□ウエシタ□下 「おい」 「好きだよ」 耳元で―綺麗なラインを描く顔の輪郭にそってこれまた綺麗な形をしている耳朶の奥へ吹き込むように、快斗は囁く。 密着したいが、新一の手が間にあって隙間が出来るのが惜しいな、と思っていたら、ぎゅうと快斗の背中に新一の両腕が回ってきた。 快斗はもう一度好き、と囁きかけた。「…ん」という言葉は好きに対する返事か。抱きしめ返すことで同じ想いが新一の中にあると示しているに違いない。快斗は嬉しくなって、更に腕に力を入れた。新一は嫌がらず、それどころか負けまいと同じく力を込めてきた。 「うわ、…っかー、すっげぇ幸せ」 「バーロ、…でも、まぁ、確かに」 「あったけぇ」 「…あっちーって」 ホラ、勝負は?と新一が首を傾げたから、快斗は露わになったほうの首筋に口付けた。予想通りに新一の肩がピクっと上がる。 「勿論、続行。俺さ、本気だすから、新一もどーぞ?」 「な、に余裕ぶってんだ!」 どうぞ?の言葉通り快斗は新一の腕を引っ張り背中からまた脚の間へ導いてやる。けれども、促したのはそこまでで、快斗は『本気』で新一の身体を攻略し始めた。 首筋、首筋を降りて鎖骨の境目の流れを数度唇で辿る。それから鎖骨の窪みから少し下の骨ばった部分の二段目やや右を舐めた。ん、ん、と新一の口から吐息。快斗の髪の毛が新一の首筋に掛かるのも計算尽くだ。 それから快斗の足の間へ伸ばされている腕を片方だけ外してやって持ち上げて、その二の腕の内側の腋の下の少し手前を少し強く吸うと、新一は「ぅわ」と言って頭を仰け反らせた。 やはりこの辺りが敏感らしいと確信しながら、今度は反対側の腕。しかし今度は新一の腕はそのままに、腋よりも少し外側肘の上。触ったときに震えを起こした箇所を中心に丹念に唇で探り軽く吸っては舌先で舐めまくった。無論のこと、その間も快斗の手は新一の腹から背中から撫で回し続けている。 新一の手は快斗のモノに絡んではいるが、先程よりも動きは少なく、快斗が行う『本気』に意識を奪われているようだった。くすぐったさを我慢していたのが、段々と別の感覚を呼び起こしてきたようで、息が乱れている。 そう感じた快斗が自縛覚悟で腰を寄せると、隆起している新一のモノが快斗のモノに当たり、同じような状態になっていると直ぐに判った。そのまま腰を揺らすと、新一が慌てて、快斗のモノを手で包んで、新一自身から遠ざける。それから疎かになっていた分を挽回するように、快斗のモノを上下に扱きたててきた。 「ぁ、っく、…じゃ、俺もそろそろ」 「ん、ぅああ、ちょ」 「新一、けっこー濡れ…あれれー?俺のより何か、ヌルヌルしてねぇ?本気汁でてんだろ、コレ」 「うっせぇ!」 ぐちゃぐちゃ、ぬちゅぬちゅ、と相手の性器と己の手の間で奏でられる水音は、まったく清らかな音には程遠く、卑猥で生々しい互いの性欲が放つ肉声だった。 直接的な局部への刺激が気持ちイイのは男の身体の生理だ。 だが、じわじわ感度を上げていくほうが、身体の熱の逃げ場が無くなって追い詰めやすいし、早々の性感帯の掌握が可能だし何より楽しい。それに最終的には勝負の近道だろうと快斗が考えたのは対新一において正解だったようで、新一のやや単調な甘い責めに快斗は息を吐いて快感を逃がしながら、快斗が手の動きに更に唇で再び上半身の露わになっているピンク色をした一部の皮膚に愛撫を加えると、とても判り易く手の中の新一がビクンと跳ねた。 「新一ってさ、ココよりコッチのが感じそ」 「な…ぁん、やめ、ドコ舐めて」 「うーん、野郎でもオッパイって言うべき?」 柔らかさのない筋肉が薄く盛り上がっている胸板にちょんと座しているコレって、男についてても意味ねーよな、と過去快斗が思っていた箇所なのだが、新一の白い肌に乗っているだけで美味しそうに見えるのだから不思議で仕方ない。 指が触れたとき微かに身体を震わせていた場所でもあるし、何か美味そうと思うまま、味わってみようと快斗はその部分を円を描くようにして嘗め回す。 すると、その中心がプクンと立ってきた。