*好きな曲に快新やKコを重ねてみた妄想文
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並んで歩く高校生と小学生の会話は密やかなモノで、時々大きくなるのはオレの笑い声くらい。きっと横を通り過ぎる誰かには仲の良い兄弟くらいにしか見えないだろう。手を繋いでいるワケではないけれど、時々顔を見交わして、凸凹の身長差をモノともせずに、互いに向かって飛んでいく気安い間柄を思わせる言葉の遣り取り。
「・・・だろ?だからさ」
「ああ。わかるわー・・・でさぁ」
見た目は子供なのに、頭脳はオレに引けを取らない明晰さ。なんでそんな事知ってんだ?と己を棚上げつつ思う事でも、ポンポンと言葉のキャッチボールは止まらない。
実に、全くもって存在自体がそら恐ろしいとしか言えない、名探偵である『小学生』。
「って言うわけ。でもそれって・・・」
「へぇ。じゃあさ、・・・」
歩きながら交わす会話は楽しくて、ついつい足も軽くなっていく。
ところが、そうなると、途端に探偵君の声が遠くなってーオレは慌てて、歩幅を小さく歩調をゆっくりに戻した。
【すのーすまいる】
君と歩くには少しコツが要る、あたり。
A
夜のビル街。人の営みを黙して見つめるブロンズ像の足下に、暗闇に映える真白の翼を持つ鳥がそっと降り立ち羽休め。空は曇って煙って薄暗くて、真っ暗に沈んでいる筈の地上の灯りの方がまるで数多の星のようだった。
羽を閉じた怪盗は、その星のなか一際直近で己を見つめる青い光に気付いて、静かに唇を緩めて息を吐いた。
「子供はもう寝る時間ですよ」
「なら、オメーもだろ?”キッド”さんよ」
「…―どうして、ここへ?」
解かれる事を期待していなかった暗号文は予告状のメイン文章の枠外に。
何気ないポスト・サブジェクトと”キッド・マーク”。
時に受け取り手を煽ったり、あるいは予告文を解いた者の行動をこちらの思惑に乗せる為の直叙文。
「示された予告状の暗号を解けば、何時どんなタイミングで狙って来るか解るものだった。実際、オメーはその通りに顕われて、獲物を手に入れやがったろ」
「…読んでいて、現場には御出でにならなかったのですか」
「問題は、わざわざ付け加えられた『それでは、月の墜ちる頃に』…予告時間は既に提示されている。今の時期、月の南中は予告時刻よりもっと後だ。その上、現場にオメーが置いてった『お宝は頂いた・怪盗キッド PS:女神は私に微笑んだ』―今夜の風向き、犯行後曇って見えなくても予測される月が落ち出す時間に、女神のいる場所つったら、ここしかなかった」
「…見事この場所を探し当てた貴方に敬意を払い、今宵は姫君をお返ししたい所ではありますが―」
残念なことに、深夜行き過ぎると予報されていた雲はまだ怪盗と探偵のいる空を覆っていた。
これでは、怪盗は最終的な目的をー手に入れた獲物が真実怪盗の欲している何かであるかの確認を―達成できない。
折角、怪盗がショウの幕を下ろしてなお、彼を追って辿り着いてくれた相手だが、天候ばかりはどうにかなるものではないので、これは探偵に諦めてもらう他なかった。
おそらく目的の品では無い気もするけれど、可能性がゼロとは言い難いから怪盗は今夜のショウを開いたのだ。ゼロと確認されれば即刻投げ渡せたものを。―あたかも役者から客席へ、観劇にきてくれた相手へ感謝の印に、身につけていた衣装の一部や愛用品を舞台上から贈るように。
「手ぶらで帰そうなんざ思ってねぇだろうな?」
チキチキ…チィィ…と探偵がそっと腰を屈め靴のどこかを弄くる音が、風に乗って怪盗の耳にも届く。これは常識破りのサッカーボールが飛んで来る前触れだった。
「…今夜はこれで、お見逃しを!」
素早く怪盗は再び翼を広げその場から飛び出す用意をすると同時に、人差し指と中指と軽く揃えた指先を己の唇に宛ててから、 ちゅ とリップ音をさせてその指先を物騒な顔で笑う探偵へと向けた。
「!?ふっざけんなー!!」
探偵が怪盗の仕草に反射的に首を振った隙に、とん と怪盗は夜空へ、落ちた。
(あーあ… 折角、来てくれたってのに。タイミング悪ぅ)
背後から風を唸らせ迫り来るサッカーボールを躱しながら、ちらりと振り返って意気消沈。
獲物を彼の手に渡してあげられていたら、もう少し心楽しい会話が出来た筈だったのに。
―怪盗はいまだ黒い空を睨んだ。
会いたかった青い星に来て貰えた白い鳥は、けれど星を手に入れる事も出来ずに、闇を飛ぶ。
【★のとり】
届くかどうかわからないけれど。ここにいるよ、と。メッセージをずっと送り続けるそんなイメージ。