■□となりのかいと■□ 「おかしいな、この家・・・変な気配がする」 コナンは、古びた家屋の―台所の勝手口を開けて、呟いた。 本日、父・優作、兄・新一とともに、このド田舎の一軒家に引っ越してきたばかりだ。 「人が残した気配じゃない・・・、結構な間無人だったのは、家の荒れ様から明白だ」 父が近隣に住むこの家の貸主に会いに行く間に、家の空気を入れ替えておくように言われ、コナンは兄と共に家やその周辺を探索していた。 そして、雨戸や勝手口などを開け放つ度に、外の光から逃れるかのように暗闇の中へと何かが移動しているような空気の流れがあることに気づいたのだ。 扉を開けた時に、風が中に吹き込んだものとは違う、内部で蠢く気配。 小さな無数の何か。虫でもない。もっと実体が無いような、薄くて軽い―風と共に飛んでいくような―・・・・。 「コナン?どうかしたか」 「あ、新一兄ちゃん」 「何か考え込んでいたな」 「あのさぁ、この家・・・変じゃない?」 「・・・お前も、思ったか」 「だよね。何かいるよね?」 「ん〜悪い感じじゃないとは思うが」 台所の上がり口で、小学一年生と高校二年生はふぅむ?と顔を見合わせた。 「ああ、こっちに居たか、二人とも」 「父さん・・・、ソチラは?」 「ここを管理されている小泉さんだよ。夏休みでお嬢さんが遊びに来ているそうだ。点検と不備が無いか見に来て下さった。この辺りのことを聞いておくといい」 「初めまして、工藤さん達?・・・まぁ、親子・兄弟そろって、とても眩しいものをお持ちね」 父親の斜め後ろで、まぁまぁと口元に手を添えて笑う小泉さんは、かなりの美人だった。 「はじめまして、僕、コナンって言います。小泉のお姉さん」 「紅子お姉さん、でいいわよ。よろしくね、小さな魔人」 「ま・・・?」 「普通の、俺の弟ですよ、コナンは。僕は工藤新一です。暫くの間、お世話になります」 「いいえ、こんな光の強い方たちがいるなんて。コチラこそ、良いものを見せていただいているわ。よろしく、光の魔人」 「魔人・・・?」 「紅子お姉さん・・・?」 「はっはっは、紅子くんは、普通では見えないものが見えたり、占いが出来たり、お告げを受けたり出来るそうだよ」 兄弟揃って、魔人呼ばわりをされては、少々微妙な表情をしても致し方ないことだろう。 しかし、息子らをそう呼ばれた父親は、大人の余裕なのか大人の事情か何なのか、カラカラと笑うだけだ。 「何なら、君たちも占ってもらうといい」では、後は若いものに任せた、家が使えるようにしておいてくれ、と。父は言い置いて、仕事道具と持ち込んだ大量の本の整理をしに書斎に使う部屋へと行ってしまった。なんとも速やかな行動だった。 「ふ〜ん?占い師なんだ!スゴイなぁ〜」 「ふふ・・・でも、残念ながら、あまりに光が強くて、私ではあなた方を見通すことは不可能ですわ。ここに迎える貴方達を水晶球を覘いていた時でさえ、あまりの光に目が眩みましたもの」 「・・・へぇ〜」 「水晶球で・・」 チラリと兄弟は目を交し合う。 その所作だけで、この美人、確かに美しいが少々難アリ、とお互いが思っていることが、お互いに伝わった。初対面の相手には、失礼にならない程度に探りを入れるのがこの兄弟の常なのだが、どうにも目の前にいる美女には関わらないほうが良さそうだ、と認識が一致する。 かといって、折角世話をしに来てくれた相手に失礼は出来ない。 (お前が相手しろよ・・・巨乳好きだろ、コナン) (ヤダよ、新一兄ちゃんと同じ年くらいなんだから、そっちで話してよ!) (親父め・・・) (逃げたね) 「お近づきの印に、一つだけ、忠告して差し上げますわ」 「?何か、危険な動物でも出るんですか?」 「いいえ、ココは至って平和よ。森の守りがいるから」 「・・・守り・・・?」 「そう、この家に入る手前に細い山道があったでしょう?あの道は神社の参道なの。御神木があって、その根元―ずっとずっと奥に、守り主が住んでいる」 「ああ、神社の神様かぁ」 祭られた神がいる、ということかと得心した二人は成程と肯いた。 「後で、挨拶に行くか、コナン」 「うん」 「やめておきなさい!」 「へ?」 「・・・何故?」 「忠告してあげると言ったでしょう?ひとの話は最後まで聞くものよ、光の魔人たち。ここの守り主はね、人を選ぶの。鼻にもかけられなければ、何事も無く無事にここでの休日を過ごせるわ。でも、」 「でも?」 「鼻にもって・・・選ばれないほうがいいってことか」 「そう、彼らに気に入られようものなら・・・」 「「なら?」」 「間違いなく、きっと、ロクでもない事になるわ!!」 ビシィっと鋭い声が二人の耳に届いた。 が、抽象的でコメントのしずらい内容に、二人は上手く言葉を返せなかった。 (アバウトすぎないか?) (仮にも神様がよ、気に入った相手にロクでもないって、どうなんだろ) (つーか多分、氏子だよなこの人、近所ってことは。いいのか?自分とこの神様なのに) 「彼・・・彼らは、綺麗なモノが好きなのよ」 「神さま複数形なんだ。紅子お姉さん」 「しかも手癖が悪くて。コッソリ出てくるならいいのに、わざわざ予告したり、性質が悪いったらないの」 「・・・神様の話ですよね?」 「あー、アレじゃない?新一兄ちゃん。昔話に出てくる、白羽の矢みたいな」 「花嫁を村人の中から選んで貢がせる?手癖じゃなくて悪いのは女癖じゃないか、それだと」 「信じられないようね?」 「「・・・・・」」 「別にいいわ。貴方達のことは見えないけれど、守り主が近々姿を顕すというお告げは出ているから。―しかも、青き珠玉に魅入られてしまうそうよ?」 まじっと見つめあう兄弟は、どちらも綺麗な青い瞳をしていた。 |