白い日用だったKコ探してきた
春の匂いがしたから、とか。
星が綺麗だから、とか。
まぁ偶にはストレートに、逢いたかったので、とでも。

『何しに来た?』

と、きっと言われてしまうのを想定して、そんな言い訳を胸で呟きながら。
本当はちょっとだけ、一緒に甘いものを食べて欲しいだけだった。


【しろいこいびと】


大々的に新聞に怪盗からの予告状が載れば、必ずといって良い位顔を見せてくれる探偵君が、何故か今日は犯行現場には来てくれなかった。折角、先月同日に乱れ打ちされた小型大型各種ボール攻撃の中に混ざっていた小さな小さなサッカーボールチョコのお返しを、と思っていたのに。
大した展示でも無かったのに、仕掛けに凝ったのはたった一人を招待する為だったから、彼に招待に応じてもらえないなら襲撃するまで。と、怪盗はそうっと毛利探偵事務所に忍び込んだ。
しかし。

「…いねぇ?ええ!?」

おっかしーな、と無人の事務所と生活スペースを見て回る。事前の調べでは、旅行に行く等と情報は無かった筈だが。いやいや怪盗を無視せざるをえない程の重大事件に巻き込まれている可能性は否定できない。なにしろあの名探偵(及びかの迷探偵)の行くところ事件ありき、なのだ。
フムと肯いて、痕跡を調べる。
そして見つけたのは、空手の大会へ出席しなければならない女子高生の行動予定メモと、毛利小五郎宛の旧友からの誘い状。さて、どっちに付いていったものか?と逡巡したが、カレンダーを見てみれば、明日の日付に○と阿笠博士の文字。

「・・・明日、かの天才博士の御宅に行くのなら、泊りがけの予定には付いていかないよな?」

と、すれば。
一日早く博士の家にお邪魔しているか、はたまた―。

怪盗は素早く外から探偵事務所の鍵を掛けなおすと、再び白い羽で夜空へ飛んでいった。



果たして読みは当たっていたようで、阿笠博士の御宅への侵入前に隣家の家の息子の部屋を覗いてみれば、カーテンの隙間から光が洩れていた。
一時的に沖矢なる人物がこの家に間借りしていると聞いていたが、どうやら今夜は不在らしい。念のため夜でも忠実に飛んでくれる鳩を介して情報を拾った結果、この邸には現在本来の住人であるこの家の息子だけが滞在しているのだとわかった。

仄かに洩れてくる明りのある部屋へと忍び寄って中を窺う事にする。

「ぁ…はぁ、ぅ、ん…」

すると、常人よりも様々な音を拾う能力に長けた怪盗の耳は、窓辺から零れてくる小さなうめき声を捕えた。
この声は、間違いなく江戸川コナンのものだ、と。素早く判断した怪盗は、急ぎ閉ざされた窓の鍵を開錠し、カーテンを開く。
まさか異常事態でも?はたまた部屋主以外に誰か不審人物の侵入でも?!と心配したのだ。あの子は怪盗をはじめとする後ろ暗い人間をよくよく引き寄せるフェロモンを持っている。という気がしてならない。事件に遭い易い体質というのは、事件を引き起こすような人間がいつの間にか傍にいるという事ではなかろうか。

だが怪盗の懸念は半分外れて、そこには、ベッドにうつ伏せで震える子供が一人きり。大きなシャツ一枚を羽織った姿でベッドのシーツに埋もれるようにしている。
すわ体調不良でも起こしているのかと駆け寄ったのはハートフルな怪盗として当然の行動だった。
しかし。

「大丈夫か、名探偵」
「!?・・・って、め・・・何で、ココに」

怪盗の声に反応を返した探偵は、驚いた後に激しい狼狽の色を顔に浮かべて、叫んだ。

「出てけ!」
「へ?!」
「今すぐ出てけば、通報はしねーでいてやる!ホラ!」
「ちょ・・・」

真っ赤な顔で睨む子供に、怪盗は困惑した。
どう見ても身体に異常が生じているのに、人払いをするなんて。弱みを見せたくない、という事なのだろうか。負けず嫌いの意地っ張りなのはよくよく存じているけれど、ハートフルな怪盗としては放っておけるはずもない。いや、ハートフルは抜きにしても、この子は怪盗が密かに想っている相手なのだ。大事にしたいのだ。

