□橋下ろまんす□
*荒川アンダーザ橋パロ
*電波注意
*ブン投げラスト



**1


「なんだってこんな状況(こと)に…」

米花町を流れる提無津川に掛かった橋の上で、青年が一人、川のずっと向こうで空を赤く染める夕日を見つめて呟いた。
東都を流れる河川の中でも川幅と長さを誇り、また河川公園や球場が点在する広い河川敷が広がる提無津川。
その川を横切る車道と歩道を分離したタイプの橋からの素晴しい眺めに黄昏ながら、欄干にもたれて数分前を思い出せば、脳裏に浮かぶのは通りすがりの小学生からの襲撃風景。
―最初、青年は帰宅途中の橋の上で小腹が空いたのもあり手慰みにポポポンと手を閃かせて飴玉を取り出した。
ソレを通りがかった子供達が眼を丸くして見上げてくるものだから、やや得意になって更にポンポンと飴を出して―彼らに渡してやったのだ。
と、いうのに。

「恩を仇で返すとか、日本の教育はどうなってやがんだァッ!」

もっとないの?!
どっかに隠してんだろ!
探せ探せー!!

うわ、ちょ、もう無いから!
って、おい?!なにし・・・っ
ズボン脱がすな!って、コラ!
―うわあああぁぁ・・・!

「二度とガキには絡まねぇ!」

夕日に向かって叫び、決意を新たに、青年は拳を握る。
しかし、すぐに両の手で自身の身体を掴む。
夕暮れの川辺の風は冷たい。ひゅうと青年の脚の間を―股間を通り抜ける風もまた。
彼はぶるっと身体を震わせた。

橋梁の上空を見上げる。
橋の上を通る電線を支える塔の一部に引っ掛かった布切れが風に吹かれてはためいている。青年のものだ。
ゆえに、青年は現在下半身はトランクス一丁という姿だった。
上半身はスーツのまま。垂れ下がったネクタイが悲しげに揺れる。

「やるしかねーな…」

パンいちでこの先の公道を歩いて行けるか?―NOだ。
青年は支柱に手を掛けた。





「くッ…!」

(もう少しだってぇのに!)
支柱にしがみ付きながら、手を伸ばす。
だが、ズボンまであと少しが届かない。
しかも、あと少しで支柱の出っ張りに引っ掛かった下着が危険域まで下がろうとしていた。
足りない分まで身を乗り出せば、危険な実が出そうと言う状態になっていた。

「大丈夫か?」
「へ?」

その時聞こえた声に下を見れば、ジャージを羽織った少年の姿があった。

「助けてやろうか?」
「え…」

なんとも綺麗な少年だった。
年のころは10代前半か―いや全身が見えないので幼そうな顔だけなら、だ。
大きな瞳が印象的。

(いやいや決めただろ?!もうガキには関わらない!)

赤い夕日を受けながらそれでも青空を移したままの視線に何故かドキリとして、けれども青年は咄嗟に首を横に振った。

「俺に構うな!」
「でもよ、…オメーあと三センチで公然猥褻物陳列罪だぞ?」
「見るな!ガキは嫌いなんだ!絶対に借りなんか作るもんかー!!」

って、言われてもなー…と少年は頬をポリポリ掻きながら「必要なら呼べよ?」と言って、青年の望み通りくるりと背を返す。
不恰好にも程がある姿を見る者が視線を外したことにホッとしながら、青年は首をかしげた。

(一体こんなトコで何を…)

青年の視界の端で、少年は欄干の外―橋の端ギリギリに腰掛けると、細長い棒状のモノを手にした。

「釣りかよ!?」
「ん?おう。今日こそヌシが釣れそうな予感なんだ」
「ンなところに腰掛けてたらアブねーぞ?!」
「現状、オメーの方が危ねーと思うが?…なんつーか、法的に…公序良俗的にな」

もっともな台詞だった。
青年は、早くズボンを…!と手を伸ばす。
折りよく風向きが代わり、ズボンが青年のほうへ流れてきた。
(よし!!)指の先が布地に掛かった―その時だ。

「キタぜ!!」

足下からの声が響いた次の瞬間、青年の顔に影が差した。

(何?!)

