調律工藤・奏者怪盗
【戦慄映画】でピアニストと調律師の関係が萌えますねって、ことでK新的にはどうかと考えた結果出てきた妄想。



*** *** ***


フォーン・・・


彼の目的地である一室がある方向から聞こえてきた音に、彼−警官は一瞬眉を顰めた。
−まさか
しかし、この角を曲がった先には、例の一室しか存在しない。他の部屋は扉が閉じていたのを彼自身が確認している。つまり、間違いなく、先ほどの音はこの先から聞こえた音である。
厳重な警戒態勢の下、窓のない防音設備のついたあの部屋には、赤外線センサーが張られ、一部の者しか知らない電子ロック錠がかけられている筈なのだ。
一体誰が。
まだ「あの日」までは間があるとはいえ、彼の仕事はあの部屋に不審者が入り込んだり、おかしな仕掛けを施すことがないように見張ることである。自然、足を早め、この建物の最奥かつ廊下の一番奥になる部屋へ行こうと角を曲がった。

「ォー・・・ン」

果たして角の先にある部屋の扉は開いていて、同じく鳴る音が、また。
「誰だ!」
厳しく誰何する言葉を発して、念のため警棒を手にしてその部屋へ飛び込んだ。




「そうか、巡回の時間だったな。連絡ミスか・・・。驚かせて悪かった」
この場の最高指揮となる警部にスマンな、と言われ、彼はホッと息を吐くとともに、現状への説明を求めた。
骨董品のような年季の入った木板で組み立てられた鍵盤楽器。一見すると古ぼけたアプライトピアノだが、音の鳴る箱を作った人物は−曰く付きの−過去の偉人であり、更にその曰くに引き寄せられたのか、かの白き怪盗が次の獲物に定めた品物で、とても大切に保管されている筈の物。
けれども今は、鍵盤を覆う板から譜面台ごと各部木板が剥がれて、中身が露出してしまっている。
そして、その露わになった中身に向かって何かの作業に勤しむ少年の姿。
「あの、中森警部。彼は確か高校生探偵のー」
「んー?ああ。予告現場の下見に来たいとか言われたって目暮の野郎が連れて来やがってな」
「・・・その、彼が・・・どうして、あんな?」
「予告状に[旋律の階段を正しく昇り・・・]云々ってあったろ?持ち主に聞けば、歴史的価値から保管されてて年に一回しか調律されてないってぇピアノだ。奴を迎える上で万全な態勢にするなら、音を正確にしておいた方がいいんじゃないかとか、あのガキが言いやがってな」
「あれって、調律してるんですよね?」
「出来るんだとよ!ったくボンボン探偵の特技ってのは幅広いもんだぜ」
先が二股に割れた銀色の金属を時折手首や膝小僧に当てればフォーンと響く音。その音が鳴るとすぐに小ぶりのソレを口にくわえて彼は打鍵を繰り返す。
開いた鍵盤楽器の腹に向かって弦の調整をして音を合わせているのだろう。
「お前さん、音楽には詳しいか?」
「え、っと」
「調律ってのはあーゆーもんなのか?」
「だと思いますが。ただ、音叉−あの金属で一番基点となる音を採っていくんですが、普通だと鳴らした後耳に当てて聞くものじゃないかと」
「なに!?」
音叉箱も使わず、口にくわえるやり方は余り見ないので素直にそう言えば、何故か警部は眉をつり上げる。
そして、説明半ばで警部はズカズカとピアノに向かって行った。
「おい、小僧!両手使って変な仕掛けを勝手にしてるんじゃないだろうな?!」
−なるほど、そっちの心配か
この警部は怪盗の現場に探偵という種類の人間がウロツクのを良く思っていないのだ。妙な真似をされたり、あまつさえ出し抜かれでもしたらたまったものではないのだろう。
「・・・何もしてませんよ、中森警部。見たまま、弦を緩めて、張って、音を合わせているだけです。まだ途中ですから、お静かに」
チューニングハンマーを持っていない方の手で、口から音叉を外してからシッと人差し指を立てたのは、高校生探偵ー工藤新一だった。





「丁度いい。おい、お前、ちゃーんとこの坊主を送り届けてやれ。こっからはまた捕獲体制について演習があるからな」
ピアノが元の姿に戻った頃、外は夕暮れ。
一人で帰れますよ、見学させて下さってありがとうございます、と言った探偵に、協力してくれた礼をしないとな、そうだ自宅へ送り届けよう、と警部が提案した。
「いやぁ、ご苦労様、探偵くん。パトカーでゆっくり帰ってくれ」
言外に、これ以上警備状況を嗅ぎ回られるのは御免だ、と言っていた。