反応が面白くて、更に立った乳首の付け根と先と、そのホンの少しの高低差を器用に舌で辿って、もっと大きくならないのかと口全体をその辺りにくっつけて吸い上げた。 「バッ、吸うな!」 「れも…ひもひ、…いーんだろ?」 ちゅぱ、と口が離れた後には、すっかり尖っている新一の胸元の赤い場所。じっと、吸ったほうとまだ弄っていない方を見比べる。濡れて紅くなっている方がより扇情的―というか、エロイ。白い肌にこの赤みは大変な眼福だ。そう確信した快斗は、もう片方にも唇を寄せた。 「あぅ、…っや、あぁ」 堪らないのは新一だ。思わぬ場所から来る刺激は確実に性感を煽るもので、器用に自身を這い回る快斗の手の刺激と相まって身体の熱が―欲が昂ぶっていく。しかも新一を握る手とは別の手が、先ほどから的確に最初に触れた時に新一が反応を返した箇所を、腕も腹も背中も撫でてくるのだ。 身体のあちこちが気持ち良くなってきて、ズン…と腰が疼くのが分かる。疼きは腰からじわじわと中心へと移動していって、男の身体が最も性欲を顕す箇所を更に張り詰めさせていく。 このままでは負けてしまいそうだ、と新一は危惧を抱いた。 大体、男なのにそんな部分を弄られて我慢できなくなるとは何事だろうと、気恥ずかしさと苛立ちとが同時に湧き上がってくる。全くもって奇術師の手管というのは恐ろしい。逆転して、何とかこの男を追い詰めるには―と考え、新一はごくっと喉を鳴らした。 (いや、そりゃ気持ち良くなるはずだと思うけど、でも) ぬめる手の中の快斗のソレは硬くて大きい。 (マジで…) 潔癖症とまではいかないが、流石に普通なら口にするようなモノではないから、抵抗感は強い。 (でもまぁ…快斗の、だしな…うん。何とかなるか、な?) 抱きたい、と新一が主張した時に、驚きながら抵抗しつつも、けれどもその中に喜びを示していた快斗を見た。 新一にとって、それはナカナカ満足のいく反応だったので、少々強引にされて流されても構わない、と実は考えていたりした。 大体にして、この男が強引に、互いの間に在った諸々の拘りや距離や立場を突破して新一に告白してきたからこそ、惹かれていると自覚しながらも諦めようとしていた恋が叶ったという経緯がある。快斗が真っ直ぐに新一を求める心が何よりも嬉しくて大事だった。同じように新一が快斗を求めても、それを嬉しいと思ってくれているなら、何も上も下も拘る気は無かったのだ。 ―むしろ、告白直後にでも早々に身体を求められるのでは、と思っていたし、求められたら拒めないとも思っていたから、現在の展開はやや想定外だったりする。 だが、快斗が己の手で表情を変えたり声を上げる姿は実に楽しくて、段々と勝負に勝ちたいという負けず嫌いな部分も顔を出していて―いっそ本気で勝ちを頂いて抱いてみたい、とも思い始めていた。 抱くのなら、―秘部を暴いて、感じさせる。 ―感じ、させたい。 ―ならば。 新一は、絶えず快感を与えようとしてくる快斗の頭を引っ張る。 「何も出ねーだろ、もう、放せって」 「えー。すげぇ美味いんだけど…それに…可愛い」 「バーロ!」 「ココも、ココも、ココも、…ほら、この、顔も」 ちゅっ、きゅ、ぐちゅん、と。右胸に口付けられ、左胸を指先に弾かれ、脚の間を扱かれて、新一は目を瞑って「っはぁ―、んっ」と息を吐いた。びくびくと身体の震えをやり過ごしてから目を開けると、快斗と視線が絡む。 「見ン…な、って」 「んな勿体ねぇこと出来ねーよ」 快斗の顔から余裕を示す笑いが消えていた。獣じみた、獲物を狙う顔だ。新一は、これは拙いと、本能で感じる。新一の体を這い回る快斗の視線が、肌に刺さりそのまま新一の中を犯そうとしてくるかのようだった。 「俺が、したんだけど。しといてアレだけど。新一、すげぇ色っぽい…」 「…なんだよ」 「あのさ、ホント駄目?なぁ…俺にさせてくれねぇ?絶対、もっと気持ちよくするし、大事にするから」 ぐいっと快斗が新一の身体を引き寄せる。 熱い想いの篭った囁きに、新一は頷いてしまいそうになる。 (いやでも、負けるのは、何か) 最初に勝負で決めようと言ったのはソッチのクセに。快楽と熱意に流されたい気持ちと負けず嫌いが半々で新一の脳裏で渦巻く。