「って、うおおおお?!」

そして、青年の頭上に落下してくる、青年がこの世で最も嫌悪し恐怖する水棲生物。

「ギョー!ッぅああああ!!」

ソレが避けられぬ距離に近づいてきた時、青年は思わず手を離し顔を覆った。
両の手が彼がしがみ付いていた柱から離れる。つまり、身体全体が離れる。―物理法則により彼の体は、そのまま橋下に落下したのだった。






**2



(父さん、これはなぁに)
(わからないかい?仕込みさ!)
(着にくいよ、こんな服。合理的じゃない)
(生きにくそうなお前の為だ。我慢だよ)
(どうして?)
(お前は頭が良すぎるんだよ。人生には夢も必要なんだ)
(夢?あるよ!)
(なんだい?)
(IQ400の数値にかけて、世界掌握完全制圧!)
(本当に清々しく頭の使い方を間違えてるな、お前は……例え、お前が何でも直ぐに理解し行うことが出来て、数多の経験を己のモノとして記憶できても、それだけでは幸せにはなれないだろう)
(どうして?面白かったら、楽しかったら、それで良いよ)
(お前がそうだったら、幸せかい?)
(もちろん!)
(……さ、その服を着こなす特訓だ!)

父曰く『仕込み』が数多仕掛けられた服は着るだけで大変な作業だった。
しかも、その服を上手に扱うことが出来るまで何度も何度も着せられ脱がされ。
出来るようになってからは、『仕込み』をどうのようにして使うのか、使い方から使うべきTPOを試される事何度も何度も。
確かに、その服から繰り出す数々の仕掛けに驚く誰かの顔を見るのは楽しくて、いつのまにか夢中になっていた。
しまいには、自分でデザインを考案するくらい。
それから始まったのは、父からの挑戦とも言えるテストの数々だった。

―最初のテスト。
『これから会う女性を、君の手で笑顔にしてごらん』
上手に何も無いところから花を出現させるマジック。
捧げた赤い花を喜んだ美人のお姉さん。

―それから課せられたいくつかのテスト。
そのどれもが、誰かを笑顔にする事。
風船が飛んでいってしまったと泣いてた子には甘いキャンディを。
亡者との別離を示す花束を抱えて歩く背の曲がった老人に、亡者が机の奥底に仕舞ったまま失われ様としていた手記を。

そして知った、ひとのこころの摩訶不思議。

(さぁ、最後のテストを言っておこう)
(父さん?)
(世界よりも、世界中の誰よりも、お前が幸せになるために、お前に必要な何かを探しなさい)

自分自身さえ楽しく在ればいいのだとは、その頃には思わなくなっていた。
人心を引き付けたり、気をそらせるためのマジックは、いつの間にか身について。
世界掌握の夢を捨てずに、世界規模での活躍を見込まれる敏腕青年実業家として働く傍ら、磨き続けた魔法の使い方。

(でも、もうガキには見せねーぞ!タネも仕掛けもなぁ、ズボンにゃ―)

「おい…おい…、…大丈夫か」
「ねぇんだ!!」

大声で叫んで眼を開くと、そこには真っ青な空―ではなく。
濡れて張り付いた黒髪のかかる額と、すぐ間近で覗き込んでくる青い瞳。

「へ…」
「大丈夫では…ない、か」

ふむ…と逡巡したあと、何を思ったのか、少年は「気付けには…食べ物?草?」と呟いた後、ドコから取り出したのか緑の草っぽいものをおもむろに青年の口に突っ込んだ。

「ぶ…!」
「博士が、川藻には、いろんな成分が入っているって言ってたからな!」

ぐっちょんぬるるん
得体の知れない気色の悪い感触が口内を、生臭さと泥臭さの混じった酷い臭いが鼻腔を襲った。

(!!?)

反射的に吐き気を覚え、青年は声にならぬ悲鳴と共にそれらを吐き出す。

「―・・ハッ! …殺す気かッ!?テメ、俺に構うなって―」
「死なせる気ならハナから助けやしねーよ」
「え…あれ」

呆れた少年の姿は青年のすぐ目の前。
間違いなく青年が先程まで見下ろしていた彼だ。
その彼の前で座り込んでいる己の姿を確認すれば、ずぶ濡れもいいところ。
青年は慌ててキョロキョロと辺りを見回す。
―橋の下の、川べりだった。

「落ちたんだよ、オメー」
「あ…!」
「落ちる瞬間気絶してたみてーだったし。放っとくのは流石に、な」
「あ、りがとう?か。そうか…」
「悪ィな?オメーが嫌いなガキに、借り、作らしたぜ」

ニヤッと笑う少年の顔は、非常に悪ガキめいていた。



**3



「まぁ、不可抗力とはいえ、助けられた借りは認める」
「そうか」
「借りだからな、もちろん返すぜ?俺はガキと違って大人なんでな。契約破棄はしねーよ」
「へー」
「欲しいもんはあるか?割と俺の会社儲けてるし、個人資産もざっと数億ある。何だってくれてやるよ。なんたって、IQ400を誇る世界的実業家の!この俺の命の代償だ」
「…何でも?」
「ああ。見たところ、貧乏中学生か?家はドコだよ。なんなら家でも贈ってやろーか?」
「これでも地球時間じゃ17なんだがな。家はココだよ。つーわけで家はあるから要らない」
「地球…17?!意外だな。10コ下か。つーか、ここが家だぁ…?河川敷は国の管理だろ?ああ、代々の個人所有か?…でも、家は見当たらねーような……」
「何でも…か」
「聞いてねーな、お前…別に良いけど」

