タイムスリップ!


(*江古田高校校舎について捏造しております。校内配置図等詳細を考えずにお読み下さいませ!)


AM:10:59

―江古田高校の怪談。
創立半世紀を越えた江古田高校が敷地を広げ新校舎を増築したのが数年前。ゆるやかに物と人の移動がなされ、現在、壁に皹が入り床板がめくれ殆ど廃材置き場となっている旧校舎は、何年も前から取り壊しの為の予算が降りるのを待って静かに佇んでいる。
その江古田高校の旧校舎に関してまことしやかに囁かれているのが『13階段の謎』というものだった。
どの棟のどの階にかけての階段かはわからない。
ただ、その階段を踏み外すと、その者にとんでもない事が起きる、という。
だから、向こうの校舎には入っちゃ駄目なのよ!と言っていた幼馴染がいたなーと思いつつ、黒羽快斗はこっそりマジックを仕掛ける為にその旧校舎を歩いていた。

「ありえねー、ありえねー」

大体どこの階段?怪談と階段のひっかけとかつまんねーよ。
呟きながら、ひょいひょい屋上を目指して階段を上って行く。
この旧校舎は、今、快斗が在籍するクラスが使っている教室に向けて大掛かりな仕掛けをしておくのに丁度いい距離と高さがあるのだ。

「それにぃ?転ばなきゃーいいわけだしな」

そんな間抜けじゃねーよ、と足下に向けて呟いた時、頭上で『くるっぽー』と鳴く鳥の声がした。それにつられて見上げた先は、階段の踊り場上方に設置されている明かり取りの窓。―そこからバササっと羽音をさせ消えて行く鳥が目に入る。そして、快斗が従える鳩の種類にしてはやけに大きな白いソレを何気なく眼で追いかけていた快斗の足がーすぐ上の段を踏む筈だった足が、つるりと滑った。

「うわ!?」


***


「…えと、あれ?え?!」

足が何故か横に滑って、危うく足を捻るか顔を階段の角にぶつけるかするところだったが、持ち前の反射神経で咄嗟に両手をついて、快斗はそれらを回避した。
格好としては、まぁ滑っただけ。
階段についた手を払い、さて、と立ち上がる。

だが、そこで快斗は首を傾げる事になった。

「どこだよ、ここ」

さっきの今まで、ほんの一瞬視界が階段だけになる直前まで、快斗は旧校舎の階段を歩いていた筈だ。校舎の中。
それが、目を上げたら、どこをどう見ても『外』にいた。

「…はあああ!?」

視界に入ったのは、上の方向に伸びる階段―石段と、青空と、遠目に赤い鳥居。
首を忙しなく左右に上下に振って、わたわたと自分自身の場所を何度も確認する。
どう見ても、校舎の中ではない、どこかの神社に続く石段の途中、に快斗は立っていたのだった。

「…まさか、オレ、ついにテレポーテンションを…!?」

夢の超能力を手に入れちゃったのこれ?とかなりポジティブに呟いてみたが、テンションって何か違くね?とハッと気付いて己の投げ出された状況にちょっとテンションがおかしくなってるかも、と自覚した。

「13階段のアレ…?」

まさかなー、と思う。
あり得ないよなー、と思う。

しかし説明がつかない現状がある。
快斗自身にテレポーテーションをマジックで演出した過去はあるが、演者を置いてけぼりにしてそんな事は、普通、出来ない。普通は。
暫し呆然としていると、背後から―階段の下の方から騒々しい声が聞えて来た。

