*白馬好きさんは退避願います。 *快斗+新一。微下品。 ■□マジックオブラブ□■ 2〜旅の日々はこんな感じに〜 「オイ新一、援護頼むぞ?!間違って俺に当てんなよ!」 「おー、任せろ。ちゃきちゃき戦ってこい」 何だその呑気そうな声は。 確かに目の前にいるモンスターは雑魚レベルだが、そんなんでもワラワラ出てこられたら、物量戦で負けかねねーんだぞ。 イラっとしたが、今は敵に集中だ。俺は腰に提げた短剣を手に構えた。 「できた!」 暫くして、背後から声が上がる。数に押されかけていた俺は、よし、コレで少しアイツらを蹴ちらせられれば、と思った。 まぁ、当然のことながら、つまり加勢戦力を期待したワケだ。 だが。 「っしゃ、行くぜぇ【トカゲのシッポ】!!」 声と共に場の大気の密度が変わり―ゴウゥ―と塊に近いチカラの奔流が俺の背後で生じて。 放たれる、気配。 ―追って、放たれた切羽詰った魔法使いの叫び。 「あ、やっべ。避けろ、快斗!」 「へ?…ってオイィいいッ?!」 それは、そのまま俺の背中へと激突したのだった。 「悪ィ!大丈夫か?!快斗っ」 「だ・・・い丈夫、なワケある・・・、かっ」 カハカハと咳がこみあげる。背中は熱いやら痛いやら、もうよく分からない。敵ではなく味方に攻撃されてダメージ。全く冗談じゃあない。でも悲しいかな、俺はこんな事には慣れ・・・つつあった。慣らされてきた、ともいう。慣れたくなどなかったが。 「ゴメン、魔法陣は上手く描けたんだけど、まさか真っ直ぐ飛んでいくとは」 「多、分ちっと陣図形歪ん、で、たんだろ。発動してコントロール効かねー、って事は、な」 歪な魔法陣のお陰で、不意を突かれた衝撃は半端なかったものの、傷は痛いけど浅い。しかし、すぐに動けるかどうかには自信がない。・・・というのに、敵さんがた、円陣組んで見守ってやがるじゃねーか! 「囲まれてますよ!」 分かってらぁ。 頭上から戦況を見守っていた精霊が叫ぶが、見たまんまの台詞に八つ当たりしてやりたくなった。 「だったらオメーが何とかしやがれ!」 「無理です!!」 「即答か」 毎度毎度、敵が出たら一番に逃げやがる一応パーティーメンバーの精霊・白馬。普段は人型を取って格好つけてるくせに、状況が悪くなると妖精型に戻ってさっさと飛んで逃げやがる(大抵高い所に逃げて文字通り高みの見物だ)。 戦力外なのは承知の上だが、だったら情報収集に徹するなりもう少し大人しくするなりして欲しいもんである。―というのに、更に余計な口を出してきた。 「コレはアレじゃないと切り抜けられません!早く!」 ・・・アレ。 アレってゆーとアレか。アレ。 アレね。アレ。アレ。 アレと聞いた新一が、小さく「げ」と呟いて顔を顰めた。ちなみに俺は「げげ」と口から漏れて眉間に縦皺が数本走った。 「敵、また増えてきてます。急いで!」 「「………」」 仕方ない。背に腹は代えられないのだ。雑魚にやられて野垂れ死ぬのはご免だ。 「後で白馬鹿殴るぞ、新一」 「おう」 俺は腹をくくると、新一に手を伸ばした。 唇と唇を重ねる。・・・というかくっつける。いつも、この瞬間は何とも言いようのない気持ちで満たされる。 お互い真一文字に引き結んだまま口を引っ付けているだけで、当然そこに性的な匂いだの色気だのは含まれはしない。ただただ必要だから仕方なく―チカラを得て行使する為の義務でしかないのだ、こんなことは。 時間が無い時には、ほとんどぶつけるようにして交される事すらある。 それでも。 ―トクン…トクリ… 接触している部分から流れ込むチカラ。時間にすれば数瞬だが、チカラを身体が受け入れ逆に相手から奪い出して、己の肉体を造り変えようとしていく過程は、気が遠くなる程の、永遠とも思わせる瞬間だった。 指先に震えが走る―クル、と自覚し、宙に浮く精霊を呼ぶ。 「着替え!」 「了解です。―ップリャ!」 謎の掛け声と共に、白い服が降ってきた。 ―またこんな衣装かよ?! 思いつつ手に取り、素早く身に付ける。 ―アンニャロ、拳二発追加だ! ただし今は、敵を倒すのが先決。 なにせパーティーメンバーの要、相方の魔法使いは大量のチカラの喪失に、動きは鈍い。しかも身体がさっきより5・6歳分程度幼くなってしまっている。黒のローブに埋もれんばかりだ。 対して俺は、指先までチカラに満ちていた。身体が5・6歳分程度成長してしまった程に。 「銃は?!」 「ハイ!ここに!」 プリャ!とまた掛け声と共に、俺用の魔法銃とモノクル、アイツ用の眼鏡が降ってきた。 