■お年頃B■ −日毎秘事− 「痛い?ごめん、も少し…慣らそ」 何度愉悦に押し上げられ気をいかせたか分からないのに、まだそんな事を言われて、コナンは泣きたくなった。 もはや愛撫ではなく拷問にさえ思えてくる。 気持ちは良い。 確かに男のときとは違って、少し時間が立てば直ぐに身体は与えられる快感に応えて無尽蔵に疼き始める。 しかし、決定的なものが足りない。 コナンは知っているのだ。 身体の中に相手を―快斗を迎え入れて共に達せ無ければ、いつまでたっても満足できない、と。 ―コイツはわかっているのだろうか。 確かに今の身体で受け容れたことはない。けれども後ろの奥にある箇所で何度も快斗を感じていたこと、繋がる幸福感に何度も酔いしれた過去があるのに。 羞恥すら麻痺するほどに開かせ続けた脚の間に顔をうずめ、またもくちゅくちゅと舌先と指で狭い箇所を攻略しようとしている快斗の揺れる柔らかな髪の毛を苛立ちに任せて引っ張ろうとしたが、さんざん一方的な愛撫で身体が痺れているコナンに出来たのは震える手で撫でるような仕草を返すことだけだった。 暫くして、またも嬲らている箇所から全身に広がっていく甘美な快楽の波を感じてきたコナンは、強請るように擦れた声で快斗を呼んだ。 「ぁ、ん…やぁ、快斗かい、と」 「ん…二本目が、やぁっと少し、ね。奥に入ったぐらい…痛い?」 ぶるぶると力なく首を横に振ってコナンは、もういいからとくいっと髪の毛を引いた。 快斗は一瞬顔を上げてコナンに笑いかけると、「ちょっと試すね?」と言って濡れた秘部へインサートするための体勢を取った。 けれど。 ―結局、この夜も快斗はコナンの中には入らなかった。 *** *** 「…と、いうわけなんだが」 「…そ、それは…深刻ね」 灰原哀はつい先日の己の心広い発言を、現在進行形で心から悔いていた。 言わなきゃ良かった!と頭を抱えて後悔したかったし、あの迂闊な発言を無かったことにしたかったのだが、彼女を頼って、漸くに物憂げな重い口を開いてくれた相手を無碍には出来なかった。何しろ灰原は彼―いや彼女の相談には何でも乗ってあげるわよと明言していたからである。 灰原の前にいるのは、江戸川コナンという青い大きな瞳とその眼を覆う黒縁眼鏡が特徴的な非常に可愛らしい女子高生である。 灰原は彼女の隣人であり、同じ高校に通う同級生であり、彼女の人生のフォローに一生を捧げている運命共同体であった。 「だから、医療的に何とか…」 「待って!それはまだ駄目よ、江戸川くん」 「でも、俺これ以上アイツが辛い顔すんの…」 「馬鹿ね。辛いのが貴女だと思えばこそ、彼は辛いのでしょう?」 「…そう、か」 「痛いのは仕方ないってわかってるんでしょう?」 「そりゃ、そうオメーが言ってたし…まぁうん、覚悟はしてたけどさ、でも」 アイツが途中でやめるんだから仕方ねーだろ、と言われて灰原はここにはいない奇術師の顔を思い浮かべうんざりした。いったいどこまでこの相手を大事に思っているのだろう。 どうぞと言われているなら、好きにすればいいのだ。それを彼女も望んでいるのだし。 「いいわ…私がちょっとあの人に話してみましょう」 何よりも江戸川コナンという彼女を大事にしているかのハートフルな人物は、十分に彼女を任せるに信頼に足る人間であり灰原としては決して嫌いではない。 今まで散々我慢をし、更に現在進行形で勝手な我慢を重ねている姿には憐憫の情さえ沸く。 (仕方ないわね) 主治医の厳命を遵守したご褒美に橋渡しの一つもしてあげましょうと溜息を吐いた。 *** *** さて、その日の夕方。 じゃ、ちょっと彼氏を借りるわよ、と言って隣人が快斗を連れ去った。 (正確には、外で快斗を捕まえたらしい灰原から『少し借りるから帰りが遅くなるわよ』とメールが入り、快斗からも『ごめん、ちょっと遅くなるね』と連絡が来た) おそらく話す内容はアレなんだよなー、と思ったら、コナンは自分で彼女に相談したのにソワソワモヤモヤ落ち着かない。 一体どう快斗に伝わるのか、と思って無意味に部屋の中をグルグル歩き回る始末だ。 「あー!駄目だ。何か別のことやろ…すぐ、帰ってくるかわかんねーし、飯の支度でもすっか」 そうして、快斗が帰宅してきたのは、丁度夕飯が仕上がってダイニングテーブルにお皿を並べ始めた頃だった。 