「さー、今から、この階段のてっぺんにある神社に行くよー」
「「「ハーイ!!」」」
「階段で転ばないように、ゆっくり登ろうね」
「「「はぁい!」」」

ちらりと振り返ると、エプロンを着た大人数名に、スモックを着て帽子を被った小さな子供達。大きな荷物は誰も持っていないから、近所の保育園か幼稚園のちょっとしたお散歩のようだった。
快斗はさりげなく石段の脇へとずれて、彼らの様子を伺う。
一体ここが何処なのか尋ねたいのだが、仕事中ーしかも子供の相手をしている方々へ話しかけるのは少しばかり躊躇する。とりあえず、場所が日本で日本語が通じて時代的におかしい格好をしているワケではなさそうだ、という事にひと安心出来ただけで儲けものだ。あとは、学ランを来てまだ陽の高い時間にこんな場所にいる人間が彼らの眼に不自然に映らなければ良いのだが。

ひとまず人通りの有る場所に出た方が他にも情報が掴めるだろう。
快斗は、石段を下ろうと、神社に向って登って来る園児らの方へ足を運ぶことにした。

「こんにちはー」

幼い子供や彼らを守る使命もつ相手に不審がられる前に好印象を与えるべく朗らかに挨拶すると、引率の先生が「あ、こんにちは!」と返してくれた。
つられるように、子供達も「こんにちは!」と言ってくれる。
それににこりと笑いかけながら、もう一度今度は少し視線を下にして「こんにちは!元気いいなー!」と声をかけた。
だが。
そこにあり得ない顔を見つけた快斗は、笑顔のまま絶句した。

―めめめめ、名探偵!?

そこにあったのは、桜型の名札をつけた、快斗の知る探偵君にしては些か様子がおかしいあの江戸川コナンことキッドキラーの名探偵だった。
何度も目を瞬かせて見てしまう。
だって、快斗が―あるいは怪盗キッドがよく見かけた彼とは何か違っているのだ。
まず青ジャケットに半ズボンで赤い蝶ネクタイの姿ではない。何より眼鏡をしていない。いや、それ以前にもっともおかしいその格好。―スモックに帽子、他の子供達と同様の、幼稚園児なり保育園児がする姿。
―小さい。

―あれ、見間違いか?
―いや、やっぱりこれはあの探偵君のはず?
―え、なに、まさか更に縮んじゃったのか!?

人知れず混乱する快斗の視線を不審に思ったのか、園児はふと足を止めてジットリとした眼差しを高校生に向けて来た。
なんか、すっげー目付き悪いんですけど!?と快斗はビクッと背筋を震わせた。

「こんにちは…ねぇ、お兄さん?なんでこんな時間にこんなところにいるの?」
「へ!?オレ?えっと、その…散歩?みたいな」
「ふぅん?おっかしーな。今はまだ昼前なのに。テスト期間にしたって早過ぎじゃない?」
「あはははは、おかしい、かも?ねー。あははは」
「あ、しんいちくん、立ち止まっちゃだめだよー」

―しんいち、くん…?

すいません、このコ好奇心が強くって、と苦笑して頭を下げる引率者に、快斗はいえいえご苦労様です、などと返しつつ、内心でそれはもうとんでもなく驚愕していた。
ホラ、みんなと離れちゃうから行こうね?と先生に手を引かれながらも、いまだ快斗を不審に思って睨む目をしてくる園児。その子供が胸に下げている桜の形をした名札を快斗は凝視した。

『さくらぐみ』
『くどう しんいち』

―江戸川コナン、じゃない、小さい探偵クン…?

示されている名前は、あの探偵の本当の名前の方だ。
だが、快斗が調べた所によれば、本当のあの小さな探偵の年齢は快斗と同じ歳の筈。
それが、あんな姿をしているという事は―


「嘘だろ…まさか」


***

神社へと続く階段を飛ぶように逆へ下って、細い公道へ出る。振り返り仰ぎ見た石造りの鳥居には『八幡神社』と刻まれていた。日本という八百万の神を祀る社のうち稲荷神社に次いで数多くの神域を建立している神社であり、具体的な地名が解らない。快斗は次に辺りを見渡し、近くの電柱へと近づいた。予想通りにそこには町名と番地が記載されているプレートが張ってあった。

「米花町… ・丁目・・番地。へぇ…米花、ね」

確かそれは、あの名探偵ー高校生の姿をしていた方の彼が住んでいた地域だ。なるほど、先程見たあの園児が当のご本人である可能性がぐんと高くなったな、と快斗は思った。思った一瞬後、ダッシュで通りを駆け出した。

(コンビニ!新聞でも、ああテレビでもいい!とにかく今日の日付けが解るモンは!?)