「…うん。あのさ、だったら」
「ん?」

「オメー、俺の恋人になれよ」

「んん?!」

「いまいち、地球人の愛憎による殺意ってのが理解できなくてな。結構、密室とか暗号は解けるんだけど、動悸に鈍くて。警部からの電話と証拠と証言の穴からしか推理できねーんだ。で、だ。俺にも恋人の一人くらいいれば、そういうのも理解できっかなーって思ってさ」

「んんん?!」

「ああ、別にずっとじゃなくても良いぞ。俺、あと21個事件解決出来たら星に帰れることになってっから。現地妻みてーなモンだな!」

「げんち…ごめん、どこの星に帰るって?」

「ああ、俺、放夢津星人なんだ。108つの事件を解くのがこの星での仕事さ」

「今すぐ帰ってくれないか」




青年に、異星人の恋人ができた瞬間。





**4



少年の、青年の命の代償としての願い事を叶えるべく、少年の恋人となった青年。
彼は、予想外の事態に混乱している間もなく。とにかく濡れた身体を簡単に拭いて、それから少年が持ってきたジャージを借りて。その後、少年に引き連られるまま、河川敷の草陰にぽっかりと開いた洞穴の中に連れ込まれていた。

妖しげな洞窟を歩いていくと、襤褸切れの様な布が洞窟天井から降りていて―その向こうには、近未来SF映画セットばりの機械に囲まれた奇妙な部屋。

一体いつの間に提無津川はナントカ星人の基地になっていたのだろう。俺が世界を掌握する前に、東都が宇宙人に制圧されんじゃねーのかな…と、青年はぼんやりと考えた。
河川敷から移動してきたというのに世界観が違いすぎる空間に、激しい悪寒を感じていた。

少年は、奇妙な部屋の中央壁面を覆うブラウン管に向かって大声を放った。

「博士ー!コイツ、俺の恋人。で、コイツもココに住まわせてーんだけど」

ブツ…ッ、ジジジー…

声に反応したのか、真っ黒だった画面が仄かに光る。

『なんじゃ、新一…やぶからぼうに』
「悪ぃな、寝てた?」
『いや、構わんが。しかし、恋人…のぅ?』
画面に映ったのは、白髪交じりの灰色めいた髪の毛が頭に点在している恰幅の良い老人だった。

(確かに『博士』ぽい!普通のジーさんみてーなのに…)

「あ、白衣か!」
「あん?博士と言えば白衣だろ」
「…そういうもんか?」
「ああ。俺の星でも白衣の奴は大体博士だ。というか、白衣を着てないと博士と認められないな」
「わかった。お前の星については後で詳しく聞く」

駄目だ!星の話はまだ無理!と、青年は会話を断念し、画面に向き直る。
老人の眼鏡の奥の黒目が、何度も青年の姿を上から下へと往復していた。
敵意は無さそうだがが、なんとも言いがたいその視線に、青年は居心地悪く身じろぎした。
ゆっくりと老人は確認するように尋ねる。

『…その青年かい?』
「あ、そうそう。俺、一緒にいないと顔覚えられねーから。コイツもここに住まわせたいんだ」
「あ、あの…さっきも思ったけど、誰がココに住むって…?」
「オメーに決まってるだろ?!恋人なんだから」
「いやいや!?ちゃんとデートの誘いに来るから…住まなくても、さ。えっと、月一くらいでいいかな?」
「バーロ!言っとくが、傍にいなけりゃ明日になる前に俺はオメーの顔なんか忘れるぞ?」
「恋人になれとか言っておいて、何だその仕打ち!」
『確かに、さして新一に雰囲気似くらいの程度の特徴しかないのぅ…コレじゃ直ぐに忘れるのも道理じゃわい。わかった』
「本当か?!」
「本当に酷い事言ってるよ?!アンタら!」