「…おかえり」 「ただいま」 コナンの出迎えに、快斗はニコリと笑って「いー匂いがする。久々だなーコナンの手料理」といそいそと台所へと向かう。 「そっか?そうかもな。ま、たまには良いだろ。オメー遅くなるって言ってたから」とコナンはその後を追って。 結局そのまま何気ない話だけをしながら夕飯を終えた。 さらには、「先にお風呂どうぞー」と促されてお風呂に入って。 上がってきたら、片づけを終えた快斗が居間のソファに座って新聞を読んでいた。 少しばかり肩透かしを食らった心地でその様子を視界に捉えながらコナンが頭をゴシゴシと拭いていると、快斗が背後からタオルを取って、ポンポンと水気を拭うように優しく拭き始める。 いつもと変わらぬ姿だった。 「はい、これで直ぐに乾くよ」 「ん、サンキュ」 「で、さ。今夜もいい?」 タオルを剥がして、そう言って快斗が背後から抱き締めてきたので、少しばかり弛緩していたコナンはビクッと肩を竦めた。 ある意味、これもまた最近のいつもの流れではあるのだが。 「ちょっと話したいことあるし。先にベッド行っててくれる?」 「……わかった」 ギクシャクと肯くコナンに眼を緩めた快斗はコナンの耳の近くに数度口付けを落すと「じゃ、お風呂貰な」と言って居間を後にした。 コナンはぐっと拳を握り締めた。 「コナン、その…あのさ、哀ちゃんから話は聞きました」 「…お、おう」 「俺ってさ…そんなに我慢してるように見えた?」 「そりゃ、…だって、したいって言っただろ。それに、オメーのだって」 部屋の電気も消さずに、ベッドの上。 コナンは体育座りで、快斗はあぐらをかいて向かい合っている。 「確かにしてぇよ?でも、コナンが許してくれてるなら、別に少しずつでもいいかな、って考えてたんだ。俺としては」 「でも」 スカートだろうが何だろうが、脚を振り上げ胡坐をかき所謂◎ンコ座りを平気でしていた見た目可愛い女子高生の矯正は、ここ半年の間にかなりの改善が見られている。 日常一緒に居ることが多い灰原が矯正プログラムにペナルティ制度を導入してからは、仕種の一つ一つをハッとして確認(ついでに周囲を見て誰かが見ていないか確認)することが多くなってきた。 お陰で、快斗の密かな楽しみは減ってしまったような気もするが、不用意で無防備な姿が誰かの目に晒されるくらいなら、おしとやかな姿に目を和ませて見守って、誰もいない所で快斗にだけ許された肌を見る方が精神衛生上大変良い。 両脚の膝小僧を揃えて腕に抱えているコナンの姿に、快斗は感慨深い溜息を吐いてから、おずおずと口を開く。 「んー、あのさ。…あー、判る?かな。あのさ、コナンの身体、濡れるのとか大分増えてきたし、その、結構柔らかくなってきてんだぜ?」 柔らかな髪の間に手を入れて一応照れでもしてるのか頭を掻きながら、快斗の呟いた気恥ずかしい内容に、コナンは羞恥心を覚えて耳まで真っ赤に染まる。 ぱくぱくと直ぐには言葉を返せずに唇を動かした後、いやここでダンマリする訳にはいかねー!と羞恥のあまり何処かへ逃げ込みたくなる気持ちを叱咤した。 「だったら!それこそ、さっさと」 「だーかーら、俺は…その、嬉しいし、楽しいんだよ!」 前まではどんなに気になっても色々したくても、哀ちゃんの「無理をさせるなら身体が落ち着くまででもいいから離れなさい」って言葉がチラついて全然手ェ出せなかったトコに、コナンは勿論哀ちゃんのお墨付きも貰って、そりゃヤリたいのは当然だけど、したいけど!どうせなら、最初から気持ちよく出来たほうが身体だって楽だし、初めての経験が最悪だと気持ちはともかく身体が嫌がるようになったりでもしたら、俺はその方が困るわけで・・・。 「楽しい…?」 「えっちは、出来ればその、嬉しい、楽しい、気持ちいい、ってのが重要じゃないかと」 「……」 延々と述べる快斗のこだわりめいた言葉に、コナンは羞恥がだんだんと冷めていくのを感じていた。 眼鏡の奥の青い瞳が半分ほど目蓋の下に隠れる。 