小さな小道の先には車が行き交う大きな通りが見えた。小道はそのまま大通りの歩道に繋がっている。右か左か。

(正面、コンビニ!…うわ、これ)

車道と歩道を分離しているガードレールを飛び越える。ッパッパー!と運転手の驚愕を示す音がしたが、その音が小道の前を通貨した時には、快斗は店名の一部が赤い靴を履いて帽子を被っているキャラが特徴的なそのコンビニの店内へ転がり込んでいた。

「い…、らっしゃいませー」

甲高い店員の声の戸惑いも今は気にしていられない。
快斗はズサァっと効果音が付きそうな勢いで一番奥のレジ前へ走り込んだが、新聞類は出入り口の方じゃねーか、と気付いて急反転。幸いにも売れ残っていたスポーツ紙を手に取った。

「………」


新聞の囲い記事の一番上に記載されている日付け。
それを確認した快斗は一瞬天井を仰ぎー窓ガラスの向こうの景色を眺めーそれから、快斗の様子を一体何だと伺う店員…今は見なくなった(数年前に別系列のコンビニと合併して全国から姿を消した筈の)コンビニの制服を来ている人間を見てーぶるぶると手を震わせた。手にしていた新聞がだんだんと皺くちゃになっていくが、そんな事に構っていられなかった。手の震えは肩にも伝わり、しまいには全身に。そして、最終的にピクピク痙攣しだした口で、快斗は叫んだ。叫ばずにはいられなかった。

「嘘だろ!?マジか!!?」

「お、お客さま…?」

「じゅーさんねんまえぇええ!?」


***

PM13:29

(なるほどねー、うんうん)

辛うじてポケットに入っていた小銭で皺くちゃにした新聞を買い取った快斗は、再び神社へと戻ることにした。
米花町といえば、とある事情から何度か町内を歩き回ったり潜んだりあと白い翼で飛んでみたり―あるいは白い翼の相棒を飛ばして偵察なんて真似もしたことのある場所であり、決して知らない土地ではない。
しかし、まずは不可思議な現象が発生した現場を確認せねばならないだろう、と快斗は考えたのだ。
何度も何度も、旧校舎で躓いた後目の前に顕われた石段の辺りを行き来した。
何度も何度も。
試しにワザと足を滑らせてもみた。
手をついて、眼を閉じて、しかし再び開けた視界にはまた石段。
端から見れば奇妙にしか見えない行動を一頻り繰返し、しかし何も変化が訪れない事しか確認出来なかった快斗は、もう一度新聞を開いた。

(日付けは、同じ。年だけが違ってる。俺自身と持ち物はそのまんま…だよな)

新聞に眼を通しながら、今度は石段を登りきって。それから、きょろきょろを辺りを見渡す。およそ2時間前に快斗とすれ違って石段を登っていた園児らの姿は無く、境内には誰も居なかった。
小さな神社。
その割にそこそこに広い境内には、何故か帽子を被っているゾウを形取った小さな滑り台と二客分のブランコ、三段階の高さに区切られた錆びれた鉄棒がある。遊具が囲んでいる地面には、何かの落書きの後や枯れ葉の山が出来ていた。きっと先程すれ違った彼らがそれらを残して帰ったのだろう。

