またせたひとまってたひと
(名探偵誕会話ネタ『めでたいひとこどものひと』派生未来系快誕)




「よっ!こんばんはー」

「……お、前」

「突然お訪ねしてスンマセン。えっと…俺さ、黒羽快斗っていうんだけど」

「……」

「あの、今日、ここに来れば祝って貰えるって聞いてたから、きた」

「なんで」

「ホラ、21日じゃん、まだ。あと、15分ある。俺の誕生日なんだ」

「………てめ、遅ぇえええええ!」

「ごめん!いやホント来ようかどうか悩んだんだけど!」

「違う!」

「へ」

「何年経ってると思ってんだよ!?てめぇがああいうから、次の月に待って……なのに、その年も次の年もその次も…っ」

「ごめんな」

「仕方ねーから、わざわざてめぇんち行ってみりゃ、蛻の空だわ、去年なんか家、売りに出されてて!」

「あ、バレてた?うん、ちょっと雲隠れしたり、華々しく活動してたら資金が足りなくなったのもあって、結構色々手放しちゃってさ」

「あんだけ盗んどいて?馬鹿か。馬鹿だろ」

「言っとくが、怪盗が稼ぎになった事なんかねーぞ?やればやる程赤字っつーね」

「てめぇが!あちこち飛び回りやがるから、こっちだって旅費どんだけ掛かったと思って…しかも、全然っ、」

「悪かったな。治安の悪い場所でデートすんのは好きじゃなくてよ」

「…もう、いいのか」

「今は駆け出しの貧乏マジシャン。ま、そのうちドル箱スターになってやっから。安心して嫁にきてよ」

「バーロ!」

「んで、ま、本題なんだけど。…ケーキとか無い?」

「あるわけねーだろ。…腐るととんでもねーんだよアレ」

「プレゼントは?」

「ねーよ。…期限切れの暗号文なんざ賞味期限切れのケーキより早く腐るんだぜ?大体―」

「ん。家、無くしたしな。転送先も消しちまってたし。…受け取れなくて悪かった。受け取って、なのに、行かなかった分もごめん。ごめんな」

「………」

「でも、俺は欲しいんだ」

「なにを」

「あん時、言ったよな?用意してなかったら」

「……」







「名探偵を貰うって」









※※※※※※

最初の年は、やはり本気じゃなかったんだろうと、ケーキの場所を示唆した暗号文を破り棄てた。怪盗はあくまで俺の前では怪盗だったのだ。まさか自身の生年月日なんて結構な真実を口にするわけがないと。それでも用意をしていたのは、良いように言質は取っていると飄々と笑うアイツが脳裏にチラついたからだった。そのやけに有り得そうな光景はなかなか消えず、結局、次の年も準備する自分がいた。もっとも、その年のその頃、怪盗を記した新聞の紙面は英字で綴るモノが殆どで、恒例行事染みていた俺の誕生日にかこつけた(こどもの日の展示物から逃げる道連れにする)犯行もなく、梅雨の晴れ間に見えた月は静かに佇むだけだった。日本にいねーんじゃな、と次の年からはアイツが出没する国と場所に当たりをつけて、その近場への呼び出し状を、アイツの生まれ育った家へ送ってやった。隠れ家を突き止めるのは悔しいことに困難を極め、ひとまず彼の生家には国内に残る怪盗の共犯者の気配がしていたからだ。しかしそれも次の次の年には、某国のメディアが怪盗の生死不明を報じたと同時に綺麗に消えていて、二、三回ほど宛先不明で戻ってきたカードと冷蔵庫に放置していたケーキとを一緒に処分する事があった。
−無論、アイツが欲していたらしい俺なりの暗号文を直接渡してやろうと追いかけた時期もある。だが、アイツは徹底的に俺という探偵から逃げ回った。そして逃げ切った。
いや。
たった一度。ある年のApril foolの夜。
嘘を見破り接近を果たした。だがその時俺が見たのは、三文字分だけ動いた唇。
『クルナ』−紙面越しで見たニヒルな笑いはそこには無く、シルクハットの影から見え隠れしていたのは哀切と懇願。それを受け入れた訳ではなかったけれど、怪盗捕獲にと手を借りていた人物が『工藤くんが、黒の組織を潰しに行こうとしていた時と同じ顔に見えたわ』と言ったのを聞いた時、俺は追うのを中断した。勝負を預けてやったのだ。
探偵という人種である俺から絶対的な距離の向こう、境界を超えた場所にいた犯罪者であるあの男は、常に俺を境界線上に呼び寄せ、しかし俺をそちらの側に引っ張りこもうとするでもなく、ひたすら危うい綱渡りを楽しんでいるような奴だった。何度俺の側に引き連り込んでやろうか思ったか知れない。しかしそんな俺の意図は易々と見抜かれて、だから、きっと、−アイツは俺の呼び出しを受けることなく消えたのだろう、と。そう思うことにしたのだ。

祝って下さい、と懇願していたのは白い男。
だが、ようやく現れたアイツは、『黒羽快斗』としか名乗らなかった。


プレゼントを強請る目の前の男の言い分に俺は眉を跳ね上げる。

−貰う、だと?

