□ウエシタ□上/快新



お付き合いしてください、と申し込んだのは快斗で。
わかった、と肯いたのは新一だ。

次の日に、一緒に帰ろうと帝丹高校の校門で待っていたのは快斗で。
少しだけ足を止め付いて来いと言って、よく行く公園に案内したのは新一だ。
学校でのこと昨日見たテレビ、新聞に載っていた事件のこと、沢山話して帰り道。人の眼がなくなる裏道に入ってから、そっと手を繋いだのは隣を歩くお互いの手が不意に触れ合ったからだった。

その約一月後。
キスしていい?と聞いたのは快斗で。
いいけど、と新一は頬を赤らめて目を閉じた。

仕掛けるのは大抵快斗であり、新一は渋々もしくは時に照れながら、それらを受けて立つ、というのが付き合い始めからの定番だったように思う。


「つまり、だからさ、俺が上ンなるのが当然だって思わねぇ?」
「バーロ、俺だって男だぞ。下なんか、お断りだ!」


お付き合いを開始して三ヶ月。

キスが少しずつ深くなってきて、ふとした瞬間に同じことで笑っていたり(その事でまた笑ってしまったり)、何事かに反発して言い合ったり(でもちゃんと仲直り)、心の距離が近づいている気がしてきた頃のこと。
そろそろかな、そろそろいいかな、と今度は互いの身体の距離感を縮めるべく、ある日の放課後、快斗は新一を家に招いたのだ。

ソレと判るように、遊びに来いよ、とかそういうのではなく。「今日、親いねーから…ウチ、来ねーか?」という誘い文句で。
その言葉で察しの良い新一がどうするかなと伺おうとしていたわけで、新一は少しばかり沈黙した後、照れくさそうに横を向いて「いーぜ?」と答えたものだから、快斗が今夜が初夜か!と期待したのは当然だった。

ところがだ。
学校の授業や何だで汗臭く埃っぽくなった身体を、交代で風呂場を使いシャワーで流して、さてベッドの上でおっぱちじめましょうかとしたその時、とんだ言い合いが始まったのである。

「ちょっと、待て。新一、なんで俺に圧し掛かろうとしてんだ?!」
「オメーこそ、ちゅうちゅう人の口吸いながら、押し倒そうとしてくんな!」

快斗が浴室から二階の自室へ駆け上がると、先にシャワーを浴びていた新一が所在無げにベッドに座っていた。お互いに上下は下着―トランクスにシャツ一枚の姿。
新一が服を着込んでいないことにホッとしながら快斗は部屋の明りを一つ落してその隣に腰掛けると、何も言わずに早速新一を抱きしめてキスをした。
言葉を用いず互いの思いを伝えるための方策を二人で探っていこうとする行為の前には、何を言っても空回ってしまうような気がしたからだった。
新一もまた、そんな快斗の意図か緊張かを察したのかはたまた彼自身の緊張の為か、突然の口付けに一瞬だけ瞳を開いた後、すぐにそっと目を伏せた。

ここまでは大変スムーズだった。

次いで、唇を合わせたまま快斗は優しく優しくベッドに新一の身体を倒そうとしたワケだが、どうしてか、新一の身体が動かない。それどころか、新一はベッドに乗り上がって、快斗の身体を倒そうとしてきたのである。
ちょっと待てよ、え?初めてで、そんな、まさか上で騎乗位的な?!と流石に期待はしなかった快斗である。コレはなにやら宜しくない予感がすると、一旦互いの身体をもぎ離した。

「えっと…あのさ?俺ら両方男の子なんで、片方がその」
「女役だろ?オメーがしろよ」
「ええ?!普通新一だろ?!」

快斗の言い分に、新一は眉を跳ね上げた。
普通だと?普通に俺は男だが?とムカっときたが、ぐっと堪える。なにしろ事は始まってすらいない。

「快斗は俺が欲しいんだよな?」
「…そりゃ、もちろん。新一は―」
「欲しいさ。好きだからな。でもさ、だったら。俺がお前の中に入ってやるよ」

ニッコリと清々しくそうおっしゃった名探偵は、非常にその青い瞳をきらきらさせていて、『好奇心』の三文字を顔に貼り付け快斗を見ていたのだった。
なるほど、好奇心や探究心が旺盛な推理馬鹿とも言える男はそれなりにセックスに興味津々であるらしい。
その事自体は大変歓迎すべきだが、だが、快斗としてはだからと言ってアッサリと抱く立場を譲る気はなかった。

「俺だって新一の中入りてーんだよ!言っとくがなぁ、俺なんか、もう何回頭ン中でオメーのことヤッたか数え切れねーし、さんざんアレコレ準備のことだって考えて、今日だって俺ン家に誘うのだって、そりゃスゲー悩んでだなぁ!大体新一欲しいって言う割にはそんなムード全然だったじゃねーか!」
「ごちゃごちゃ五月蝿すぎだ、お前。つか知識量で俺に勝てるとでも思ってンのか?あと、なんだ、頭の中って。オメーの脳内で俺はどーなってんだよ」
「どうって、そりゃ」