信号が二台先で黄色に変わり、車は速度を落とす。車が一時停止したのを機に、送り届ける役を仰せつかった警官は、おずおずと隣に座る少年に話しかけた。
年若い高校生が相手なのに、緊張してしまう。
「ピアノの調律が出来るなんて、工藤探偵って凄いんですねぇ」
「多少音を合わせられるくらいですよ。弦自体の交換や鍵盤の細部までの調整は僕では無理です。古いものと聞いていましたが、ちゃんと部品は綺麗にされてたから、さっきしたのは、調音だけです」
「ピアノ、弾かれるんですか?」
「少しだけ。元々はヴァイオリンを習っていて、そこの先生がついでにピアノもどうかと」
そして、ついでのついでだ、君は耳がとても良い、弾く者ならば音合わせも覚えておきなさい、と。
懐かしむような目で、苦笑を浮かべながらそう言う彼は、多少照れくさそうでもあり、一部では警察の救世主ともてはやされている評判とは違って、年相応の少年に見えた。
「今も、習っているんですか?サッカーも上手で、部活は運動部だと聞きましたが」
「ピアノは全然。偶に学校で先生に頼まれて調律するくらいで。ヴァイリンは独学で今も時々弾きますけど。でもサッカーする時間に比べたら全然少ないです・・・あ、そこの角を右にー」
運転手となってしまった警官に気を使っているのか、滑らかに喋りながら、探偵は車を誘導する。運転手は軽く頷いて、ハンドルを切った。
「捜査の参考にお伺いしたいんですが…工藤探偵は今回の怪盗の狙いは解っているのでしょうか」
「・・・狙い?」
「あ、あの、中森警部が言うにはですね、今回の予告はあのピアノを狙っているので間違いない、でも、怪盗が狙うのはビッグジュエルのはずだ。大体あんなデカいピアノなんか運んで盗って行けるはずがない、と」
「・・・そうですね、彼の獲物としては少々不思議です」
「だから、もしやキッドの狙いは何か別に…」
「ピアノ自体ではなく、あの中に、何かが隠されている?」
「・・・」
「それを聞きたいのですね?」
「もしや、と思いまして。警部もそう考えてX線での造影を持ち主に提案したそうなんですが、嫌がられた、と。持ち主にとってはあのピアノ自体が大切だそうで」
「ふぅん?」
興味深そうな目が、運転手の横顔に注がれる。
綺麗な青い目が放つ強い眼差しは、運転の為に前を向いている人間にも、それと気配が伝わっていて。
まるで見通されているような、見透かされているような、妙な心地をもたらした。
数秒間の沈黙の後、探偵はふいと視線を前に戻してつぶやいた。
「弾いてみれば、解りますよ」
「え」
「僕には絶対音感なる便利なモノがあって、寸分の狂いもなく、[制作者]の求めた音が出るようにしてあります」
「・・・それは、三水ー」
「そう、あのカラクリ技師の。幸い、宝物探しが好きだというある財閥の伝で、あのピアノの構造が解っていたのでー」
「普通と違うんですか?!」
「ええ。今まで調律されてきた人はとかく「弦の数が違っても」正音に近いように合わせていたんだと思います」
本当に必要なのは、弦を正確に張る事で、音を合わせる事じゃない。
ポツリと落とされた言葉は、妙な力強さで、おそらく名探偵たる彼が何かを掴んでいるという事に違いない。
これはトンでもないことを聞いている、と警官は直感して息をのんだ。
だが、しかし。何故彼はそれを警部に伝えなかったのか。
「じゃ、じゃあ、怪盗の狙いはー」
「ある規則性に則って鍵盤を叩くことで出現するーおそらく、ビッグジュエル」
「そんなー」

「そうだよな?怪盗キッド」

ゆっくりと車の速度が落ちていく。
探偵が窓の外を見れば、視界に入る見慣れた我が家があった。
「何を言ってるんですか?工藤探偵・・・」
「カラクリ屋敷、麒麟の角、鉄狸・・・三水氏のカラクリが定期的にトレジャーハンターの間で噂になったり時の話題になるのは、発見された既存の仕掛けから、次の仕掛けのある場所が暗示されている、もしくは存在を知る者が連想し口の端に上らせることが多いからだ。今回のカラクリ鍵盤は、以前に見つかったカラクリの中にでも隠されてたんだろ?譜面になりそうなモノが」
「・・・興味深いご意見ですね、工藤探偵」
「旋律を紡ぐには譜面が要る。譜面があるなら楽器が要る。音の鳴るカラクリが話題になった時に、今回のカラクリピアノが人の口から広がり、そして怪盗の予告だ。奴はソレを手にしている。だから書いたんだろ?予告状にさ」
「何の事か、僕には」
「だが、今回は奏でたいのならば、正確な調弦ができる人間もいなければならない」
「・・・もし、工藤探偵のおっしゃっていることが本当なら、今日あなたがしたことは、怪盗の手助けになってしまうのでは?」
「かもな」
停車した車のエンジンが止まり、送風が切られる。念を入れて、無線の周波数を狂わせミラーで周囲を確認した。

「なーに、考えてんだぁ?名探偵」

先ほどまでの警官とは別の声と口調がー呆れを滲ませたソレが漏れでた。
「ふん。俺がいなかったら、オメーが難癖付けて調律師呼ぶよう段取りつけて、中身確認するつもりだったんだろ?」
「確認だけな。怪盗は予告を違えないからさ。で?まさか、適当に弦狂わせてきたのかよ?」
「するわけねーだろ。ちゃんと合わせた」
「マジ?何考えてんの」
「宝は渡さない」
「・・・ほぅ」
「だが。俺は、三水氏のカラクリに興味がある」
「ほっほー!」
驚嘆して、あとは笑うしかなかった。本当に、そんな。
本気か。−おそらく本気なのだ。

「あのカラクリ技師の仕掛けと、希代のマジシャンとか言う大層なコソ泥の捕りモノまで楽しめるんだろ。楽しみじゃねぇか」
「マジかよ」
「怪しい小箱は弦が絡んでて無理矢理取り出そうとすりゃ、楽器自体がバーになる。まさか叩き壊すなんて真似はしねーだろ?怪盗の迷演奏、期待してるぜ」
「うっわぁぁ・・・」
警察の側にいると見せかけて、実際は彼が愛してやまない謎を求めることを優先させるこの探偵の狡猾さ。
怪盗だって利用される駒にすぎないということだった。



*** *** ***


無茶して終了!

色々適当ですスイマセン!

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