没ったネタA

■愛ある生活指導室■


コンコンとノックをする。―返事が無い。
ここにいると聞いていたのに、席を外しているのだろうか?思いながら、試しにドアノブを回すと、簡単に扉に隙間が出来る。

「しん…工藤先生?いらっしゃいますかー・・」
「おう。いるぞ」

一応、『生活指導室』なので、教師が生徒と密な話をしていた場合を考えて、殊更ゆっくりと声をかけながらドアを押し開いていくと、途中でやっと返事が来た。
彼しかいない部屋内に安堵しつつ、遠慮なく中に入り込むと、新一が部屋の真ん中に置かれた机の奥側の椅子に座っていた。入室者には眼もくれず、手元の資料を見ているようだった。

「いるんなら、ノックの時点で返事しようよ」
「どうぞ、って言われても嬉しい場所じゃねぇしなー」

確かにそうだろうけれど。
居留守でも構わないと思っているのがアリアリと判る態度だった。
まぁ俺だって、中にいるのがこの人でなかったら、間違いなくこんな部屋、扉の半径1M以内にすら入りたくない。
教師とタイマンで説教された苦い記憶ばかりがある身には、職員室並みの鬼門である。

俺は戸口に立ち部屋を見回す。殺風景な、愛想のない、生徒にとってツマラナイ場所だ。新一曰く、呼び出しが生じない限り、殆ど使われる事のない部屋で、使用目的の性質上、部屋は防音になっていて密談に適した場所であるらしい。しかも背後を見れば、内鍵が見えた。さり気無く、ツマミを回してみる。
窓辺に近づいて、閉じた窓を確認して、夕日が眩しいなァと呟きながら、カーテンを閉じた。

「…黒羽?」

眼の端で俺の行動を捕えていた新一は、最終的に背後に回って座る新一の背を抱きこんだ俺を睨み上げた。

「密室万歳?」
「バーロ、あのさ」
「新一、好き」
「っ…」

刺激に弱い耳を軽く食んで囁いて。素早く、低い位置にある新一の顔を抑えて口付ける。眼を合せると、怒っているのが明らかだったので、誤魔化すためにも合わせている唇を舌先で割ってナカを刺激してやろうと試みる。
しかし。

「…ッ!?」

グ…ッと舌先に強く深く歯が食い込んで、噛み切られそうな予感に恐怖を覚え、慌てて新一への拘束を解いた。直ぐに歯は引いてくれたが、本当に肝が冷えた。野獣のような人だから、不快にさせたら遠慮なくやるのではないかと思っていたが、―助かったようだ。

「…なんで?」
「あのよ、ここって監視カメラついてんだぜ?」
「え!?」
「密室の生活指導室。教師と生徒間でのパワハラ時にセクハラが懸念されるのが昨今の学校事情ってヤツだ」
「マジかよ」
「音声はON・OFFがコッチで選べるんだけどな。一応生徒の個人問題の話をすることもあるからって。でも、行動的にオカシイ事をした場合の証拠用に、画像は常にONなワケだ」

俺はサァー…と青ざめていく。つまり、先程のアレが。

「ま、今のは後でデータ改ざんしてやるから安心しろ。テスト期間は呼び出しは原則行えないから、カメラ監視業務はしてないんだ」
「え…良かった。って事は続きしても」
「バーロ!何分もの間の画像は切れねー」
「あ、そっか」

ちゃんと人の話は聞けよ、実習生!と新一は手元にあったファイルの角を、俺の頭に落とした。




   ** ** **






終るのでした。

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