「イイ顔してるコナン見てると、それだけで俺としては良かったりもしてさぁ」 「……」 「触って、感度上がってるの判ると、もうね」 確かに、最後まで出来なくても、快斗はコナンの口や手を借り、時には薄い胸あたりにアレを擦り付けたり、肉の薄い太ももを掴んで揃えた合間にアレを突っ込んで擬似的な行為をして、最終的には熱を放出して終えていた。 手や身体を白く汚すコナンを見ては、満足そうに笑っていたような気もする。 暫くの間そんな行為ばかりだったから、もしかしたら直接交じり合うよりもそういった行為の方を好む性癖にでもなったのかとすら危ぶんでいたのだが。 「そんだけで楽しいのか、オメー」 「だけって、こと無いけど。楽しいのは否定しない」 つまり何か。 コイツは自分の楽しさやら、目の前で快感に堪えるコナンの状態よりも先々の展開ばかりを優先させて、あんな互いに生殺しのような状態を続けていたのだろうか。―そんな気にさえなってくるというものだ。 「でも、流石に反省しました」 「いや、いい。もういい。別にやれなくてもいいってんなら、別々の部屋で寝よーぜ!」 「!?冗談ッ」 「フェチか何か知らねぇけど、だったら下着か制服で満足できるようになってくれ。洗い替えさえありゃ文句は言わねーでいてやるから」 「ちょ、」 「あのな、てめぇが楽しんでたのはわかったけどな?お陰でコッチは毎日毎日喘がされるわ、足の筋突っ張るわ、胸擦られてジンジンするわ、たまったもんじゃねぇんだよ!」 コナンが本気の眼で睨んでいると察した快斗が青くなって、ごめんごめんと謝りだす。 「中身があるほうがイイに決まってる!いや、そりゃ最後まで出来ないのは―ツライさ、ツライけど!それより、俺は」 「俺は、だとぉ…」 まだ言うのか!と苛立ちが最高潮に達したコナンは叫んだ。 「オメーはそれでよくても、だったら、俺はどうなるんだよ!?」 「…へ」 「入れて欲しいって、さっさと来いって言ってるのに、全然入ってこねーし!俺の身体がやっぱオカシイから、だったらもう予め開くようにメスでも入れて貰おうかって、わざわざ灰原に相談までして!」 「…って」 「オメーが良くても、俺は嫌なんだよ!」 もはや何を言っているのか。 いつもなら、口に出す台詞は吟味して使うようにしているのに。 今はただただ、コナンは想いのままを吐き出す。 「なんだよ、セックスって。オメーがしてンのなんか、ずっとオナニーばっかじゃねぇか!」 「楽しい?ふざけんな、だったら、テメェ一人でやってろ!」 「俺だって、してーんだ。どうしても駄目なら後ろだって使っていいし、確かに前ほどじゃねーけど、慣らしゃ平気だろ?!大体そこだってテメーが散々やってきたんだから今さら…」 「コナン!」 言葉と一緒に涙まで出ていたようで。快斗は大慌てで抱きしめた。 しかし、コナンはさっと身を逸らして避けようとする。 快斗は構わずに無理矢理に身体に手を伸ばした。 コナンはべたりと胸元に張り付いてきた相手の背中や頭を―手が届く部分を殴った。 「ごめ、本当に。そんな風に思ってくれてるとか、全然、俺」 「なんでわかんねーんだよ?!」 「ごめん、ごめんなさい。するよ、したい。ホントはいつも、泣かせようが嫌がれようが、って思ってて、でも本当に、傷付けるのは絶対に嫌で」 「俺はいいって言った!」 「うん。ゴメン、無視してたわけじゃない。コナンの気持ちまで考えられなくて、いっつも暴走しそうになるの抑えるのに必死だったから」 「抑える必要ないって、なんで、わかっ」 「わかった。判ったから!ごめん!」 甘んじて受けていた拳だが、その叩く力の弱まりに、快斗は身体を起こしてその手を握った。 眼の前にある顔は、泣いて怒っても、それこそ凶悪すぎる可愛らしさで、快斗を非常に焦らせる。 本当に愛想をつかされたら、と思うと肝が冷えた。 この手を離すことも、この人に触れることも、快斗が何よりも望み、もし取り上げられたらその場で―この世界との断絶を選ぶぐらいに、無くてはならないものなのに。 「してもいい」と言われて、「大丈夫よ」とお墨付きももらい、それでも硬く閉じた身体に負担を掛けたくなかった。 いや、そんな事は言い訳で。 根底にあったのは「嫌われたくない」一心だけだった。 『いい加減、彼女の身体に不満があるのならそう言ったらいいのよ』と突然彼女の運命共同体にある主治医に冷たく言われて一体何のことだと混乱したが、『あの子は貴方にちゃんと抱いて欲しいそうよ?』