「…俺が約束してた奴じゃないから無効だな」
「いやいやいや、知ってたじゃん!」
「怪盗は三年も前に消えたんじゃなかったか?中森警部宛てに、最初で最後の予告状ならぬ完了報告が来たって聞いてるぜ。俺はそこでアレは終了したとばかり」
「表ではな。色々都合があったんだって!マジで悪かったって思ってる」
「…オメーの都合なんか俺の知ったことかよ」
「……」
「勝手ばっか言ってんじゃねぇ!」

「ごめ、」
「ふざけやがっ」
「好きだ!」

「−…は、…って、なに、を」
「ずっとずっと好きだった。好きで、だから、逢いたかった」
「……」
「…名探偵が祝ってやる、って言ってくれた時、きっと次の誕生日は一番欲しいものが貰えるんだ、ってワクワクしてた。でも、ちょうどあの時…俺は、俺の手は、やらなくちゃなんねー事で一杯になったんだ。だってその為に俺はあの白い衣装を着たんだから」
「へぇ?てめぇがてめぇ事で一杯だから?お荷物は増やしたくなかったとでも言うつもりか。大体、俺はオメーのモンになるつもりなんざこれっぽっちだって…!」
「ンな事言わねぇ!そんなタマじゃねーだろ、お荷物なんてよ。…でも、そうだな。名探偵は、怪盗はともかくさ、きっと『黒羽快斗』を助けようとするんじゃないか、とは思ったな」
「…それは」
「相容れない筈の相手が、名探偵にとって救うべき「人間」だと認知された瞬間、引いて然るべきラインが見えなくなるんじゃないかって、…無茶しそーで、だったら俺は「怪盗(ファントム)」のまんまで良いって、そう思った」
「それ、は」

確かに俺は、突然日本を離れ、各地で犯行を起こすくせ、まるで煙いや、正に幻影のように痕跡すら消して漂う怪盗を捉えて、アイツがそうせねばならない事情を暴き出し、早くあの家に―隣人の息子が行方不明なのだと不安がる中森警部やその娘さんの隣に―戻してやりたいと願っていた。
だが、近付く事を頑なに拒否する怪盗の様は、彼自身の手で成し得ねばならぬ事情があるのだと雄弁に語っていて、…それはかつての己の姿に酷くダブってしまい、俺は言葉を呑み込むしかなかったのだ。

「邪魔されんのと同じくらい、巻き込むのだけは、嫌だった。だって、ただでさえ、名探偵のまわり事件ばっかで。監禁でもしなくちゃ安心できねーって常々思ってた俺がどうして、危ねーかもしれないトコに名探偵を連れて行けるもんかよ」
「……俺、は」

あの頃、境界線上を飛ぶ白い翼に手を掛けられていたら、きっと俺は下を見ずに境界を越えていただろう。もっとも、必ず俺のいる側に碇を置いて、引き戻せるように細工をして、だ。俺は俺自身の遣り口をよく自覚していて、それが怪盗たるアイツの存在を脅かすであろうことも知っていた。

―だから、やめたのに。
声を出すのも手を伸ばすのも暗号文を作るのもケーキを買うのも送り先を探すのも各国各紙にあの番号がないか探すのも全部。ぜんぶ。

「じゃあ、何だって今更ノコノコきやがったんだ!?」
「…やっぱ、名探偵のプレゼント受け取り損ねたまんまじゃ、きっと一生あの年で俺は止まったまんまなんだろうなって思って。…名探偵、欲しいんだ」

謝罪を並べ立てていた時とは違う、何かを主張する強い視線が目の前にあった。
何かを?
何を?
そもそもコイツの目的は。

「………おい?」
「他に欲しいもんなんかねーんだよ。なんも無かった。今までも、この先も。きっと俺が本当に欲しいって望むのはお前だけなんだ」

「だから」

「名探偵を、ちょうだい」









(怪盗を廃業しちゃったから盗むわけにもいかず、正攻法でおねだりに来ました)


※※※※※※

待たせた年数分、死ぬ気で口説かねばならぬ元怪盗の幸せな苦行開始である。
監禁名探偵を色々味見したいなーと思ってた矢先、父の仇やらパンドラやら組織なアレコレやらで世界各国飛び回りだし、挙げ句は生死不明で名探偵や世間の前から消えて数年後………という脳内設定。
再会する頃には名探偵は大きくても小さくても食べごろです。でも食べられるまでは時間がかかるかもしれません。
*すでに誰かに舐められたりカジられたりしてないかは下調べ済みの上で、未開封プレゼントを強請りに行ったという微妙なヘタレ野郎な元怪盗。…とかだと楽しいかな!あとで名探偵にバレて「んなコソコソしてる暇があるなら…!」ってキレられて慌てるやら胸熱やら。

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