姉と弟
「ただいまー」
「あ、お帰りー」
「お、制服出来たんだな。・・・ふ」

帰宅してリビングにやってきた姉は、大きく目を開いて姿見の前にいた俺を見て、それから頬を緩ませて笑った。

「ちょっと大きいな」
「ちょっとかぁ?」

ぐいっと腕を伸ばしても、袖の口から指先が出るくらいのもので、これは流石に成長を期待し過ぎているんじゃないかと思う。肩は余って当然裾も伸びている。ブカブカ、である。

「馬子にも衣装と言ってやりたいが・・・」
「服に着られてるって?」
「そうそう」

ははは、と笑う姉はといえば、身体のライン沿った綺麗なスーツを着こなしている。俺の見立ては間違いないな、と自画自賛したいくらいだ。

「だーから、自分で注文するって言ったのにさ」
「悪い。俺の伝え方が不味かったみたいだ」
「サイズ大きめに見積もったんじゃなくて?」
「んー。注文したのは母さん達なんだよ。で、どれくらいって聞かれたから、俺の時よりは大きめって」
「情報が曖昧にもほどがある!」
「女子用がこなかっただけマシかもな」
「・・・」

俺の沈黙に何かを察したのか、姉は、鏡前に置いてある開けられた箱の側にあるもう一つの箱をマジっと見つめた。

「おい、まさか」
「・・・新ねぇの時とデザインがちょっと違うんだってさ」

着てみる?と問えば、「何考えてんだ、あの親ども」と低い囁きが返ってきた。
そんなこと、実娘のアナタにわからなくて、どうして俺に解るはずがあろうか。

「入学式にはこっち来るんだってさ。そん時にでも聞いてみてよ」
「え、来るって言ったのか?!」
「ん。ちょうど宅急便が届いたあたりで電話が」

慌てて、姉は開封だけは一応されている箱を開いて、中から未使用の綺麗な制服を取り出した。そして、俺の着ているモノと手のそれをじげじげと見比べる。
男女の制服が一揃い。
しかし、あれ?と俺は首を傾げた。

「姉情報のこの男子の制服基準で用意したにしては小さいような?」

俺の背丈はごく平均値の上で、160を少し越えた辺りなのに対して、贈られた制服は推定170センチの男子用。姉の持っているのは、せいぜい160センチあれば十分ピッタリになりそうなサイズに見えた。洒落で俺宛に男女用を
贈ったというのなら、同じようなサイズを用意しそうなものだが、これは一体。こっち(女子用)の方がほらピッタリ、という寒いギャグへの伏線なのだろうか。
いや、あの両親の性格として、確実に無駄になる服をわざわざ手配するのは不自然だ。

むしろ−
相変わらず難しい顔をしている姉に、俺は言ってみた。

「新ねぇ、着れそう?つか、うん、着れるよな。・・・着てみたらマジで」

ー俺が、姉の服を見立てるときによく手にするサイズ、という気がしたのだ。
同じ事を思っていたらしい姉は、ピクリと頬をひきつらせせ、思い切りよく首を横に振った。

「何考えてんだ!」
「俺の入学式の日に明らかになると思うけど・・・逃げっか?」
「ぐ・・・快斗の入学式は出るつもりだってのに」
「うん。居てくれたら俺は嬉しいけど」

でも確実に遊ばれるぜ?と伺えば、うんうんと頭を抱えている。これが彼女自身の誕生日や卒業式入学式といったイベント事なら全力で逃走を計るのが常なのだが(実際欠席した過去がある)。しかしクリスマスや俺の誕生日とか、俺が喜ぶことには最終的に耐える方を選んでくれたりする。彼らはそれを見越しているのだ。そして足下見やがって・・・と呻く姉は読まれていることを正しく読んでいた。

「きっと新ねぇが着ないなら、俺に着せるとか言うんだぜ?」
「ああ、せっかく用意した衣装を娘と息子に着せて何が悪いってツラでな」
「あのさ、俺なら、多分着こなせるから大丈夫」
「納得してんな!笑い者になるだろうが!」
「気にしねーよ?文句付けられないくらい似合うように着てやるさ」
「バーロ、俺が恥ずかしい。ったくオメーはあの親の悪いとこばっか似やがって」
「慣れだって、慣れ」
「あ、今のうちにコレを処分すりゃいーじゃねぇか!」

なんだ、これで問題解決!と新ねぇはひとり頷く。俺はその瞬間、これはあの両親の罠に違いない、という気がした。

(そういえば、去年の今頃か。成人式に着物着せたがってたなー、有希子さん。姉ちゃん、面倒だって言って、パンツスーツで行っちゃって。二人とも、ちょー残念がってた)

身内のお祝いに正装するのは当然だろう、とか。そのために制服を手配したのに、だったらー。
なんとなく手の内が読めたが、俺くらい聡い姉の事だ。彼らが来日するまでには気がつくだろう。

姉が俺と揃いの制服を着ても、着物で着飾られても、俺の選んだスーツを着ても。
姉がいてくれるというのなら、どのパターンでも俺にとって一つも問題となる選択肢はなかったので、カレンダーの入学式の日付に花丸をつけることにした。




初春の頃

12×21


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