青年の悲痛なツッコミは二人には届いていないようだった。

『勿論じゃよ。新一が決めた恋人じゃしな』
「無視か。…あれ?もしかしてこの人、ナントカ星の偉い人?」
「違う。この辺じゃ放夢津星人は俺だけだ。博士は、この提無津川の村長的博士だ。ずっとこの洞窟を住処にしてるんだってよ」
「洞窟…住処…」
「最近になって、こんな遺跡が見つかったんだよなー。すっかり『博士』っぽくなったもんだぜ」
「え、不法占拠?」
「ちなみに俺の家はちょうどこの上の箱だ」
『昔、貨物車両になっておった箱があってな、なかなか良い住み心地らしいぞ』
「こっちも不法投棄物に不法占拠か!」
『放置車両やトレーラーに住んでる仲間もおるぞ』
「…仲間」
「博士にここでの名前を付けて貰わないと、ここじゃ仲間になれねーんだ」
「何その洗礼」
「俺の名前もつけてもらった」
『任せなさい。良い名前をつけてやろう』

とにかく、この『博士』に名前を貰うのが恋人としての最初の仕事らしいと、青年は真剣な顔をする老人を見つめた。

『…きゅうーろく・・さん?いや、はちか…』

ジッと目を凝らしてブツブツ呟く声を耳ざとく聞きつけた青年は、眉を顰めてその視線の先を探してみる。

「……あの…?」
『くろ…はち、いや「くろば」はどうかな?…黒い、羽と書く』
「おお!『黒羽』か。カッコイイな!」
『そうかの?!じゃ、決まり―』

「カッコイイとこ申し訳ないんですが、語呂合わせですよね?!このジャージの!!」

少年が貸してくれたジャージの、腹部辺りのやや上方に縫い付けられた白い布に書いてあった数字。
おそらく元の薄くなった字の上に書いた落書き『9年6組8番』。(目を凝らすと、薄い灰色の字で『1年7組3番』とあった。)

『いや、いんすぷれぃしょんじゃ!』
「ソレ言うなら、インスピレーション!…つーか、あの」

青年―たった今『黒羽』の名を貰った彼は、隣に立つ少年を見た。
サラッと聞き流していたが、博士は少年を『新一』と呼んでいた。

「新一…くん?」
「おう!俺は工藤新一、な。ここらで安楽椅子探偵ってのをしてる。ヨロシクな、黒羽!」

ようやく自己紹介に進んだ恋人。その笑う姿に再び妙な胸のざわめきなんぞを感じつつ、黒羽は、どうしてもコレだけは!と口を開いた。

「こっちも語呂合わせじゃねぇか!このジジィー!!」

少年のジャージには一部薄くなって消えた文字枠を除いて、『9組10番』という数字が読めた。
更にジャージ内側の背中後ろのタグに『NEW!1』の文字も。

「声でっかいな…」
『全くじゃ…。あ、でっかいどー…かいどー…いや、名前だし…かいと、じゃな』
「?」
『君はこれから『黒羽快斗』と名乗りなさい』
「おお!俺以来だな、漢字四文字!」
『新一の恋人じゃからサービスじゃ!』
「良かったな!」
「え…良かった…のか?名前のサービスとか初めてで、もう…どうしたらいいのかわかんねーよ…」

ニコリと笑う二人に、もはやツッコミもままならないと肩を落とした黒羽だった。




**5



「つーわけで、コイツ、俺の恋人の黒羽快斗な」

洞窟での洗礼(?)が終了したあと、黒羽は少年―新一に再び手を取られ、河川敷の住民の集まる場所に案内された。

それから、サラリと新一に紹介されるや否や、衆目が黒羽を突き刺す。

(痛い!何か視線もだけど、他にも色々イタイ気がする!)

「工藤くんに、こい…びと?」
「ちょ、何言うとん、工藤?!」
「まぁ、こんな惰弱で軟弱そうな生きて息してるだけで酸素を無駄にしてそうな男が?」
「えー似合わない!美少年には美『少年』が一番って歩美は思うの!」
「加齢臭のしそうなのがあんまり増えると、異臭騒ぎが起こるかもしれませんね」
「…覚悟はあるんだろうな?」

ある者はキョトンと。
ある者は驚愕後、憎悪明らかに。
ある者は蔑みを盛り込ませ。
ある者は嘲笑を浮かべ。
ある者は銃器を突きつけて。
ある者は我関せずという顔で。

橋下にやってきた新たな住人を、暖かく迎え入れたのだった。







「いやいやいや、もう俺の視界に強制的に入っちゃってる方々のビジュアルや、全く歓迎の色の無い発言各種に言いたい事が山盛りなんだが…一つだけ、いいか?」
「遠慮すんなよ。何だ?」
「博士、普通に居るじゃねぇか!」

「そりゃいるさ」
「いるのぅ。せっかくの歓迎ぱーちーじゃし」

「何なんだココ!」











パロにしては色々無視して改変しすぎて手に負えなくなったので。

強 制 終 了 !(潔く)

スイマセンスイマセンスイマセン!


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