□■続となりのかいと□■



プシューという音を立てて、レトロなバスの扉が背後で閉じた。
目の前には愛息子が二人。

―電車も深夜タクシーも無いが・・・
雨が降っては困るだろうと、わざわざバス停まで、いつもは素っ気無い(そりゃもう、物凄く素っ気無い!)息子達が迎えに来てくれるのならば、ド田舎暮らしも悪くない―いや、非常に良い。
優作は笑み崩れそうになりながら、「お迎えご苦労さま」と二人に声をかけた。
しかし、そこで。
二人の兄弟が、呆然とした顔で立っている、という状態であることに気がついたのだった。

「・・・どうしたんだい?二人とも。何か、この世のモノではないものでも見たのかな?」
「遭った・・」
「遭っちまった」
「ほほう、何と」

「「は ととろ と ・・・  ――――」」


いや鳩が、ととろだろ、白くて、小さいのが・・・・二人同時に話し出したから、以上に、二人ともがどこをどう話すべきか言葉と視線を彷徨わせているのを見てとった父は、まぁまぁ落ち着きなさいと、二人に向かって両手を上下に振った。

「始めから、聞かせてくれるかい」
「始め?」
「ってーと・・・」

新一とコナンは、顔を見合わせた。
そして一拍ほどの間を置いて、新一が話し始めた。

「最初は、・・・普通の、俺と同じくらいの高校生がバス停に来たんだ」



てっきり新一は、彼が自分たちと同じように誰かを迎えに来たか、バスに乗る為に現れたかと思ったのだ。
その男はおかしなことに、雨の中、傘もささずに隣に立っていた。
(今日は一日雨だったのに・・・しかも待たされそうな所に来るのに持ってない?)
不思議に思う。しかし、そういえば今日の学校帰りに、我が身が濡れてしまうにも関わらず、己と弟の為に使っていた傘を差し出してくれた同級生が居た。
彼にも、ここに来る途中で傘を手放さなければならない事情があったのかもしれない。
『傘、使えよ』
『・・・え』
話しかけられて驚いたらしい男と目が合った。
開かれた目は大きく、妙に子供っぽい。何となく、コナンに似てる気もして、新一は笑いながらホレっと父用にと持ってきた黒い傘を相手の手に押し付けた。
(ま、雨が止まなくても、コナンを親父に任せて、俺は走って帰れるしな)
『・・・いいの?』
『ああ。遠慮せず使ってくれ』
『ありがとう』
受け取って、男は不思議そうな顔で傘をいじる。
『あ〜・・・これ、ワンプッシュのヤツだから』
もしかして、田舎の人には使い方が解りにくいのか。
そういえば、同級生の傘も大分古い感じのモノだった。
ポンっと開いた傘を見て、男は笑った。
『凄いな!?』
『・・・そか?』



「それで、お迎えなのに、私の傘が見当たらないんだね」
「あ、ゴメ・・・」
「いやいや、良いことをしたじゃないか」
「いや。良くねぇ」

渋い顔の長男に、ハテ、まだ何かがあったのかと話の続きを促した。
バスの窓向こうで水滴のカーテンを落としていた雨は既に上がっていて、空の雲の切れ間から明るい光が落ちてきている。
満月だ。



バスを見送ること数本―眠気に負けたコナンを背負っていた新一も、立ったままうつらうつらして、ズルッと弟が落としかけた時だった。
『大丈夫ですか』
突然、ふわりと背中が軽くなった。
『私が代わりに背負いましょう』
さっきの男か、と思って振り向いて、絶句した。



「いつの間にか、白い・・・タキシード着て、シルクハット被った奴が増えてた」
「タキシードにシルクハット・・かい?ここで?」
「ああ、俺も目を疑ったぜ!?」



『だ、れだ、お前!』
『・・・さぁて?少なくとも私はこの子と知り合いのモノですよ。貴方もお疲れのようだ。暫しの間、私にお任せ下さい』
優雅、という言葉がよく似合う笑顔と動作で、謎の白い人物はスルリとコナンを彼の背中に回した。新一はすぐに取り返そうと、した。さすがに、見ず知らず―どころか、どう好意的に見ても「怪しい」という形容詞を外せそうにない相手に大事な弟を任せる気にはなれない。


