□車内にて□快新 (…ん、何時だ?) ふと目を覚ます。 まだ身体は揺れている。低い振動音。時折身体に軽く掛かるGはカーブによるものだろう。 そうっと車内前方に表示されているデジタル時計を確認すると、午前2時を過ぎた所だった。 新一ともう一人の同行者の降車予定停留所まであと5時間といった所か。 (やっぱりグッスリ寝る、ってワケにはいかねーな) 夜行バスでの移動は初めてだった。 急遽出向かねばならない所が出来たのが今日の―いや日付は変わって昨日の夕方。最寄り駅から目的地最寄り駅までちょうど良いのが出てるぜ?と色々検索をかけてくれていた同居人が提案したのだ。夕方の今からでは飛行機は飛んでいない地方都市、通常列車は途中で足止めになる。時間は掛かるけれど、現地に入れる時間だけをみるならば、明日朝一番の空便に乗るより早いぜ、と。 簡単な荷物を持って、直接バスセンターに問い合わせて乗り込んだ。 平日だったのが幸いして、空席が目立つ。 慣れぬ旅が負担にならないように同居人兼同行者が最後尾の座席を確保し、同行者自身はその手前の席に座って、何くれと後ろを振り返り声を掛け気にしてくれたから、大分気分的には快適な移動をしていた。 (結構広いんだけどな。足を下にしか伸ばせないのが難点か) ゆったり二列シートのバス内。 窓と通路側にそこそこ厚いカーテンが引けるから、前方に開けている視界を気にしなければ、それなりの『個』のスペースが確保されている。 バスと聞いて、所謂観光バスのようなぎゅうぎゅうの四列シートで(しかも隣には絶対に同行者が座って密着状態になるに違いない)、ロクに座席を後ろに倒すことも出来ないままの、窮屈な移動になるかと思っていたから、想像以上に快適に過ごせるよう配慮された空間には驚いたものだ。 通路の向かい側は空席だし、少ない乗客達も静かに過ごしている。それに運転は予想よりも滑らかで乗客に気遣っているのがわかる。 なるほど、『時間』で競合できない部分をこうして補填する産業なのだな、と思った。 (1時に休憩入ったから、次に止るのは2時間後?寝れっかな…) 休憩の為にバスは止まっても、睡眠中の乗客に配慮して車内アナウンスは掛からない。 前方のフロントガラスと乗り合い部分を隔てているカーテンが静かに開けられて、少し明るくなるのが合図だ。 車内トイレも付いているから、起きている者や身体を伸ばしたい者、眠気を振り払わねばならない運転手の為の休憩である。 先程の休憩時間は、新一も同行者も起き出して、深夜のサービスエリアを少しだけ散歩した。 (快斗は…ん?) ふっと前の座席を見て、寝る前とは椅子の角度が変わっているこの気が付いた。先程の休憩後(じゃ、少しは寝よーな)と言って、柔らかな髪がちょっと腰を上げれば見えるくらいに座席を倒していたはずなのだが。 気になって、少し立って前の席を覗き込む。 (いねーし…) 適当に毛布が座席の端に寄せられていた。 (トイレか。ま。他に行くところもないしな) すぐ戻るだろうと、新一は再び座席に座りなおす。 程なくして、静かな気配が近づいてくるのが分かった。足音は全くといっていいほどしない。 静寂を壊さないように夜陰に紛れ込むのはアイツの得意技なんだよな、なんて今更な事を目を閉じながら思っていたら、その気配がすぐ傍までやってきた。 (…快斗?) 小さくカーテンが開いて、影が新一の座る席と前席との空間に入り込む。何だ?と思いながら、伸ばしていた足を畳んで、前の座席で何やら作業する背中を見つめた。 暫しの後、倒れていた座席の角度を上げて、漸く快斗が振り返る。 いくらゆったり設計でも、一人用のシートは狭い。 快斗の顔は新一のすぐ目の前だ。 (なんだよ?オメーの席は前だろ) (ん?何か新一起きてるみたいだったから) (…だから?) 快斗は乗客用に用意されている毛布を被っている新一から、その安っぽい布を剥ぐ。そして、座席を水平までは行かなくとも深く倒して寝転んでいる新一の上に覆いかぶさった。 (狭い!) (あー、やっぱなー、重なるのは無理だな) (当たり前だ。どけよ!) (いやいや、眠れない新一くんが心配でさぁ) (いらねー心配すんな!ンなトコいられたら落ち着かねーし、さっさと) どけ、と再度囁こうとしたが、次の瞬間新一は固まった。 正確には、口に快斗の右手が掛かって、下半身の一部を左手が掴んで、動きを固められたと言う。 (しーっ、な?) (…っ) 暗闇でも新一を見る眼が悪戯めいた笑みを含んで爛々と光っているのがよくわかった。 あっという間もなく、ジーンズの前を寛げられて、器用な手が下着の上から局部を撫でた。 (!…っ) (声、駄目、OK?) 新一にしてみればオーケーなわけはない。 