の前で書くんだもの」
「訓練、とか」
「わざわざ、誰が?それにね、私と博士の質問にもちゃんと答えたのよ、彼。どうも、意識はちゃんと『黒羽快斗』みたいね」

示された紙切れをフルフルとした手で握る隣人に、哀はなんともいいがたい目を向けた。夜中にしては疲れきった姿の名探偵。まだ明るい夕暮れ時、恋人と仲むつまじく買い出しから帰ってきていた彼は、「快斗がジャック・オ・ランタン作って飾るっていうから、夜中窓から見てみろよ」などと言って笑っていたのに。
人体の犬への変身を信じられずに、家中を恋人の姿を求めて探し回りでもしていたのか。
そんな彼を気遣わしげに見上げる犬。―いや、黒羽快斗。

「なぁ、灰原、俺ってかコイツどうしたら」
「知らないわよ」
「っ」
「とにかく、あなたに心当たりがない以上、問題はコチラの彼にあるわけでしょう?」

ちろりん、と少女に目を向けられた犬はキャインと小さく鳴いた。
とにかく意志疎通が何とか可能なのだから、本人も交えて相談をしましょうと話が進もうとしたとき、博士が部屋に飛び込んできた。
手のひらサイズの何かを持っている。

「あった、あったぞい!コレじゃコレじゃ」
「なぁに?博士。何か探してたみたいだけど」
「あ、それって」

「わふふんふ・・・」

「おおー!!さすが、ワシが独自に改良をくわえたメカじゃ!」

目を輝かせた博士が、二人と一匹の前にさっと差し出さしてきたのは、楕円形で一行10文字分程度が表示される液晶画面のついた小型の機械。
その液晶には【バウリンガル?】と表示されていた。

「・・・え、本当に」
「今の、彼の鳴き声がコレってこと?」
「そうじゃろう?快斗くん!」
「わん」
【うん】

猫の鳴き声を人語化するのはにゃうりんがる、だったか。
一時期愛犬家で流行った動物の鳴き声を解読しようとしたアイテムだった。

「さすが博士ね。こんなものまで作ってたなんて」
「ほら、昔新一が言ったんじゃよ。犬と話してみたいってのぉ」
「言った、ような気はすっけど・・・。昔のってもっと適当な玩具みてーな道具で全部デタラメだったじゃねーか」
「それは市販品じゃろう?ワシはもっと正確に言語化するために沢山のデータを抽出して、改良を加えておったんじゃ!」

端から見れば無駄か意味不明にしか映らない発明に、それでも心血を注ぐ博士の編み出す発明品は、一体どんな形で日の目を見るか分からないから面白いのだーと、心から哀は感心して、改良型バウリンガルを見つめる。

「今日の工藤家の夕飯メニューは?」
「わん・・・わんわわんわぉん、わんわん、わん・・・」

三人の視線の先で、液晶画面の文字が流れ続ける。

【えっと・・・ パンプキンスープ グラタン ・・・】

「工藤君?」
「ああ・・・うん」

こっくりと頷く隣人はようやく納得したのか、そっとそっとわんわんと自己証明を鳴き続ける犬を抱き寄せた。
嬉しそうに犬はクゥーンと長く鳴いた。
画面は【しんいちー】とだけ文字が現れた。

(よっしゃ、これで何とか・・・紅子ん家、青子なら知ってっかな。アイツ名簿に魔の祝福を受けし魔女の住処とか書いてるらしいし。とにかく名探偵にアイツの居所調べてもらってそこから直談判するっきゃねーや)

何とか愛しい人に姿の変化した己を理解してもらえて、快斗的には半分くらいは問題が解決したような状態だった。太くフサフサになった首周りに、大好きで大好きで堪らない新一の腕が回されている。

「快斗・・・」

新一が確かめるように呟くから、快斗は「わん」と一声上げて、スンスンと鼻を寄せ(快斗としては口づけの一つも贈りたかったのだが、生憎と犬の顔面は鼻の方が大分突出していて出来なかった)そっと頬ずりをする。元より犬が好きだという快斗の恋人は、抵抗無くその仕草を受け入れてくれて、擽ったそうな顔をした。戸惑いはまだあれど安堵も混じった笑顔に、快斗もまたホッとする。

「―よし。まずは、さっきの魔女って女の子のこと、聞かせてもらうぜ」

スッと顔を上げた新一の顔は「名探偵」のものだった。

「わん!」
【おう!】

だが、次の瞬間、快斗の視界は暗転した。









続!







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