「んなこと言ったって、どう見ても、オメーおかしいだろ!?あ、お隣のコ呼んでくればいいのか?」
「?!ふ、ざけんな!呼んだら承知し、ねぇ・・・」
「無理すんなよ!」

ぜーはーと荒く息を吐いて必死に起こしていた上半身がぐらりと前へ傾ぐ。
慌ててその小さな身体を抱きとめた。

(うわ、・・・ぅあああっ、これは)

マズイ。
予想通りに熱っぽい体。しかし予想以上の破壊力をもった姿に、怪盗は硬直した。
怪盗の胸にもたれてはぁはぁと肩で息する名探偵は、熱い吐息と共にフェロモンも放出しているように思われた。虚ろ気に伏せられた眼は水分を含んで頼りなげに揺らめいて、色の白い滑らかな頬は上気して桃色に熟れている。くたりと怪盗に引き寄せられるままに体を預けてくるしどけなさも堪らない。
それに身につけているのはどうやら白いシャツ一枚のようだった。
所々留められているボタンの隙間から覗く素肌。ピンクの色をした甘酸っぱい匂いが立ち昇っている気がする。更にはシャツから伸びる素足の破壊力たるや、彼の放つバケモン並のサッカーボールと一体どちらが怪盗に致命傷を与えたものか判断不可能だ。
いつもの利かん気の強い強情な、可愛くない言葉を恐ろしい笑顔で放つ姿を持つ探偵君と本当に同じ人なのかとさえ思ってしまう。
生唾を音を立てて飲み込みそうになるのをこらえて、胡坐をかいた足の上で両腕で軽い体を抱き支え、少し顔を上向かせた。
とにかく、状態を確認しようとしたのだ。

それが、決定的に拙かった。

ぼんやりとした顔が―薄く開いた口元が―熱っぽい眼差しが―怪盗を見上げた。
思いっきり、ごくり、と喉が音を立てた。

(うぉっと、とと)

幸いにも体に異常が生じている彼の耳には聞こえていないようだった。



◆◆◆



『他の薬と併用しては駄目よ』

確かにそう彼女は言っていた。
しかしそれは所謂市販品の一般薬のような物で、先だって当の彼女が渡してきた『軽い鼻炎薬』までもが、その範疇に入るのだとは思ってもみなかったのだ。
工藤新一から江戸川コナンへと子供化した体は、まぁ諸々の免疫が低下していて、此度は早い時期から猛威を振るい始めた花粉によってアレルギーも発症していた。くしゃみや鼻水など軽い風邪をよく引いていたコナンは、いつものように灰原に特別に処方してもらった薬を服用していたのだが、それを服用中に元に戻る薬も飲んだのがいけなかった。
おかげで、犯行時刻前に身体はおかしくなるし、そんな不安定な状態で毛利探偵事務所に戻るわけにもいかない。
折りよく、沖矢が早い試験休みのような春休みで工藤家を空けていたので、これ幸いと自分(新一)の部屋へ転がり込んだのである。

工藤新一の姿に戻れたのはホンの数分だけ。
すぐに、またもあの身体を作り変えられる衝撃が起こり、身体はあっけなく縮んでしまった。しかも、発熱、発汗、動悸、息切れ、といった症状が引かない。それどころか、どんどんと身体に熱がたまって、体中が疼きだしたのだ。
―これが、高校生の身体なら、することは一つだな、と朦朧とした頭で思ったものだが、生憎と小学一年生程度の未発達な身体にはその疼熱を発散させる術が無い。
それでも、すり・・・と太ももを合わせてくたりとした足の間の小さな性器を刺激すれば、堪え様の無い快感が起こって、次第に夢中になっていった。
うつ伏せたままベッドの上のシーツと身体の間に大きめの枕を挟んで、少々弾力性のある柔らかなそれに、腰を押し付け―擦り付けるように動かしていた。

「ぁ・・・ん、んん、はっ」

興奮しても兆しの無い柔らかな部分も、ぐっぐっと刺激すれば、激しく性感を煽られて腰が震えてくる。イクことのないこの身体で、こういった行為は殆どしたことが無いから、どうすれば終わりがくるのか解らない。とにかく、もどかしい疼きを収めるためにだけに試行錯誤だ。
小さな「子供」姿に無警戒な幼馴染の娘やその親友の裸に近い状態やらを間近で見て、軽い興奮を覚えた事はある。身体は子供でも、頭はれっきとした健全な高校生男子とくれば、性的な事に真実無邪気で無関心などありえないから仕方ないものだ。ただ、その時でも結局興奮して―鼻血が出るか、頭に血が上って貧血めいた状態でフラフラする程度の症状だった。
こうまで「切ない」としか言い様のない熱を持て余すのは始めてだった。

