沈黙映画の「雪山」イメージだけで書いてたKコ妄想
□遭難遭遇□




「なんだって、オメーがいるんだ」
「どうしてでしょうねぇ?コチラこそ、何故名探偵が頭上から降ってくるのか激しく謎ですよ」

呆れた声での問いかけに、同じく呆れた声で問いが返ってくる。
イラッとしたが、きっとそれは相手も同じなのだ。

氷壁に囲まれた地下数十メートルの場所にある謎の空洞。
かつてなにがしかの遺跡があったと思われる、神殿めいた造りの柱がぼんやりと見えた。眼を凝らせば、意味の読み取れないレリーフの描かれた崩れかけている支柱と頭上。

こんな身体の感覚が妖しくなるほどの寒さの中で―どうせならば数多のライトや炎や、とにかく明かりがあれば、きっと幻想的な世界に、己が死後の世界にでも紛れ込んだとでも思えただろう。いや、明るくなくても、こんな真っ暗な場所で一人きりだったなら、孤独に黄泉の道を辿る途中なのかと感じるに違いない。

しかし、いまココには自分以外の生きている人間がいて、ちゃんと生きている己を確認してくれている。
間違いなく生きていて、―間違いなく、遭難、していた。

「なんで、こんなところに怪盗KIDがいるんだよ」
「それをいうなら、名探偵こそ。わざわざ海外の雪山まできて事件解決ですかぁ?日本の警察の救世主ってだけじゃなくて世界狙い?」
「バーロ、ンなワケあるか!…ここ、遺跡か?オメーは、アレか。トレジャーハンティングしてたのか」
「…オメーが落ちてきて、入口を塞ぐまではな」

不機嫌な声だ。
確かにソレについては些か申し訳ないような気もする。
しかし、探偵とて好きでこんな地下に落下した訳ではないのだ。

とある事件の真相に気付いた探偵と、残っていた証拠をどうしても消したかった犯人が爆薬を仕掛けた結果、こんな有り様になっているわけで。爆風を避けクレバスに転がり込み―爆震に広がった裂け目へと幼い身体は墜ちていった。

江戸川コナンが、この国の雪山登山行程に加わったのは、彼の実の父親―工藤優作を通しての依頼を受けたためだった。今から数年前に雪山であった密室殺人とも言える事件。その謎を解くために。
海外の雪山ということで、それなりに準備もしてきた。しかし、犯人の行動力とまさかの手段に遅れを取ったことは探偵の不覚だ。

「悪かった、あの」
「ま、ここまで響いてきたってことは上じゃ爆音だろ。ダイナマイトか?怪我がないだけ儲けモンだ」

不満はあるが不可抗力の事態を引き起こした自覚のある探偵が一応詫びを入れようとしたが、怪盗は肩をすくめて言葉を遮って不幸中の幸いを口にする。
気にするな、と言いたいのだろうか。
相変わらずのお人好しぶりに、探偵は拍子抜けしてしまう。

「とはいえ、どうにかしねーと凍死確実だがな」
「あ…ああ、そうだよなぁ」

氷点下数十度の世界は吐く息すら数瞬で氷の粒に変わって、吸う息も喉から肺まで冷え切った空気が突き刺さる有り様だった。かろうじて、二人が動いて無駄口を叩いていられるのは、ひとえに怪盗の準備の良さと、この遺跡がある程度の気密性を持ってることに起因する。しかし気密も良すぎれば、窒息を起こす要因ともなるわけで。
―状況は厳しいものといえた。
怪盗の最初の目論見では、地下への降下・上昇は短時間で行うべき仕事であり、とっくに脱出していなければならない時間だった。
不慮の事態に備えて仲間と通じる発信機や酸素ボンベは勿論―爆薬まで、身軽に行動する上でギリギリの重量分を持ち込んでいるはいるが、出入り口がふさがった事は何よりもの痛手だった。気象条件の変わり易い場所ではとにかく状況が不利にならないうちの引き際の見極めが大事なのだ。

(だからって、放ってもおけねーし、ったく!)

「とにかく、ほかの場所からさっきの通路にアプローチ出来ないか調べる」
「あ、おい名探偵!」
「半分は俺のせいだからな。あと半分は犯人のせいだから上に戻ったら報復してやる。あ、オメーは仕事があるなら、そっちしろよ」


―最も寒い時期の、大寒波が訪れる年にしか開かない道があると言う。
―深く深く、地下水を凍らせ地表を押し上げてそしてやっと掛かる橋。
―そのさきに、みたこともない、とてつもない秘宝が…

コナンが雪山の麓の村で、山の言い伝えだと聞いたのはその程度だったが、この怪盗の姿があるということは、ただの実体のない噂ではなくれっきとした伝承民話だったのだろう。
求める者が出現するまで物語の中で眠り続け、言い伝えられていく、口伝による宝の地図。

怪盗の求める秘宝が、その橋の先にあったのだ。

しかし、怪盗はハハッと軽く笑うだけだった。

「俺の仕事は終ってる」
「…じゃあ、ビッグジュエルが?!」
「に、よく似た氷だったな。すっげぇ綺麗だったけど、持ち出しちまったら消えちまうみてーだから、置いてきたさ」
「そう、か」

探偵は、軽くそう言う怪盗から言い知れぬ虚しさと孤独のような何かを感じる。
空気の冷たさが不意に入り込んだような言葉の素っ気無さ。
しかし慰めなど浮かばないから、そっか、ともう一度だけ呟いて、氷壁に手を当て試しに叩いてみた。

これは遺跡だ。
はるか昔には人間がいたはずの場所。
空へ向かう階段でも隠されてはいないだろうか。


白い翼が飛ぶための空へ続く。




*** *** ***


映画公開前に、『雪山』『もし怪盗が出演するなら』『海外なら新一も出る』『Kコから快新への可能性』とか妄想してた。



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