しかし足の間に快斗の身体が割って入っているため、足を蹴り上げることも出来ない。口を押さえようとする手を掴みあげようとしたが、するともう片手が下半身で妖しげに動き出した。 慌てて両手でそのアヤシイ方の手の動きを止めようとしたが、時既に遅し。 座席前方の足を下ろすスペースに腰を下ろして膝立ちになった快斗は、素早い動きで下着の外に出したソレを、ぱく、と咥えた。 (!?) 足がビクリと震え床から浮く。 局部を口に収めた為自由になった片手が、今度は新一の浮いた片足を掴んで股間を開きながら持ち上げた。 しかし狭いシートの上である。 片足は単に窓際の壁に押し付けるような格好になった。 毛布はアッサリと快斗の背中から床に滑り落ちている。 (……ッ) やわやわと快斗の唇が、新一のまだ柔らかなソレを挟んで揉むようにして刺激する。こんなところで仕掛けてくる冷や汗ものの状況に、新一は与えられる感覚に浸る気は無く、あくまでも静かな抵抗を試みた。 すぐ目の前で揺れる快斗の髪の毛を思いっきり引っ張る。 しかし、そうすると快斗は咥えたまま、頭を新一の手元に寄せようとしてきたのだ。素直に引っ張られて痛みを軽減しようと言う作戦らしい。自然、口を離さない快斗の動きにつられて新一の腰が持ち上がることになる。変な体勢になるのは困ると思わず引っ張る手を緩めると、今度は濡れた舌がソレを這い廻り始めた。 (ぁ、…ふ!) 覚えのある―快感と身体が感じて喜ぶぬるつく刺激に、小さく声が漏れかけるが、快斗の手が上手く新一の口を抑える手に力を入れてきたから、鼻から抜けるような吐息が零れるだけで済んだ。つづけて、新一のソレは快斗の喉奥深くに導かれ、硬くなるまでたっぷりと全体をしゃぶられた。どくどくと血が集まり大きくなってくると、今度は窄めた口先で軽く締められながら抜かれ、扱かれる。 ロクに抵抗できないまま、漏れる吐息の音は増えていくばかりだ。 これはマズイ、と新一は快斗の手の上に自分の手を重ねながら主に鼻の辺りを抑え込んだ。 今は快斗がシートを起こしたから見えないけれど、前方には他の乗客も居たはずだ。 声だけは立ててはいけないと、そう強く思った。 *** *** *** 足音は決して立てずに。 揺れる箱型の中では、それは結構高度な技術であったりする。けれども、日常とは全く違った環境下で神経を尖らせている人間と言うのは結構存在するから油断は禁物だしな、と殊更気配を発しないよう気を使った。 静かに忍び寄ったカーテンの外で中の様子を窺う。 ―寝息が聞こえた。 これは僥倖だと、そっとカーテンの布の隙間からスプレーのノズルを注し込み、正確に息の音がする地点を狙って軽くプッシュする。 更に深くなった寝息に、口元を歪ませた。 そんな事を他数カ所で行いながら移動して目指す最終地点は、夜行バスの最後部座席。 愛しい人が座っている場所だ。 先ほど席を立ったときは、どうやらスヤスヤと寝ていたようだった。しかし、いつもならまだ本を読んだり何だりして起きている時間のはずだ。明日の行動開始の時間が早いからと、無理矢理寝ていたようだが、彼の−夜型人間の生活サイクルと習慣を考えれば目を覚ましていてもおかしくは無い。 そして、その読みは見事に当たっていた。 あえて気配を殺さずにカーテン越しに席の傍に立てば(快斗?)と囁く声がした。 大丈夫なのに。普通の声でも、一時間ぐらいは誰も起きやしねーぜ?と思ったが、口には出さなかった。 攻めるなら素早く、静寂を守らねばならないというシチュエーションを守ったままが、一番抵抗が少ないはずだ、と思考を巡らせて、彼の為の座席スペースに身体を滑り込ませた。 (あ、やべーかも…) 快斗の行う口淫に、乱れる吐息を抑えようと自らの手を口に当てる新一の姿は、暗がりでもシッカリと見えて、ちょっとした悪戯だけで済ませようとした気持ちを凌駕する欲が沸いてくる。 向こうの目的地に着いてしまえば快斗の恋人は事件のことしか考えなくなってしまう。だからその前に少しばかり滅多に無い状況下で乱れてもらって、まぁ新一にもスッキリしてもらって、それで調査なり捜査なり頑張ろーかというつもりだったのだが。 「ぅ…、ッ…ぁ」 新一は小さく、本当に小さく喘いでびくびく全身を震わせ、眼を閉ざしている。 ぎゅっと口に当てている手を、偶に息苦しくなるのか、少し外して(は―…ぁ、はっ)などとか細くいつもと違う声音で、あくまでも微かに快感を逃がしながら呼吸する様は、とてもイケナイコトをしているムード満点で、下から眺めている快斗を堪らなくさせた。 (でも、流石に最後まではなぁ) いくら『ゆったり』を売りにしているこの夜行バスでも、そこまで出来るスペースは無い。 今だって新一の足は窮屈そうだ。