「ぁ…はぁ、ぅ、ん…」

そうやって、身体を寝具に擦り付けて、吐きだされる自身の呼吸の熱さにすら煽られていたのだが、突然聞こえてきたガチャリという異音と掛けられた声に、一瞬だけ、体中の血の気が引いた、と思った。


幸いにも、己の異常な興奮状態はバレてはいないようだったが、知られるのも時間の問題という気がした。恥ずかしく情けない状態を、そっと好いていた相手に知られたくはない。けれども、この怪盗は、様子の可笑しい子供を放っておけるような奴ではないのだ。そんな部分も含めて好きになったのだが、今だけは大変に拙かった。

優しく抱き上げられ、抱え込まれて。
そうっと脈拍や呼吸状態を窺って来る柔らかな視線と触れ方に、ゾクリと身体が震える。

「キツイか?熱・・・」

そう言って触れてくる手は、ひんやりとしていた。
ぼうっと見上げれば白い手袋ではない、人の肌。
いつもは隠されている怪盗の手が、そっと額に張り付いていた髪を払ったようだった。

「なぁ、どうして…そうなったんだ?」
「うっせぇ…。副作用だ、ちきしょう」

テメェが、先月ちゃんとアレを持って帰ってたから、今日は『工藤新一』の姿で何が何でも色よい返事を貰いに行くつもりだったのだ。
それなのに!
苛立ちは言葉にならず、はぁ・・・と熱っぽい息が洩れるばかりだ。
なんとも、もどかしい。

「オメーの、犯行時間に合わせてくすり・・・」
「?何の、風邪でも引いてたのか」
「ちが、解毒の・・・それ、飲んだのに、いつもより早く元に戻るし、こんなん、なるし」
「ああ、解毒剤の副作用か」

言葉の端を拾って言いたい事を汲み取ってくれる。
だったら、侵入して来た時に出て行けと叫んだ言葉も受取って素直に退出して欲しかった。

「どっか痛いか?」
「痛く、ない・・・あつ・・・ぅ」

疼く熱は堪る一方で、体温の上昇がきつい。密かに想っていた相手に触れている状態が、更なる熱を引き起こしているような気もする。

「氷枕、作るな。キッチンにある?」
「いらね・・・ぁ、ちょ」
「服も、これサイズ違いすぎるし・・・名探偵?」

ダルダルのシャツを調えようとしたのだろう。怪盗の細く長い指が、首から肩の方へと滑ってきて―その動きに堪えられず、「ぁあ、ん」と声を上げていた。



◆◆◆



「めめめ、名探偵?!」
「さ、わんな・・・っぁ」

(なんつー声・・・!)

熱気を孕んだ微かな息遣いと、たどたどしい言い方と。それだけでも色々と、病人に対して抱くには妄りがましい感覚を刺激されていたのに。とにかく破壊力の高い露出を減らそうとした所に、更なる追撃を受けて怪盗は眩暈がした。目で見て、声を聞いて、そして腕の中にある子供の身体に触れている部分から、熱が流れ込んできているかのような。
どうにもこれは。
このままでいるのは大変まずい気がしてきた。
移った熱に浮かされて、何を仕出かすか解ったものではない。
かといって、こんな状態の探偵君を放り出すことも当然出来ない相談である。

少し離れて―せめて身体を離して、落ち着くまで見守るか?
やっぱり彼の身体と解毒剤について詳しそうなお隣さんに助けを求めるべきだろうか?

目の前の破壊神から目と思考を逸らしながら、何とか打開策をと頭をフル回転させるが思考は空回るばかりで何の策も浮かばない。

「きっど・・・」
「んん?!何か、いるか?」
「・・・も、どーにか・・・してくれ」
「どー、って。えっと、どうすりゃ」

策を与えてくれるなら好都合だ。
そう思った。しかし。
続く台詞に怪盗の頭は爆発した。

「さわって」







【強制終了】

******


だから放置すると腐るって!
今頃探し出しましたが、完全に腐っておりましたので、ここまで。

ネタが二月ですよ。何ヶ月前・・・つか何ヶ月か先に出したら良かったよね!と思ってみたけど放出。

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