じぃっと見られて快斗は言葉に詰まる。
その青い目が気持ちイイゆえの涙で滲んじゃったり、その目の中に快斗しか映らなかったり、綺麗な顔が快楽に蕩けてたり、さらにはその赤い唇からあんあん悩ましい声を発しちゃったり…まぁ全て妄想だったり夢の中の出来事なのだが、新一とお付き合いが始まる以前から―世を騒がす怪盗が、彼を追うべき立場にある名探偵に恋をしてから―快斗の頭の中には己の下で喘ぐ名探偵の姿があるのである。

どう考えても叶わぬ恋と思われた想いが一転して成就し、仲良くお付き合いが始まってからというものの、気高い彼の心と共に、その身体を求める気持ちは強くなっていくばかりで、到底新一からの愛撫だの挿入を待てる状態ではない。
いっそ告白直後に新一から押し倒されでもしていたら案外簡単に流されていたかもしれない、と快斗は思う。

しかし、新一は常に「待ち」の体勢だったのだ。生来の気質か、相手を観察して仕掛けを暴く探偵の性分から来るものかは分からなかったが、快斗はだから毎日のようにメールしたり折を見て電話をしたりデートの約束を取り付けたりと、とにかくとことん頑張ってきたのである。
努力が実って、新一から性的な好奇心を持たれるようになったのは嬉しいし、抱きたいと思われるのも些か抵抗はあるが、男同士なのだから仕方ないと思うし、それもまた嬉しくないわけでもない。
しかし、コレまでの積み重ねを思うなら、最初の主導権は渡したくない男心だ。それに、相手の身体から立ち昇るシャワー後の嗅ぎなれた快斗と同じ匂いをさせた恋する人を前にして、不毛な問答の時間すら惜しかった。
今すぐ想像でしか知らない新一のアレやソレを生で見たり舐めたり味わったり、新一と頭の中でしか出来なかったアレやソレを致したくて堪らないのだ。

「俺がお前を好きで、お前も同じく好きでヤリてーんなら仕方ねぇ…わかった。だったら、勝負しようぜ?」
「へぇ?」

くっと口の端を引き上げて、快斗であって快斗とは別の気配を漂わせれば、探偵もまた挑戦的に口元を歪ませた。
コッチの誘いには簡単に乗ってくれるよな、と内心でぼやきたくなるが、快斗を最初に恋という罠に落としこんだ、怪盗も快斗も惹かれてやまない工藤新一の本性もまた、コッチを追い掛ける凄烈さにあるわけだから、お互い様なのかもしれない。

「知識でも競うのか?それともゲームでも始めようってのかよ」
「あのな、いまこの状態でわざわざそんな無粋な真似ができるかっての!」
「じゃあ」
「簡単なことさ。先にイッた方が下」

言いながら、快斗は新一の脚の間に手を伸ばして、スルっと布越しにその部分を撫で上げた。新一はビクンと身体を震わせて、一瞬、快斗から後退さった。

「なに、逃げてんだ?そういうことシよ、って俺は誘ったんだぜ。オメーだって判ってて俺が欲しいって言ったんだよな?」
「ッい、イキナリ触るからだろ!…ああ、そうだな。分かった」

脱げよ、と新一が言うので、快斗はさっさと下着に手をかけてグッとおろした。恥ずかしさは当然あるが、同じ男を相手に―しかも同じく裸にさせたい相手を前に照れなど見せたくは無い。ここはポーカーフェイスが大事だ、と快斗は思った。

下を脱いで、上もさっさと取り去って、それから快斗はジッとその様子を眺めていた新一と目を合わせた。
ぱ、と新一は目を背ける。薄暗さの中でも、頬が赤くなっていることはその様子でよく分かった。欲情してくれたのなら嬉しいが、果たしてこの男は本当に同性である快斗を相手に股間のモノを勃ててくれるのだろうか。

「やべ、新一に見られてたと思ったら、早速」
「な、なに」

ホラホラ、と快斗は楽しげに、顔を横に向けたままの新一の手を取って己の股間に導いた。キスをしていた際にじわじわと血が集まっていた箇所は、それなりの固さで勃起していた。

「ぁ、てめ」
「どう?」

握らせてみると、新一の手やら腕やらが硬直したのが丸分かりだった。
まだこういう事は早かったかな、と少しだけ快斗は心配になる。けれども当然やめる気はない。

「新一は?…脱がねーの?」

固まっている相手の手はさておき、快斗は仕掛けた勝負の勝利を頂かねば、とまたも新一の脚の間に手を伸ばす。今度は撫でるだけでなくやんわりと布越しにソレを掴んでみた。柔らかい。口では強がっていても、奥手だった新一だ。新一の負けず嫌いで強がりな性分に乗じて性急に進めようとしている自覚が快斗にはあったから、これは色々まずいかもしれないと舌打ちしたくなった。