「で、そン時に雨が強く降って来て―」


降る、というよりも、バケツを引っくり返したかのように落ちてきた、という激しさだった。新一は、慌ててコナンに傘を向けた。
一時的な豪雨が去った後、白い男はふんわりと嬉しそうに笑っていた。
『私にもお貸し頂けるのですか?本当に、お優しい方ですね』
『いや、オメーじゃなくて、つーか』
『じゃ、アンタはこっちな』
ぐいっと肩を掴まれ、後ろに引かれた。
さっきの男が、彼の(元は新一の父の)傘に新一を引き込んだのだ。
『アンタが濡れちゃ、駄目』
そういえば、新一は自分が濡れていないことに気づいた。
どうやら、己の後ろから、彼が傘に入れてくれていたらしい。

「それで・・・・」
「それで?」

言いよどむ新一というのは珍しい。あーうー・・と意味の取れない呻きもだ。

「・・・あー・・成程?そっから、ああなった訳か、新一兄ちゃん」

コナンが乾いた声で呟くと、新一は途端に顔を真っ赤にした。

「ああ、とは?コナン」
「俺はさ、途中で眠くなっちまって。新一兄ちゃんが背負ってくれたなぁ、って思ってたんだけど」

コナンが目を覚ました時、夜目にも映える白い布地が目の前にあった。
アレ?新一兄ちゃん、こんな服じゃなかったよなぁ・・・と思い、驚いて手を離したら、落っこちそうになったのだ。
そしたら。


「つーか、ヒデーぜ、新一兄ちゃん!俺のこと、アイツらに任せるなんて」
「な、俺だってなぁ、任せたくて任せたわけじゃ・・・ッ!」


コナンが目を覚ました時、即ち白い背中から落ちそうになった時、コナンの上半身を後ろから支える手があった。
首を反らして見上げれば、青いシャツを着た―先日、家の周りで見た不思議な生き物の、特大いや、兄くらいサイズの人物がいた。
下半身はおんぶする時に掴まれたまま、上半身は両脇を後ろから抱えられた体勢で。コナンを挟んで、以前見たときより大きいサイズの白いのと青いのは、ヤレヤレと溜息をこぼす。
『いきなり手を離しては危ないですよ、コナン』
『まったく、困ったボウズだな。大体お前も、ちゃんと支えろってぇの!ったく、・・・今度は俺が抱っこするからな』
『なんですか。さっきから代わりたくて堪らなかったクセに』
『オメーら誰・・ってか何・・、 あ! 新一兄ちゃん?!』
自分を背負っていたはずの兄は何処だ、と慌てて周りを見回す。
そして、目に飛び込んできた光景に、コナンは再び意識とついでに目玉を何処かに落としそうになったのだ。


「あのさぁ・・・じゃなんで、あんなことになってたワケ?」
「あれは・・・傘に入ったら・・アイツの頭に」
「頭?」
「青い小人が乗っかってたんだ・・・!」
「青い・・大きかったぞ?」
「お前が、落ちそうンなったとき、アイツ巨大化しやがったんだ!」
「じゃ、白いのもか!アイツらサイズ変わるのかよ?!スゲーな」
「スゲーって、話じゃねぇ、ありえねぇだろーが!!」
「え?嘘なの?」
「嘘じゃねぇ、本当だ。でも、ありえないだろ!なんで人間が小人だったり大きくなったりするんだよ!?」

地団駄を踏むような勢いで新一が言い募る。
コナンはやれやれと肩をすくめた。こんな、言ってる事に信用と同意を得られない故に引き起こされる苛々を伴うもどかしい態度には、覚えがあったので。
一方、話を辛抱強く聞いていた優作は、とうとうお手上げのポーズをとった。

「一気に話が見えなくなったよ?小人かい?」
「ん〜二人とも、こないだ俺が言った事信じてなかったってことだよな。裏の茂みン中でトトロに会ったってこと」
「ああ、実際、あんなん見るまでトトロなんか、なんかッ」
「いたろ。だから俺だって、信じられねぇけどいるって、言ったんだぜ」
「百歩譲って、見ちまった以上、信じるさ。でもな、」
「いやいや、私がコナンの言う事を信じないわけがないじゃないか。つまり、トトロの青いのと白いのは変身能力があって、もう一人いるトトロが、何か新一に良からぬ事をしたと・・・そういうことかな?」
「良からぬ・・・」
「・・・良からぬ、事かな、確かに。新一兄ちゃんが合意してないなら」