コンビニ店内でトンデモ事態を確認した快斗は、自分が飛んだ年数を大声で叫び、そのまま―立ったまま意識を飛ばしていたらしく、ハッと我に返った時には入店時よりも短い針が一つ数字を飛び越していたのだ。
尋常ではない様子で入店してきたかと思えば奇怪な叫びを上げてフリーズした快斗をどう思ったのか、店員は控えめに「お客様…そろそろ、その…長時間のお立ち読みは…」と声をかけて来て、そこで漸く意識が戻ったのだ。思わず「すいません、今年って西暦何年ですか」と新聞を手にして尋ねた快斗に、店員は「西暦…は、・・・・年ですね、はい」と快斗の顔と手にしている新聞との間で視線を行き来させながら親切に答えてくれた。余計な事は言わない方がいい、と店員は判断されたらしかった。

誰も居ない事にホッとしながら、一方で、どうやら確実に幻でも人違いでもなかったらしい『あの名探偵』の姿が無いのは残念だな、などと思いながら、こじんまりとした神社のお社前の石段に腰をかけた。

「ま、切っ掛けとか原因究明だよな、とにかく」

声に出して己がすべき事を確認する。そうだ、そうだ、と自分の発言に自分で頷きを返して、ふと動きを止め―そして、

「どうしろっつーんだ!?」

結局叫んだ。


「うわ!?」

「へ?」

幼い声。
快斗の視界の端、境内に設置された滑り台の影に小さな何か。

「誰か、いる?のか、おい」
「……」

だんまり。しかし、殺しきれていない気配が、滑り台に登るゾウの背中辺りに一つ。己の思考ーというか現実が遠く感じている間、かなり周囲への警戒だのが疎かになっていたようだ。だが、それにしたって、存在自体が騒がしい小さな子供がいる事に気付かなかったとは。さっきしつこいくらいに石段から神社の境内を見回っていたが、その時には確かに誰も居なかったはずだ。
―いや、もしかして?と快斗は一つの可能性を考える。どこからか忽然と顕われたのでは?と。数刻前の自分のように。

「なぁ、俺、黒羽快斗ってんだ。怪しいモンじゃねーから、隠れなくてもいいぞ?」
「……」
「おーい?」

声を掛けながら近づいて行く。さて子供が喜ぶ飴の仕込みはまだあったかなーと、指先を動かす。新聞を握りしめ、そのままずっと無意識に力が籠っていたらしい掌がふっと解放された感覚があった。―平常心を取り戻すには、いつも繰り返ししている事を、いつも通りにする事がきっと大事なのだ。

(大丈夫。俺は黒羽快斗。未来のすーぱーマジシャン。どこに居たって変わりゃしねぇ)

「不審者じゃねーから」
「…怪しいじゃねぇか」
「えー。どこがだよ?」

言いながら近づいて、滑り台の影にいた小さな影を覗き込んだ。

「…オメー」

うわあああ!っと黒羽は叫んだ。
心の中だけで。
何とか、口には出さなかった。
何しろ、そこにいたのは『くどう しんいち』のネームプレートを下げた先程の子供だったのだ。

「えーと…さっき、すれ違った…保育園?の子だよな」
「おい、お前!さっきからずっとここにいたのか?ガッコウ行くカッコしてんのに、こんな時間にまだいるって…家出って、やつか?それともとーこーきょひか?…そーじゃないなら、オメーって『ふりょー』なんだろ!?ゼッタイそーだ!カツアゲする気なんだろ!」
「…すっげぇな、オメー。色々知ってんなぁ。でもさ、別に俺はフツーの高校生だから。カツアゲって、お前みたいなガキから何取ろうってんだよ。なあ何歳?『くどうしんいち』くん」
「オレは四つだ! …!?なんで、名前?!」

えっへんと胸を張った後、再び険しい顔をする子供に、快斗はちょいちょいと指先で子供のスモックの胸辺りを指す。そこに付いている名札にハッとしたしんいちは、慌ててそこを両手で隠した。

