■鬼と鬼と怪盗と■
↓変な話でもおひとつ




時計塔の鐘の音を盗みに行った現場で、怪盗はこれまでにない相手の存在に気が付いた。
姿は見えなかったが、いつもなら簡単に怪盗の手によって翻弄されてくれる警察諸兄の、いつもと違う手強さに、警察のジョーカーが紛れ込んでいると悟ったのだ。

しかもジョーカーは、怪盗を捕えるために警官達の統制を取り、確実に包囲網を狭め、間一髪の所まで怪盗を追い詰めさえした。

鬼ごっこの鬼の中にいた、とんだラスボス。―警察のジョーカーは、青い眼をした少年だった。





「―…くるか?」

鉄の鳥の羽音は、遠ざかっていく。
怪盗の白き姿を見失い彷徨う可愛らしさに欠ける鳥に冷笑を浮かべ、しかし、妙な予感があった。
現場にあった、ちりちりと肌に感じる気配は、今夜の鬼ごっこに最大限の警戒が必要な鬼が紛れていると怪盗に知らしめていた。

さて、『どの』鬼のものだったろう。

怪盗と同じ『獲物』を狙ってくる鬼ならば、もうひとアクション起こして、出方を窺っても良い。
どうせ今夜の獲物はハズレだ。
だが、この『怪盗』を追ってくる鬼ならば、逃げの一手。


「どっちだろーな」

鬼さんこちら、と手を叩こうか。
―いやいや、もう狼煙は上げている。余計な真似は足元を掬うだけ。

したい事をやって去るだけ。あとは仕上げをご覧じて。
―気付かないなら、地団駄踏んで悔しがればいい。

しかし、夜の静寂を切り裂く気配はやってこない。
この隙にいくらでも逃げられるのに、怪盗は場に留まり、感覚を研ぎ澄ませた。

「こねーのかな?……何とか逃げおおせました、っと」
「逃がすかよ」

現場にあった殺気混じりの気配を感じないと、逃げ切りを確信して安堵と―落胆の息を吐こうと深く吸った空気が喉の奥でごきゅりと妙な音を立てた。
暗闇からニヤリと笑って現れた―探偵は、まさに鬼のような恐ろしさ!
青い眼が、とてもとても綺麗な鬼だった。

「これはこれは、名探偵。アンコールをお求めに?」
「は!オメー自身の幕を下ろしにきてやったんだよ」

本当は、手を叩いておびき寄せたい鬼はキミではないのに。
キミが顕れることをどこかで期待してしまっている。

この鬼に気に入られたのが運の尽きなのかもれない。
この鬼を気に入ってしまっただけでも運の尽きだと思っていたのに。

「いえいえ、生憎と今夜のショウは既にお仕舞いですので。これ以上降ろすべき幕はございません―、よ!」
「てめ、待ちやがれ!」

もう一度、逃げ出すための羽を呼び出して―伸ばされる手を跳ね除けながら。
怪盗はにやりと笑って空へ飛ぶ。
そうしながら、怪盗が去った後に、鬼と鬼とが鉢合わせをしないことを祈る。

怪盗と同じ獲物を求める鬼達は必ずこの手で倒す予定だけれど。
倒せない綺麗な眼をした鬼からは逃げるしか手の打ちようがないのだ。

怪盗目がけて向かい来るふたつの鬼たち―片方から逃げながらもう片方を打ち倒す、なんて図は激しく遠慮願いたい。
そこまで器用にできていないから、その時はキミを連れ去って一緒に逃げてしまおうか。

―キミを、その時に選べたら、きっともう逃げられやしない

「待て!キッドッ!!」
「ばーいびーィ!」

冷や汗を隠しながら顔だけは余裕ぶって飄々と笑ってみせる。
ついでにウィンク一つ捧げ投げてみたりして。
―素早く眼下に他の敵の姿は無いかと眼を走らせた。
だが、そこに彼よりも強く怪盗の意識を引く相手はおらず、今宵は彼だけが己にたどり着いたのだと知る。

(良かった)

彼に会えて。
彼が怪盗を狙う他の鬼と鉢合わせることがなさそうで。



鬼さん、 こちら 

怪盗の讒言の真実を見通して

来ては 駄目

でも 逢いたい





鬼さん、 どちら

肥大化した欲望を砕いてやるよ

さぁ、来い

返り討ちにしてやろう








 **  **  **



怪盗は特別に気になる探偵に、怪盗を追えば探偵が危険に晒されると判ってて、それでも逢いたい欲求を優先させるのです。
『怪盗』を追って欲しいのです。


矛盾ばかりの怪盗の話。
元御礼再掲

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