あからさまな欲望を持つ己に引かれて拒絶されたら、流石に直ぐには立ち直れそうに無い。抱かせろ、と言った言葉に任せてもう少し様子を見たほうが良かったのかもしれない。
IQ数値の全てをここ最近、新一とのアレソレをどう致そうかと考えることに費やしてきた快斗は最悪のパターンを想定してヒヤリとした。
―やっぱ男は無理、とか言われたらどうしよう。

しかし、柔らかな部位を数度擦ると、俄かにソコが膨らみだした。
新一はチラリと快斗を見る。快斗は安堵すると共に嬉しい心持ちのまま笑って、更にくにゅくにゅと揉みしだく。すると確実に硬度が増していく。

「…俺に触られるの、気持ちイイ?」
「まぁ、な。オメーの指先ってそそる」
「器用さが売りなんでな」
「ぁあ、…ん」
「お、結構育つな。…あ、滲んできた…つかさ、脱がねーと汚れるんじゃねぇ?」

あ、そうか。と一瞬目をハッとさせた新一に、しまったと快斗は思った。
新一の手は快斗に添えられているだけなのに、快斗のモノは大人しくなる様子がない。それどころか、微かな吐息の乱れや手の中に在るモノの反応への嬉しさで、ますます元気だ。愛撫を加えて反応しだした新一は、やっと硬くなってきたトコロなわけで、したくて堪らなかった快斗の方が少しばかり分が悪い。正気に戻られるよりも、ここはもっと気持ちよくさせてさっさとイかせて仕舞えば良かった。下着なんか汚れようが破けようが、洗うなり未使用の買い置きを渡すなりすればいいのだから。

「わかってるって。脱げばいいんだろ!」

そんな快斗の思惑には気付かない新一は、うわーうわーと心の中でだけで騒ぎながら、シャツに手を掛ける。
快斗はとうに裸だし(脱げと言ったのは新一だ)新一だって裸になるのが当然なのだが、なんともコレは気恥ずかしい。野郎だらけの教室での着替えとは全く違うな、と思って、そうだ単なる同性じゃなくて、この身体に欲情しているとハッキリ示している相手が息を詰めて見てやがるからじゃねーかと思い当たって、さらに新一は羞恥に顔が火照るのを感じた。
勢いよく脱いでやろうと思っていたのに、新一の聡い感覚は快斗の視線を拾ってしまい―向けられるその強さに気圧されたように、ぎしりと手が止まってしまう。

「新一?」
「…あー、やっぱ緊張する、よな」
「脱がしてやろうか?」

じっくり見たい気持ちもあったが、逸る快斗の心は、新一に触れたくて堪らないと言っていた。例えそれが更に己を煽り立て勝負に関して不利になると判っていても。

「ワン・ツー・スリー!」
「…どうやったんだ?」

新一の眼には快斗の手が閃いてくるりと回転したようにしか見えなかった。とんでもない早業で、新一は腰すら浮かせていないのに真っ裸になっていた。
自身の身体を思わず眺める、と。快斗の手が伸びてきて、新一の首を触った。それから鎖骨をなぞって、腋の下から胸元を移動し腹部へと撫で下ろす。身を竦ませそうになるのを堪えながら、新一は今度は自らの意思で快斗の脚の間に手を伸ばした。

「企業秘密」
「どこのだよ」
「怪盗株式会社的な?」
「株券発行してんのか」
「一株ビッグジュエル一つで怪盗によるショウの株主優待席へご招待。配当金は忌まわしき宝石パンドラの粉って?」
「誰が出資すんだ」
「さぁ?あ、そういえば、泥棒学校ってお話知ってる?新一」
「あー、っと。あの人だ絵本の―」

互いに下らない事を言っているな、と思いながら。
快斗は新一に、新一は快斗に触る。

イかせりゃいいわけだし、とにかく扱いてやれ、と新一が即物的な場所を即物的に扱うのに対して、快斗は新一のやや痩せ気味な身体の、筋肉の流れや浮き出ている骨の形を一つ一つ確かめるようにして指先を滑らせる。時々、「んっ」と声を洩らしたり、ひくっと身体を震わせる場所を見つけては、快斗は次々非常に優秀にできている頭に記憶させていった。

「ぁ、新一、ズル…」

ぬめりを帯びてきた快斗自身の先端を、新一が人差し指でくりりとなぞると、先端の隙間から更に透明な体液が漏れ出てくる。他人のそんな部分の、そんな状態を直接触るのは滅多に無い―否初めて経験する新一だ。身体を少し離して、そっと己の指先がいじくっている場所に眼をやった。

「お前の負けじゃねぇ?」
「バーロ、こっからだろーが」

言うが否や、快斗は新一の身体を抱きしめた。







下へ続く。
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