■別離の際■Kコ
―お別れだね
―お別れだ
背中合わせで、そう告げた。
白い帽子を脱いだ。白いマントを外し、ネクタイを解いて、シャツのボタンも外して。
白い手袋から、手を引き抜く。片目を覆っていたモノクルを取り去った。
眼鏡を外した。赤い蝶ネクタイを首から取り去る。ダイヤルの付いた靴を脱いだ。スケートボードを床に置く。
君の手には錠剤。
お前の手には赤い宝石。
―さよなら、どこかで別の姿で
―さよなら、もうその姿はヤメロな
怪盗だった少年が、背中越しに振り向く。
けれど、小さな少年は振り返らない。
だから。
再会の約束はしない―出来ない。
怪盗は探偵を知っている。
探偵もまた怪盗の中身を知っている。
けれど、探偵は怪盗の外側(素顔)を知らない。
会った時に、気付かずに擦れ違うかもしれない。
それでも、探偵は彼を振り返らない。
―じゃーな?名探偵 …サヨナラ小さな探偵君
動かない背中を、ただ、眺めて。諦観したように挑発するように。そう言って、学ラン姿の少年は歩いていく。
手に入れた宝石を握り締めて。
―また、な …サヨナラ怪盗KID
完全に相手が去った後に、小さな少年は呟く。変幻自在の怪盗の顔を、相対した瞬間の顔を、頭に描きながら。
再会を望むのなら、約束など必要なく、また出会えると識っているから。振り返らないことに不安などなく進んでいく。
手に入れた錠剤を握り締めて。
ただ
ただ
彼らのサヨナラは、もう出会うことのない、その姿にのみ捧げる別離の言葉だった。
*** *** ***
怪盗は振り返っちゃうあたりがKコです(キリッ。
散々探偵は怪盗を見送ってきたから、今更な場面で探偵は振り返らない。とか。
怪盗とコナンという存在は考えるほどに切ない。と思ったりする。
仮初の姿でする約束は、限りなく破る事が前提の、信じてはいけないもの。と。
少年探偵団とコナンとのあれこれを考えるときが一番切ない。
だからコナンには振り返らない、約束もしないで、怪盗の前から、皆の前から去って欲しいなぁと思ったりもする。怪盗も同じく。
どんな姿になっても約束を果たす二人も勿論好きだし、それでこそヒーローなんですけども。
でもまぁ叶えられない約束もあるはず。
少年探偵団は、コナンから、約束は破られる事もあるけれど、願い続ければいつか…な気持ちを思い知らされることになるといい、と考えてみたり。
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