恋人値段



『まずは』お友達『から』でいいからと言って、白い衣装を脱いで近付いてきた黒羽快斗なる男を、最初は不審がって(不信もあって)、なかなかメアドすら教えようとしなかった工籐新一だった。

の、だが。

思いの外元怪盗というトンデモ遍歴を持つ黒羽快斗なる相手と一緒にいるのは楽しくて、気付けば、誰よりも興味深く何故だか居心地のよいと感じる相手になっていた。

だから、ある日『やっぱり』友達以上に好きなんだ、と悲壮感いっぱいで告白してきた快斗に、笑って頷く事が出来た。
これに快斗が狂喜乱舞したのは言うまでもない。

ところが。

なんというか、新一は、人前は勿論、二人きりでも絶対に手をつないでくれない恋人だった。いわんやキスもまた遠い。いやソレよりもまずは手を繋ぐこと。快斗としては、何よりまず恋人的スキンシップの導入として、せめて二人きりの時くらい指を絡めて繋がっていたい、と隙を見ては手に触れたりアレコレ画策もした。だが、なかなかどうして上手く行かなかった。
ならば、と駄目もとで新一に直接主張すると、新一は少し困った顔をしたあと、手ェだけでいいのか?と何とキス付きで問い掛け返してきたから、たちどころに頭の中はピンクの花畑を吹き飛ばす勢いで真っ赤な薔薇の旋風が吹いた。
青天の霹靂のような事態に動揺しつつも、据え膳を前に手を拱く様な性分でもない快斗は、機を逃さなかった。手を繋ぐところから…と考えていたスキンシップは、一足飛びに舌を絡める所から始まり、あっという間に身体の最も熱い部分を繋ぐようなお付き合いになってしまった。即物的だったかな、でもこれで一気に近付けたかも、と快斗は思った。
…しかし、新一が快斗と手を繋ぐのを頑なに拒否するのは変わらなかった。
デートの時に、両手をズボンのポケットに仕舞い込み、一人颯爽と歩く新一の姿をカッコ良く思う快斗だ。けれど(ベッドの中はともかく)人前ではない家の中にいる時にも、用が無いなら止せ、鬱陶しい、邪魔と言って、手を繋いでくれないというのは、あまりに切ない。
捨てられた子犬を演じる気持ちで快斗が切々とその切なさを訴えたところ、渋々と癖になったら困る、と可愛い言い訳をされて、一時降参。
悶々と考えた末に、いっそ快斗と新一がそういう仲だと公になれば、もっとラブラブ出来るに違いないと快斗は考えた。この頃にはお互いが各々の世界でかなり名が売れていたから、これはとてつもない決断と覚悟だった。そうして快斗が玉砕覚悟のプロポーズ…を決行したところ、拍子抜けするくらいアッサリと新一は快斗の申し込みに頷いた。トントン拍子に晴れて二人は結婚。しかも、何と盛大に式を挙げる形で。これは、互いに互いの関係者に対し、二人の関係を隠さず告げて、簡単に式もするという予定を漏らところ、彼らの関係者が喜んで祝いたい旨を告げ、近親者が派手好きだったが故に、こじんまりとした教会での誓い立てが、いつの間にかマスコミが書き立てる程の大騒ぎに、所謂「時の話題」にまでなったのである。

暫くの間、二人の身辺は大層騒がしかったが、快斗はむしろこの事態を喜んでいた。
―これで、外でもいちゃつける!と確信したからだった。

結婚生活もまた順調だった。
互いに忙しいのは変わらなかったが、疲れた、癒やして!と快斗が願えば、新一は添い寝をしてくれるし、腕枕も気前よく貸してくれる上、さらにおねだりすれば半裸にまでなって同衾してくれる。新婚万歳。勿論そんな状態で新婚さんが我慢できるはずもなく、快斗は羞恥して嫌がる新一を窘めながら一糸纏わぬ姿にし、疲れてるんだろ?、明日早いんだろ?と突っぱねてみせる唇を盗んで、丹念に身体ごと口説き落としてそのままエッチへ突入するのが日常になった。

