801082


学校が終わったらお前んちに行くぜと友人が言ってた時間の三十分前。
ソイツの友人以上の座を虎視眈々狙って夢見る家主は、余りにだらしない様子を見られて幻滅とかされたくないと考え何とか部屋を綺麗に整えた。それから、ふと我が身を省みれば汗臭いし埃っぽい。一応色々考え、軽くシャワーを浴び出したらまさかのピンポン。ひとまず手の泡だけを落として携帯を取り、勝手に上がってくれと告げて急いで残りの泡を流した。

半裸で(友人とはいえまだ付き合い始めて日は浅い)客人を迎えるのは憚られたので、適当に着替えを漁っていると、浴室扉の廊下側から「お土産あんだけど、適当に皿とか借りるな」と声を掛けられ驚いた。
彼の人は、基本あまりそんな気遣いをしない人だ。−少なくとも野郎、には。
これは常日頃女子ばりにスイーツが好きアイスが好きと自分を知ってもらう意図で色々言ってたのが功を奏したのだろうか。いやいや彼が己の嗜好を友人に伝えたのは、それを知っていて欲しい気持ちは半分以下で、それを取っ掛かりにしてソイツの嗜好を把握したいが為の呼び水のようなものだったから、まさかそれが、手土産持参なんて素晴らしい副作用を産んでくれるなどは全く予想の範囲外だった。


「悪い、待たせたな」
「おー、勝手に上がってやらしてもらってたぜ」
「土産って、どういう風の吹き回しだよ、工藤。お…プリンじゃん!」
「暑いから途中でコンビニ寄ってさ、目についたから」
「ありがと工藤、好きだ!嬉しい!」
「そんな好きだったんなら良かったぜ。でも、オメーの好みからいくと地味じゃねぇ?生クリームやフルーツ抜きって」
「いんや、好き!めちゃくちゃ大好き!」
「そか?」

黒羽は、ありがとう!と、大好きなんだ!を繰り返した。そこまで喜ばれるとは思っていなかった工藤は多少面食らいながらも、目をキラキラさせて言い募る黒羽に、ははは…と笑い返す。
それからオメーのはコレな、と台所のテーブルに用意していた小皿とスプーン、容器に収まったままのプリンを指差して勧める。だが、それを見た瞬間、黒羽は少し笑顔を曇らせた。

「えー、俺のもぷっちんしといてよ」
「ん?オメーって、そういうの自分でやりたい方じゃないかって思ったけど」
「風呂上がりにプリン!出来れば今すぐ!」
「じゃ、ほら」
「…へ?」
「こっち食えよ」

密かにほんの少しばかり期待しないでもなかった展開だが、実際目の前にスプーンを向けられた黒羽は目を丸くした。

(ままままマジで?!いーの?!これって、これって、つまり−)

「ほれ、アーン」
「……」
「いるんだろ?」
「…ぁ、うん、じゃあ…!」

工藤が行ったのは、黒羽の期待通りの台詞と行為だった。
湯上がりでサッパリしている筈の身体の熱がぶわりと上がって着たばかりのシャツにじっとりと汗が滲むようだ。
口先一センチの距離で止まっている銀のスプーンと、乗せられているきっと通常よりも数倍甘いであろうソレ目掛けて、ぐいと身体ごと唇を突き出し迎え入れた。

「…………?…!…?!」

「どうよ?」

ニヤリと笑う眼前の美しい顔に向かって吹き出しそうになるのを堪え、黒羽は口内の違和感をやり過ごして辛うじて飲み込む。

「…ォイ…くどー、これ…!」
「俺はコレがオメーのと同じプリンだとは言ってねぇぞ」
「いや見た目普通にプリンじゃねーか!」
「騙されてんなよ、マジック少年?まぁ、吐き出さなかったのは上出来」
「うあー、豆腐?だよな、なんでご丁寧にカラメル部分が醤油だよ?!」
「よく出来てるよなー」

うんうん頷いて工藤も一口。思わずスプーンの先を見つめる黒羽だ。あの銀の匙は間違いなくさっき黒羽の口に入ったのと同じもので、今は工藤の唇に触れてその奥へと突っ込まれていく。

「おやつに冷や奴、てのもオツだよな」
「いやもう、甘いプリンを待機してた俺の舌の期待を返せ」
「知るか、つか、だからこれをぷっちんしろって」

黒羽はテーブルの上を確認する。小皿のそばにお馴染みのパッケージをしたプリンは一つ。
既に小皿に乗せられているプリンも一つだが、こちらはパッケージが見当たらない。
そもそも工藤がわざわざ自分の分もいちいち小皿にぷっちんするなんて行為をする事自体が不自然だ。容器を直ぐには見えない場所に処分しただろうことも。大体この男は地方自治体が市民に願うゴミ処分のやり方に親しんでいるとは思えないし。いや待て待て、そも工藤新一は、大して甘ぁいスイーツを好んで食べる人間なんかじゃなかったはず。
だとすれば、意図は明白。
しれーっとした顔で上品にプリン状の冷や奴を口に運ぶ工藤は、してやったり、という雰囲気を醸していた。
なんだか完全に負けた気がして、黒羽はリベンジできないものかと頭を巡らせ―食卓の端に寄せて置かれている調味料に目を留める。

「よし、工藤。つまみ系おやつが良いなら、今すぐイイもん食わしてやる」
「はぁ?別にいらねーし」
「そう言うなって!高級食材だぜ?しかも材料は既に揃ってる。食わない手はねぇ」
「…何だよ」

工藤の向かい側に腰をかけて、まずは口直しとプリンを開けてぷっちんして一口。甘い。良かった、これぞプリンと黒羽はほぅと吐息を一つ。
それから。
今から準備するけど、食べてからのお楽しみ、ほら推理だ推理してみろ。と黒羽は工藤の目を閉じさせてから、そっと調味料置き場から醤油を持ち上げた。




(プリンに醤油で…?さ、アーン!)

※※※※※※※

馬鹿をやる二人にしては勢いが足りない。すいません。工藤さんは男前に男のぷっちん冷や奴を食べてたんだぜ…あのプリン容器に何故あれを…とコンビニで見たので書いてみた。
実にヤオイ。
恋人以前なのにナチュライチャイチャするのが快新!



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