「いや、遅いから。もうバレてるぜ?さくら組の『くどう しんいち』くんよぉ」

面白い反応だなー、探偵君と違ってまるっきり子供っぽくて何か新鮮〜などと能天気に考えた快斗は思わずニヤニヤ笑ってしまう。笑われた!と感じた子供は気色ばんで叫ぶ。

「きやすく呼ぶな!お前だれだよ!?」
「俺ー?黒羽快斗ってんだ。宜しくな、ボーズ!」

ケケケと笑って快斗はパチン、っと音を立てて指を弾いた後、ポンと飴を出して彼の前へ。
ビシッと突きつけていた指先が慌てて受け取る形をとった。

「………」
「いや、やるって。飴、嫌いか?」
「別に…。でも、知らない人から物もらっちゃ駄目って…」
「言ったろ?俺は黒羽快斗。米花町から数駅先の江古田の高校生。今日ここにいるのは…偶々?かな」
「くろ…ばか、いと?」
「だー!変なトコで区切るなよ。黒羽・快斗だ。快斗にーちゃん、な?レモンの飴、すっぱくて苦手なら、イチゴのもあるぜ」
「かいと。…くろばかいと、か。いや、アメはこれでいい…」

名乗った後に(何で俺うっかり本名言ってんだー!?)と内心混乱していた快斗だが、ちいさな手が器用に動いて飴の包みを剥がし、ころんと出て来た黄色い粒が小さな口の中に消えて、…もごもごと丸いほっぺが動いた後、幼い外見に不釣り合いな険しい眉間の皺がパッと消えたのを見て、快斗はまぁいいかと肩を落した。
どうにも、眼鏡の無い、曇りのない綺麗な眼の前で嘘はつけない気がしたのだ。

「で?どうしてここにいるんだ?」
「…わすれモン」

モゴモゴと動く口から出た言葉と子供が投げた目線の先には、滑り台の天辺であるゾウの頭に乗せられている黄色い帽子。

「そっか。ん?でも一人で来たのか?」
「今は昼寝の時間なんだけど。…抜け出して来た」
「…え。おいおい、それじゃ先生やともだちが心配するだろ!?」
「ふん。オレの布団には、畳んだ座布団とヌイグルミ入れて、ちゃんとオレが寝てるみたいに置いて来たんだ!」

どうだ!と言わんばかりに犯行を得意げに語られた快斗はガックリと肩を落とす。
バレないと思っているのか。
いや、幼い姿をしているとはいえ、恐らく、間違いなくコレはアノ工藤新一なのだから、その辺は抜かりないのかもしれないが。

「…今、二時前、か」

コンビニで時刻のズレが無い事だけは確認できたものの、生憎と最初の画面表示以外ウンもスンとも言わなくなっている携帯で時間を見た。きっと子供の通う保育園は、午前の散歩を終え、昼食を取り休憩を入れて今頃からのお昼寝タイムということなのだろう。

「三時にはオヤツだって起こされるから、それまでにもどればいーんだ」
「…そういうこと、よくやってるのか?オメー…」
「眠く無い時はな。こっそり抜け出して本読んだり、いろいろ」

黄色い帽子を手に取って子供がよっとばかりに深く被る。
…保育園から園児が消えるなどと明るみに出たら、すわ誘拐案件か先生陣の監督不行き届きだのの大問題が発生するだろう。人ごとながら、幼くして既にあの探偵坊主並みの自由行動をしまくっているらしいこの子供を見守らねばならない大人達に同情を覚える快斗だ。
だが―、これは実は僥倖な事かもしれないのでは、と、ふと快斗は考えた。
何しろ、この辺りの事に詳しい、将来的には警察も怪盗も手玉に取ろうとする末恐ろしい子供なのだ。
よく分からない世界にやってきた快斗にとって、何か手掛かりを示してくれるかもしれない。
(よろず困り事には探偵事務所ってか?)

