多分無自覚プロポーズ
とても簡単な二文字の言葉が伝えられないもどかしさに、地団駄を踏みたくなる。
言ってしまえば、全て終るような気がするのだ。
もしかしたら、何かが始まる可能性も、ある…ことはある、のだけれども。

なにより、失ってしまうことだけは嫌だった。

だから言えずにいた。
それなのに、目の前の男は、あっさりと言い放った。

「名探偵が、好きだよ」

恐らくあんな阿呆なカッコで馬鹿な真似を繰り返すようなヤツだから躊躇い無く言いやがったのだ。
―とは流石に思わなかったが。
それでも、己と彼と間に間違いなく存在している果てしなく高い壁あるいは深い溝を知っていながら知らぬフリで、ただ易々と躊躇いも拘りも越えてきたようなその言葉に。嬉しさよりもまず感じたのは、自分には出来ない事をやってのけた彼に対するムカつきだった。

「怪盗なんか、嫌いだよ」

なので、即答した言葉に偽りはなく、常々心にあったそのままがするりと口から漏れていた。
言いたい言葉と反対の意味を持つ言葉は、いとも、あっさりと。
−怪盗は嫌いなのだ。
それは探偵が解くべき謎であって、捕えるべき罪人だから。
そうでなくてはならないのだ。
けれど、彼のことは。

「怪盗のクセに探偵馬鹿にしてんのか」
「探偵のクセに真実から目ぇ逸らそうってのか」

酷い言葉を捉えて、からからと笑う。
俺の口にする好きも嫌いも、どっちでも大して意味などないと言うような態度に、安心と不安と、激しい苛立ち。ムカムカする。

「ん、だと」
「俺だってさ、探偵なんか大嫌いなんだぜ?いやアイツらってホントおめでてーなってよく思うわ。怪盗なんぞの場に乗せられた時点で終ってるってぇのに、批判家らしく偉ぶってくれちゃって」
「・・・気があうじゃねぇか。俺だって、しゃあしゃあと違法行為しといて紳士ぶってお寒い気障キメた面して馬鹿なこと仕出かす馬鹿なんか、」
「でも、名探偵・・・俺は、君の事が、好きだよ」
「・・・くっそ、俺も、オメーの事は、好きなんだよ」

「探偵だけど、名探偵だから、好きだよ」
「怪盗のクセに、テメーが怪盗でも、・・・好きだ」

真実を吐露してしまえば、きっと終ってしまう一つの関係。
本当は、謎を体現している『怪盗』こそが好きだったのに。
怪盗でなくても、彼ならば好きなのだろうと、そんなことに気付いてしまったから。
謎を暴いても、彼を捕える事に抵抗を覚えれば、探偵としての怪盗への関わりは終るのだ。

「両想いブラヴォ!」
「じゃ、怪盗やめろ」
「いや、それ無理だわ」

舐めた事を言う相手を睨みつける。

「んじゃ、両想い取り消しで」
「殺生だなー。名探偵こそ探偵を、」
「やめるわけねーだろ!」
「ですよねぇ・・・」
「どーすんだよ、ほんっと、クソって気分だぞバーロ」
「まぁ、まずは一時保留で」

だったら言わないままでいれば良かっただろうに。
好きだと言いながら、これっぽっちも近付いてこない態度に、先ほどとは違う彼に対する苛立ちを覚えた。

「保留?…いつまで」
「俺が怪盗辞めるか、名探偵が探偵辞めるかまでくれー?」
「後者は永遠にねぇな。テメーが引け」
「さっさと廃業はしたいトコなんだけどね、こればっかりは!」
「あれ?廃業予定あんのか」
「いちお、まぁ」
「じゃ、待っててやってもいいぞ」
「・・・いつまで?」
「俺が、・・・・探偵辞めるまで?」

不意に黙り込むから、変な事を言ってしまったよな、と肩をすくめて怪盗を見て、ちょっと絶句。
彼が縮めようとしない距離を勝手に埋めて、すぐ目と鼻の先から覗き込む。

「・・・夜目にもばっちり真っ赤だぞ、オメー」
「名探偵が!ンなこと言うから!」

可愛いなぁと思ってしまう俺の頭は、奇天烈衣装のコイツ同様、結構イカレテいるのだろうな、と思う。
どうせなら片目を覆う飾り物をとったツラを拝んでやろうと手を伸ばす俺を、怪盗は微動だにせずじっと見ていた。





【幕】

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