だって。あの時。
コナンの目の先にあったのは、自分の兄と兄と同じくらいの背丈の男との。
 (本日の現実受付は終了!)
どう見ても、キスシーンだった。
 (本当にありがとうございました!)
目は開いているハズなのに、シャッターを降ろした様に、現実感が遮断される感覚は、コナンにとってなかなか味わえない―新食感であった。

(そして
 呆然とした束の間のあと、
 ―トンデモナイもの、が目の前に現れたのだ。)



「合意とかあり得ねー・・」
「だったら」
「だーかーら!俺が青いの見て驚いて、色々考えているうちになぁ」
「不意打ちだったと」
「ああ・・・」
「・・・新一?つまり不意打ちで、同意なく良からぬ事をされた、と?」

息子達の話を総合し、その結論に至り、長男の態度でそれが間違いなく起こった事であると確信した瞬間。
息子を愛して止まない父・優作からドス黒いオーラが立ち上ったという。

 : : : : :


「いや、すまんね、ちょっとばかり腹が立って」
「・・・親父、夜なのに、鳥が逃げていったぜ」
「なんだろうな、あの気迫。何で小説家なんだろうな」

―では。その「ととろ」とかいう痴漢の所まで、ご挨拶に行こうじゃないか!などと怒りの気を撒き散らしながら、顔は相変わらずにこやかなままで言うものだから、兄弟は(怖ェーッ!)と思いつつ、宥め賺すの苦労したのだ。
肝心なのは、優作が最初バス停に降り立った時に、彼らが呆然としていた理由だ。

「てゆーか、追いかけるとか探すとか無理。アイツら飛んでいったもん」
「だよなぁ・・・コナン。飛んだよな?アレ」
「生物的にどう考えてもおかしいんだけどな・・・」
「人間の姿をした「とと、いや、もう痴漢で構わないかな。痴漢三人の仲間が自家用機でのりつけでもしてきたのかい?」

そんな不逞かつ意味不明な輩が徘徊しているなど、外灯の少ない田舎ではとんでもないことだ。治安の悪いところにお前達や有希子を置いておくなど、以ての外。通報だな、いやいっそ草の根分けてでも―
息子達が遭ったのは痴漢であると定義した父は、目を細めて「捕獲計画」を淡々と呟く。
しかし返ってきた返事は、思わず優作も目が点になるシロモノだった。

「あー飛行機、じゃねーな。飛んだけど」
「翼振音なかったの気づいたか?コナン」

「?じゃあ、小型セスナとでも?」

「バスだ」
「はとバスに乗っていったんだ」


「・・・というと、東都周遊観光でオナジミの」

「「違う」」

「車体は黄色のモノが多く、二階建てが人気の」

「「違うって」」

「色は白?ギンバト・・かな、コナン」
「ああ。あ、二階建て、ではあったよな。階段、あったし・・・」
「車輪はついてなかったが。アレ?車じゃないのか?」
「いや、俺の位置からは額に『おうち』ってバスみてーな行き先表示出てるの見えたし、大体バス停に来たんだから、バスだろ、はとバス」
「バスっても・・・骨格の構造と内臓物の所在が全く予想がつかねぇ」
「新一兄ちゃん、俺スゲーあれ乗りたいわ」
「奇遇だな。俺もだ」

なにやら肯きあう兄弟に、またも置いていかれている父・優作はストップをかけて確認した。

「コナン、新一・・・一体なにと、遭ったんだい」



  「「はとバス」」「と痴漢」



(ちょ、新一兄ちゃん・・・)
(お前こそ!)
(だって、なぁ・・・)
(ぶっちゃけ、トトロ達より、あの男三人が余裕で乗りこんで飛んでいったアレのが気になるんだろ!コナンだって)
(まぁな。あと、新一兄ちゃんが合意の上じゃないって解ったから、あっちの奴は痴漢だバーロー)
(・・・・)












収まり悪い文章なのは書き手が妄想重視で何も考えていないというか、脳内展開していく話に言葉が追いつかない的な。

この後はいつの間にかポケットに入っていた龍の髭で結ばれた葉っぱを開くと、そこには何と暗号文で出来た月夜の招待状が!
という、展開で。
興味本位で解読して、デートの誘いに乗ってしまえばいい。

*余は、余談の余。余計の余。よ。
この妄想話の途中に入るはずだった話です。
余にて、となりの妄想は終了〜。
・・・多分。
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