と言われて喜んだ数時間前の己はほとほと阿呆だったと悔やむ。 本当に理解しなければならないのは、滅多に他人に自分事を相談したりなしない彼女の行動の、その奥に在る想いだったのに。快斗が彼女を思う余りに取っていた行動が、彼女の眼を介せばどう映るのか。 最後までしなくても、互いに達せばそれなりに満足もするだろうし、触れ合う時間は長いほうがいいなどと、手前勝手に都合よく考えて、一方的に身体に触れるだけで、触れた先の心に思考を及ばせていなかった状態が、どれほど彼女を悩ませたのか、と思うと泣かせた己を殴りつけたくて堪らない。 目の前にいるのが華奢な彼女ではなく、もし快斗と相似した彼である姿だったら、殴ってくれと懇願するところだ。けれども快斗の手の中に収まる小さな手にそんな事は頼めない。否、そんな事は、単なる許しを請いたいだけの、結局はまたも自己の罪悪感を軽減させたいが為の勝手な懺悔。 (不満なんかない。これっぽっちも。ただ、) 「コナン、そのさ、俺―」 ずっと素直に真っ直ぐに求めてくれていた相手に、快斗は全てを打ち明ける決意をした。 *** *** 「あら、そうだったの」 「ん、だから、その…心配かけた。あと、ありがと…」 やや顔色の悪い隣人が尋ねてきて、一体何があったのかと問えば、直ぐに顔が真っ赤になり、礼を言いに…と呟いたのもだから、これはお赤飯でも炊くべきかしらと思いつつ灰原は彼女を家に上げて持て成した。 「ま、出来たのなら良かったわ」 「おう」 「彼が何も言ってこないって事は傷が出来たり出血が酷かったわけでもなさそうだし」 「…お、おう」 「でも、あの怪盗さんでも、自信がないこともあるのねぇ」 意外だわ、と呟けば、元男でもある彼女はいや仕方ねーよ、と呟く。 ちょっと興味深いと灰原が訊ねると、うーん…と唸りながらも応えてくれた。 「最初失敗して、そのまま俺にアレが来てさ、仕切りなおしも出来ない内にアイツ出張しててさー。んで、帰ってきてからもちょっと喧嘩もあったし。多分それもあって、だと思う」 初めて女性の身となったコナンと致そうとしたその時に、あまりの興奮に(濡れている箇所に擦り付けた衝撃だけで)一人で達してしまい、結局出来なかった事が引っ掛かって、またシタときに、持たなくて失望でもされたらと思うと強引にも出来なかった…と項垂れる男は、情けない以上にコナンの眼には可愛く写った。 久しぶりだったからだろ?そんな事気にしてたのかよ!?と驚いたら、顔を真っ赤にして 「指が締められてるキツイ感じが、もう絶対イれたらいっちまいそうって、さぁ…それで…」すこしでも柔らかくしてから挿入したかったんだよねー、と。 男のプライド的な部分から来る執拗な開発だったのか、とようやく得心したコナンは、「あのな。それこそ、キツイとこ突っ込まれるならさっさと済んだほうが俺だって楽だろ」とか「だったら、一回出してからすればいいんだ」とか色々言い含めて。 「じゃ、コナンが泣いて嫌がっても、とろっとろにしてから、滅茶苦茶にするからね」と何だか罠のようなことを言われて。 それから。 仲良く仲良く夜を過ごしたのだった。 「あら?でも昨日の今日でよく彼が貴女を外に出したわね?」 てっきり、めでたく結ばれたのなら、そのまま三日ぐらい家から出さないで今までの分を抱いて取り返そうとするだろうと思っていた灰原である。 「あ、うん。ちょっと寝かせてきた」 「…それは」 「あんまりしつけーからさ、こう」 こう、でコナンは軽く足を上げて踵を落す仕草を披露する。 女子になっても彼女の強く鋭い脚は健在だ。 灰原はひくっと口の端を引き攣らせた。 「生きてるの?」 「あ、多分」 でさ、とコナンは縋る目つきで主治医を見る。 「俺、今夜ココに泊めてくれ。身体がもたねェ」 はぁ―――っと疲れた吐息で囁く彼女はそう言うとそのまま腰掛けていたソファに横倒しになった。 「どっちにしろ、問題はあるわけよね」 つくづく厄介な相談に乗ってしまったものだ、と思いながらも、灰原はコナンの身体に掛ける毛布を出してこようとソファを立った。 彼女の意地と彼氏のプライド お年頃の性事情の話 |