いや渦巻かせていたら、そのまま流されそうだ。そう思った新一は、残り少ない理性を総動員して、ぐいっと快斗の体を押し戻すと、強引にその脚の間に顔を埋めた。 「!?な、新一?!」 快斗は驚愕した。快斗が初夜を迎えるために散々シミュレイトした中で、最も期待せず絶対に新一が取るはずのない行動として早々に想定外に追い遣っていた、新一からの行為。 「ん…っ」 「ぅあっ、ちょ、やべぇって!」 特有のクセのある匂いに少しばかり躊躇したものの、大きく口を開いて新一は快斗のモノを唇で挟んでみる。 それから、歯を立てないように気遣いながら、はむっと咥えた後、すこしずつ口の中へ納めていく。 快斗の顔を見てやりたかったが、歯を当ててしまいそうだしとにかく口の作業を試みる。 唇に感じるソコの感触は、見た目よりもツルリとしていて弾力があり、思ったよりも抵抗感がない。 ではエラの張った部分の先はどうかと、首を傾けながら、入れやすい角度を探していると、新一が触れている快斗の両足の付け根がぶるぶる震えるのが分かった。 感じているのか、と気を良くして、思い切って先端部分をぺろっと舐めてみた。 「!新一、だっ…メ」 途端に、舌先が触れているその先端から快斗の欲情が放たれた。 「!?」 流石に呑み込むことまでは考えて居なかったから、熱く飛び出してくる液体に驚いた新一は顎を引く。 「ぅわ」 口を離してもなお、快斗からの射精は続いていて、白濁した液体はそのまま目の前にいた新一の顔に掛かってしまった。舐めたときよりもムワッと強い精液の匂いが新一の鼻腔に充満する。 「…ぅあ…変な味、する」 多少口にも入っている快斗の出したソレを確かめるように、新一はちろりと舌をだしてそう言うと、ついでに口の周りを舌で拭った。顔に掛かったものは手で拭い取ろうとした。けれども、ガシリと手首を掴まれる。 「?ま、とにかくコレで俺の…」 『勝ち』、と勝利宣言と共に快斗の顔を見てやろうと顔を上げ―見てしまって―新一は目の前の男の様子に言葉を無くした。先ほど新一に見せた獣など、まだ可愛い子犬だったのか、というぐらいの、ぎらぎらした眼をして、荒い息を吐く快斗の姿は、自然界に君臨する雄そのものだったのだ。 「ごめん」 一言だけそう放って、快斗は新一を押し倒した。 話が違うだの、勝ったのは俺、卑怯者、だの言いたいことは沢山あったが、新一に許されたのは、ひたすら喘いで嬌声を上げることだけだった。 「ごめんなさいぃぃいッ!!」 快斗の家の快斗の部屋の快斗のベッドの下で土下座を繰り返すのは、家主で部屋主でベッドの日常的使用者である快斗だった。 「嘘吐き」 「ゴメン」 「卑怯者」 「ごめん!」 「勝ったの俺だったのに」 「ごめん!!」 「全然大事にしなかったし」 「ご、ごめ、いやでも精一杯我慢して、準備したつもりなんだって!」 「結局最初から有耶無耶にするつもりだったんだろ」 「違う!違うってホント、もう、あの俺が出したの掛かった新一見た瞬間に、なんか意識飛んじまって」 「痛ぇし…中に出すし」 「ッごめん!」 「しかも何回出した?」 「さ、さんかい…かな」 「俺に掛けたの入れたら四回」 「…その、ごめん。でもさ、最後のは新一が…!」 「お れ が ?」 「なんでもアリマセン。ごめんなさい!!」 「フン」 「しんいちー…」 土下座している快斗からは、ベッドの壁側へ顔を向け、口元だけで怒気を混じらせ詰りながら、その実、目で笑っている新一は見えない。 そもそも怒っている訳ではなく気恥ずかしいだけなのだ。いや少しばかり腹も立てているかもしれないが。それはコトが済んだ後、満たされた気持ちや身体を快斗にくっつけて居たかったのに、突然真っ青になって身体を遠ざけた事だ。謝られなければいけない事なんか無いのに、問答無用で土下座は酷い。 まぁ新一が気分を害したのではと懸念する快斗の気持ちも解らなくはない。でも最終的に新一が快斗を欲しがって、もう一戦を強請ったのだから、悪くなかった事ぐらい解るだろうに。 快斗に思うがまま貪られた身体は非常に怠いし。もう少しだけ放っておこう、と新一は思った。 |