コチラの異変―むしろ変異に傍観気味の敵に、ラッキーと思って銃を向ける。 ―やっぱ、リーチの差があんだよなぁ… 俺がほとんど唯一使うことの出来る光魔法は、相手との距離によって精度が上下する。腕や足が長くなっている今、敵に狙いが付け易くなっていた。 呪文の書いてあるカードに、アイツから奪った光の魔力を注入し、敵に向かって射撃。 グサリと奴の頭部にめり込んだカードは、あやまたず敵を巻き込んで爆発した。 ―俺ナイス!絶好調ォッ! 「・・・さぁ、こっからは俺のワンマンショーだぜ?」 形勢の逆転を確信し高揚する心のままに、俺はニヤリと口元を緩めた。 ―楽しそーなツラしやがって… ボスン、ズガァン、・・・ 小さくない爆発音がするたび、俺達を囲んでいた敵がその距離を広げていく。 戦闘の場におよそ不似合いな白いタキシードを来て、魔法銃から光魔法を放つのは【勇者】だ。 そして俺は、【魔法使い】―正確には「闇」魔法しか使えない、世界最古にして、現存する唯一人のグルグル魔法の使い手である。 「あ、バカが、調子乗りやがって・・・後ろガラ空きじゃねーか」 これは何時でも援護射撃が出せるようにした方が良いと判断し、まだ億劫ではあったが、頭上から落ちてきた眼鏡を拾い立ち上がった。 身体の急激な変化に、視界と魔力が揺れ、慌てて眼鏡をかける。かかる補正が不快さを和らげてくれた。 ―よし、もう大丈夫… それから杖を手に取り、描きたい魔法陣を頭に浮かべれば、今度は、余計なチカラに邪魔される事なく素直に杖が空間を滑った。 まだ半分も魔法をマトモに使えない、グルグルの魔法使いの俺と。 俺が扱いきれない半分を奪って、足りない魔力を補う勇者と。 ついでに、戦闘には全く役に立たないが、快適な旅を送りたい俺と、魔力強奪変身後身体のサイズが変わるが故に真っ裸になる勇者に服を即時に渡してくれる、ある意味必要不可欠な精霊と。 俺達は、割れ鍋に綴じ蓋、という言葉がよく似合うパーティーだった。 「お疲れ様です。勇者殿に魔法使い殿。」 ニコニコと精霊が笑う。 戦闘終了後即時殴打!と二人で決めていたが、さすがに大量の敵をやっつけた後ではお互い余計なチカラは残っていなかった。 野原に大の字で寝転がりながら、勇者と呼ばれた快斗は口を開く。 とりあえず、言ってやりたいことがあった。 「なぁ…なんでこんなコスチュームしか出てこねぇの?」 「何か不服でも?眩き白い光魔法を使うのに、ふさわしい衣装ではありませんか!」 「本気で言ってんのか、オイ」 こんなん、着替えにくいわ、動き難いわ、戦闘で着るたび、汚れ落とすのに一苦労だわ、この身体のウチにいざナンパでもと思っても、お姉さんがた皆誰も目も合わせてくんないわ、何一つとして良いことないわ、このボケ精霊!! 快斗が続けて文句を並べると、隣に寝転んでる魔法使いがひきつり顔で口を開いた。 「てめ…ッバーロー!なに人の魔力使ってナンパなんぞしようとしてんだ、この腐れ勇者!!」 「いーじゃん、ちょっとくらい!せっかく大きくなってんだから、小っさい少年の身では味わえない青少年の楽しみに触れてみたって!」 「…させねー…」 「いや、する。絶対したい。大体奪った魔力戻せねーし、俺ので良くね?新一だってしばらくしたら元に戻るんだし」 「オイ、白馬!今度からコイツがデカくなった時の服は俺が指定するからな?!それ以外絶対渡すんじゃねーぞ!いっくら勇者だってなぁ、オメーにだけイイ思いさせてたまっかよ!」 「うわ、狭ッ!新一くん心狭い!」 「あったり前だ!コッチはチビんなって、ガキ扱いされてばっかで立つ瀬なんか無ーんだっての」 「でも、魔法使い殿がそのお姿だと、大抵お姉さん方に可愛いがられて…あ、銭湯なんか余裕で女風呂行けるじゃないですか」 一瞬野原に沈黙が落ちた。 「ん、だよソレ・・・全っ然、そっちの方がオイシイじゃねーか…」 快斗が低くうめく。 「まぁな、でもよ」 「なんだよ、エロエロ魔法使い」 新一は声のトーンを最下段にして、言った。 「立つ瀬・・・いやタツ所も幼児化してて、最高のオカズを前に抜きも出来ねーんだぜ?」 心底不本意そうな声音に、快斗は呆れた。 「記憶しろよ。その場でどうこうしようと思うな、変態」 「その場で悪戯でもしてもらえりゃラッキーだろ。いちいち手前ェで処理する暇あったら、本読んでる方がマシだろが」 「・・・ぇえええー?!……いや、うん。そーゆー人だったよね、アンタ・・・」 これが、仮にも勇者と仲間の会話で良いのでしょうかね?と、彼らを煽った自覚のないまま精霊はため息をついた。 |