そんな二人の久々の休日。

久しぶりのデート。

快斗は、今日こそ…!と密かに決意を固めていた。

「新一、はい」
「ん?」
「手だよ、手!」
「…はぁ?」
「繋ご」
「なんで」
「…え、なんでって」
「別にいいだろ」
「なんでだよ!?」
「・・・何ムキになってんだ?おめー」
「だって、お隣さんは勿論、ご近所さんだって、いやもう町内っつか都内にだって俺らがらっぶらぶの夫婦ってのは知られてんだぜ!?今更手繋いで歩いてたからって変な目で見られるわけじゃねーし、問題ないだろ?むしろ繋いでくれないのがおかしいじゃねぇか!」
「・・・俺達のことが、周りに知れ渡ってンだってんなら、それこそ繋がなくたって連れって判るんじゃねーの?必要ねーじゃねぇか」
「ある!!」
「快斗」
「俺は繋ぎたい!」
「・・・ってもなぁ・・・」

新一に本気で困った、という顔をされて、快斗は泣きたくなった。こんなにも互いの関係が進展して何の障害も無くなったというのに、どうして。
そんな快斗の必死さを流石に無視できないらしい新一は、ぽつぽつ、とその『理由』を明かしていった。

「オメーの手ってさ、特別だろ?」
「へ?」
「奇術師の商売道具ってこともあるし」
「そりゃ、まぁ・・・」
「俺にとっても、特別なんだよ」
「・・・はい」
「んで、・・・だから」
「はい?」
「だから、繋げない」
「いやいやいやいやいや、新一、今絶対一番大事な部分大幅に省略したよね?」
「チッ」
「納得いかねー!」
「だーかーら、なんつーかさ、怪盗してた時も思ってたけど、マジックだのあと料理だって何でも色々凄い真似しやがるオメーの手にさ、俺が自由に触れるようになったのは、すげぇ・・・幸運?みたいな。なんつーか、一億円の宝くじが百回分当たるくらい、在り得ないくらい、ラッキーな事っつーか」
「は?何…」
「・・・端的に言えば、触ってると、我慢できなくなるんだよ」
「・・・」
「夜とか、アレしてる時にオメーが恋人繋ぎってのしてくるのは、まぁ俺もぐちゃぐちゃになってる事が多いし、オメーの手独り占めしてる代わりに、俺の身体自由にさせてるし別にソレはいいかなって思うけど」
「・・・」
「外だの、ただウチでダラダラしてる時まで、独占すんのは、何か…」
「・・・新一、解った。もういい」
「え」

ウロウロ視線を彷徨わせて己にとって大分恥ずかしい真相を語っていた新一は、唐突な追究の終了に、ハッとして快斗を見た。―呆れられた、のだろうか。しかし、不安になったのは一瞬で、すぐ目の間にある恋人であり伴侶である相手の顔に、瞠目した。

「快斗、なに、泣いて…」
「そりゃ、新一がそんな事いうから!なんだよ、もう…とっくに俺は新一のだってのに。でも、そん位、新一は俺が好きってことだよな?そういう事なんだよな?」
「ったりめーだろ」
「新一、俺さ。結婚するとき誓ったよな。絶対幸せにするって」
「・・・おう」
「俺と手を繋ぐのが、百億円分の幸運って言うなら、繋がせてよ」
「・・・快斗」
「新一と手を繋ぐのに100億円必要だって言うなら、その分幸せにして、払うから」

片手は溢れた涙を拭いつつ、もう片手を新一の前に差し出す快斗に、新一は少し天を振り仰いで―それから観念したように一つ肯くと、その手を取った。


***

【工藤新一のお値段】メアド5万円、デート60円、恋人繋ぎ100億円、キス300万円、添い寝4円、腕枕10円、半裸70円、全裸30万円、H40万円、結婚0円。 http://shindanmaker.com/271155

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某診断結果におけるあまりの恋人繋ぎの価格高騰ぶりにやらずにはいられなかった小咄。
デート添い寝腕枕半裸の安さ・・・。そして結婚0円。なのに恋人繋ぎは億なんですってよ!


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