*とある暗号が発見された!ニュースに沸いた妄想。
「よぉ、よく来たなコソ泥さんよ」
「…名探偵がお呼びになったのでしょう?今度は何の用ですか」
コッソリ偵察の為にと飛ばせていた白い仲間達を逆手にとって、『盗撮で訴えられたくないなら今夜来い』と画像で指定してきた好敵手の尊大な態度に、これはまた無理難題を押し付けられる予感を多分に感じた怪盗は非常に警戒しつつ目的を問うた。女装はまだしも滑走する爆発列車からの脱出マジックを強要された記憶は全く薄れていないから仕方ない。
しかし、此度の場では怪盗と探偵の立場はイーブンだろう。盗撮を大目に見る?冗談じゃねーや、と怪盗は内心で呟く。得たい情報の為に発信機や盗聴という手管を惜しみなく用いるトンデモ探偵に、盗撮程度の行為を見逃してもらった恩など感じたくはない。そもそも借りよりも絶対貸しの方が多いはずだ。―なのに、ついつい探偵の言い分を聞く姿勢を取ってしまうのは、一重に怪盗自身がこの小さな名探偵を心底気に入っているからなのだ。結局のところ、お気に入りの、有体に言えばとても大好きな相手からのお誘いは断れない、という最大の弱みを怪盗は持っていたりするのだが、そこのところはポーカーフェイスの下に押し隠している。
しかし、名探偵からの思いもよらぬ命令ならぬ「オネダリ」は、怪盗の仮面を僅かに揺らがせた。
「ちょっと頼みがあんだよ」
「…どんな?」
「…京都に連れてけ」
へ?と怪盗は少々間抜けな声を出していた。
「ええっと、旅費を集りたい?」
「バーロ!オメ―の分くらい捻出してやる」
「保護者が必要?」
「ちっげーよ。行くだけならおっちゃんでも博士でもうまいこと言って連れ出しゃいいんだ。それなら旅費もかかんねーし」
何この子怖い、と今更なことは口にせず、怪盗は首を傾げて探偵を見た。
「だーかーらぁ、オメ―と京都行きたいんだって」
「え」
怪盗の視線を微妙に避けつつ、不貞腐れたような、見ようによっては照れたような名探偵の姿を認識した瞬間、怪盗の頭の上ではリーンゴーンとチャペルの鐘が鳴ったような気がした。―デート!?これってもしかしてデートのお誘い?!今なら雪景色も綺麗だしまだ寒い京都でしっぽり湯豆腐で暖まって、ついでに和室に敷いた布団は一つ枕は二つで、より暖かいめくるめく世界へイッちゃったりなんかしたらもう新婚旅行も同然うわぁ…―怪盗の思考は一瞬で東都から京都への最短ルートとデートコースとを計算し始める。
が。
週に一回の割合で新聞に記載されている時刻表の変更記載欄を記憶から引っ張り出した際、同時に今朝がた読んだ新聞記事が一つ頭に浮かび―その瞬間、ハッと我に返った。
念の為に、怪盗は問いただす。
「…名探偵、それって俺じゃないと駄目ってことか?」
「オメ―じゃなきゃ無理」
駄目、ではなく「無理」ということは。
ふと沸いた疑念は正解だった、ということだ。
確かにこの探偵は怪盗と京都に行くことを望んでいるのだろう。だが、それは怪盗が期待したような内容では全くない。
「それって…61通のアレか」
「それだ」
「盗ってこいってか」
「誰が泥棒推奨すっかよ。入れればいい」
本気の顔をした名探偵は、「で、どれがいい?」と京都大学某学科教授群や某学科学生名簿や更には某省庁政府高官の顔写真を、怪盗の前に広げ出したのだった。
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今すぐ京都(の例の塾蔵)に連れってって!
*詳しくは「岩倉」「暗号」あたりでご検索を。
*但し暗号といえば名探偵!という短絡発想なので、内容には無関係です。