もっとも窮屈だからこそ、大した抵抗も受けなかったのだが。今以上の行為をするには抵抗をしない、ではなく『協力』してもらう事が必要だろう。しかし当然、新一は絶対に協力してくれ無いに違いない。 それにだ。あと数時間後には彼は探偵として駆けずり回るのだ。あまり身体に負担になるようなことは憚られる。 ちゅぅっと咥えているモノの先端から溢れてくる新一の体液を啜れば、抱え込んでいる細い腰がぶるぶる震えて跳ねるのが分かる。嗜めるように腰から背中を擦っていけば、多少気が緩んだのか、背凭れから身体を浮かして快斗の手が撫でるのを受け容れる新一。 素直な姿に、ちらっと快斗が眼を上げると、潤んだ瞳が暗がりの中で深海めいた色で揺らいで、昂ぶる熱の解放をせがんでいた。 (いきたい?) 舌先で擽りながら、目と、口元だけで訊ねてみる。 コクコクと肯いたのが分かった。 (とりあえず、イかせてから交渉してみっか?いやいや) 冷静になった途端、何てトコで何てコトしやがるバーロ!と蹴りの一つも喰らうのが関の山だ。 背中を撫でていた手をそのまま腰裏からジーンズの中に忍び込ませる。すると、その動きに宜しくない予感を抱いたらしい新一が目を開いて首を横に振った。 (やめ、快斗ッ) (大丈夫…) スルリと快斗の指は双丘の奥を目指そうとするが、その動きを阻もうとする新一がぐっと座席と背凭れに腰と尻を押し付けて進路を塞ぐ。 それならばと快斗は舐めていた新一のソレの先端の、ぬるぬるする液体の溢れ出る場所に、舌をねじ込むようにして刺激を加えた。亀頭をくわえ込み舌先で先っぽを抉る。途端に跳ねる下半身の隙を狙って、指を目的地まで持っていった。 乾いたままの窪みの表面に指を這わせればヒクつく部位。慎ましい反応の奥の熱さに触れたくて、一本だけ指先を入れてみた。 (熱い…) 全くどうしてこんなにも、彼の全身は余すところなく快斗を魅惑して仕方ない。 ぎゅうぎゅうしている内部は意識して締めているのか、滑りがないせいか。あんまり酷いことはしては駄目だぞ、と理性の声に耳を傾けながら軽く指を前後させてみる。 その途端、口内の新一のモノがその動きから逃げようとしたのか過敏に反応したのか、ぐっと快斗の喉奥に突きこまれた。 ぐぅっ咽喉の奥が鳴る。図らずも咽そうになった。 しかも、新一の快斗の髪を引っ張る力はかなり強くなった。 精一杯の抵抗、なのだろう。 仕方なく指を抜いて、両手で腰を押さえつけ、熱く硬く張った肉棹の内部で解放を求めて煮えているであろう体液を抜いてやろうと、大きく口を開いて可能な限りその全部を咥内に導いて、そのまま口も顔も前後に―上下に振った。 ちゅぷちゅく…じゅっじゅ、と明らかな水音が性器と口の間でしだす。 指を抜いてもなお髪を引っ張る強さが変わらないのは、際どいその音を咎めるためか。 しかし構わずに快斗は激しく口での愛撫を続けた。 「あ、…ぅんんっ」 快斗の口の中にソレ特有の匂いと粘りけのある熱い液体が放たれる。同時に、抑え切れなかった声が、思いのほか大きく新一の口から零れた。 快斗は、下着だの座席シートを汚さないように、己の唾液もまとめて洩らさないように吸って、綺麗にするように舐め回した。 最後の雫まで舐め取って、衣服を整えた後、先程他の乗客に使用としたものとは違うスプレー缶を軽く振ってワンプッシュ。荒い息を整えていた新一が、プシュッという空気音に何事かと快斗を見遣る。 「な、んだ…それ」 「消臭スプレーだけど?除菌も出来る小型サイズ」 「……てめぇに、かけろ!今すぐかけろ!!」 「ばい菌扱いとか酷くね?!今すぐコレ新一の後ろに突っ込んじゃうよ?!」 「黙れ!変態、この―」 言い募ろうとした新一がハッと口に手をやる。それから周囲の様子を窺った。 けれども当然、事前に運転手を除く乗客を催眠スプレーで眠らせていた車内において、二人の騒々しさを咎める者は無い。 「てめ、小細工済みかよ?!」 「当たり前じゃん。新一のイイ声なんて他の奴らに聞かせられっかよ」 しれっとした快斗の顔と言い分。通りで妙に余裕ぶって手を出してきていたのか、と察した新一が目の前の快斗の首元を掴みあげた。 ―そうかそうか つまり多少騒音がしたところで、問題は無いんだな? ―え、うん。 どうせなら、最後まで、しちゃう? 「するワケねーだろ!」 新一は通路に向かって、思いっきり快斗を殴り付けたのだった。 !痴漢駄目絶対! (ところで、俺も、その勃ってんですけど) (知るか!テメーの催眠スプレーでも吸って寝ろ!そんで、そのまま回送されろ!) めもめもより加筆再掲 深夜バスは運転手が(交代要員ないし眠気防止に)二人居る事がありますが、そこんところはスルーしております。 |