「んじゃ、オレ行くな」
「戻るのか?やっぱ、抜け出したのバレそうで心配なんだな」
「ちが!ンなことねーよ!まだ時間あるから、今日ハツバイのぶんげいーしをのぞきに行くんだ!!」

つまり、まだ暇はあるようだ。

「なぁ、『工藤新一』くん。突然だけど、俺がここじゃない未来か、あるいは別の世界から来た人間だって言ったら信じるか?」


***


「それで、ワシの所に連れて来たのか、新一くんは」
「そ!博士の所なら、コイツの持ってたお金がニセモノかどうかわかると思ってさ」
「おかしいのが記載されている鋳造年月日だけだって解ったら、少なくとも、俺が偽金造りのワルモンって推理は成立しねーからな」
「まぁ、確かに…ちゃんと使える硬貨を作る人間が存在しない偽造貨幣を作る理由は無いからの。…愉快犯でないのなら」
「! そっか。ゆかいはんって線が残るじゃねーか!」
「あのなぁ。そういうのは人知れず流通させて、それが明るみになる頃には高みの見物出来る場所にいる犯罪者がやることだろ。オメーに確かめさせる意味がねぇって」
「あ、そっか…」
「まぁ、まずは調べてみようかのー」

神社で数十分の遣り取りの後、快斗は思惑通りに探偵のテリトリーにある若い天才博士の邸に連れて来られていた。怪盗キッドが忍び込んだ時よりも幾分か小綺麗な外壁やガラスに、物の置き場にまだ余裕のある家の中。小さな来訪者とその連れに応対してくれたのは、髪がまだ黒く、フサフサしているちょいと小太りの眼鏡の男だった。幼い工藤新一よりも若干年上の江戸川コナンが身につけていた規格外のスケボーやら時計やらを発明したという人物の13年前の博士だ。
彼は、突然訪ねて来た子供に最初だけ少し驚いた顔をして、「おや、新一くん。今日は早いんだねぇ」と笑いかけた。どうやらこの子供が変な時間にこの家にやってくることはよくよくある事らしい、と快斗は推測した。子供に挨拶をした博士は、そこで素早く時計を確認し、二言目には「15分過ぎたら、保育園とお家に連絡を入れるから、オヤツは家で食べていくと良いぞい」だったのだ。
快斗に対しても、人の良さを伺わせる笑顔を向けて「この子を送ってきてくれたのかな?すまんのう」と頭を下げる有り様だ。だが、小さな子供の言い分と快斗の差し出した「未来の年月日」の刻印されている10円玉を見てからは、その視線に幾分かの不信感と疑惑を含ませている。当然の反応だろうな、と快斗はその眼を臆する事無く見返しているが。

(場所がコイツ(工藤)のお隣さんってのは引っ掛かるが、…少なくとも非現実的な事態にも対応する度量のある人間だってのは解ってるし、繋ぎがあるのはマイナスにはならねーだろ)

神社の境内にて、一番最初に飴を取り出したマジックを、今度は中身を快斗が所持していた「今のこの状況では使えない」硬貨に変えて。マジシャンの指先から現れては消え、思わぬ所から飛び出して来るコインに子供が眼を輝かせ始めたのを確認し、あえて子供の手の中に落して確認させた別世界の手掛かり。その最初の言葉が『あれれ〜?』や『おかしーな』なんて可愛い言葉ではなく、『おい…ギゾーは、カヘーの信用性を失わせる大罪だぞ!』だったのには度肝が抜かれた。しかし同時に、彼の眼はどんな姿でも間違いなく「探偵」のモノだった事に嬉しくなってしまった。

博士が「まぁ…成分比重と諸々を確認してこよう」と言い残して別部屋に消える。
再び二人きりになったところで、快斗は「忘れんなよ?」と子供に話しかけた。

「わーってる」
「俺が、未来人って解ったら、元の世界に戻る手伝いする約束、だからな。頼むぜ?工藤新一くん」
「おう」



***


13階段で転んで、13年前にタイムスリップ!


***

本誌でさくら組新一ボーイを見た時に悶々考えた4歳工藤と遭遇する17歳黒羽の話でしたー。
続くかどうかは未定ですが、鳩が導く不可思議現象バージョンか博士とバックトゥザ未来チャレンジにするか悩みだして一旦ここまで。


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