電子液晶パネルに文字列が流れ出る。問題文は繰り返しては出てこないようで、一度だけ現れるそのヒントを解いて、パネル下に並んだ小さなキーボードからキーワードを入力しなければいけない、という事らしかった。 最初は英文。次はイタリア語。それからフランス語。 答えずに、問題文を見送ったら、警告音と『リトライノコリ2』という、ゲームの残機を示すような文言が出た。 一回目の問題文はドレも答えが容易に思いつくものばかりだった。おそらくはブラフが混じっている手合いの。 この部屋に連れ込んだ人間は―滅ぼしたはずの組織の残党でもあるのだろうか。 最初は、Who are you?(誰?) 次に L'età?(歳は?) 最後に Un nom de mère(母の名前) 果たして正解は、江戸川コナンか工藤新一か、どちらの情報だろう。 一旦、扉から離れて、部屋の検分をする事にした。 「カーテン…窓?」 扉がアレではあまり期待できない、と思いながらカーテンを開いた。 「…はは…想定外ってゆーか、想像以下だな」 カーテンの向こうにあったのは壁だった。 いや、一応ガラス窓風だが、窓と隙間1cmあるかどうかのすぐ前に壁である。 これは、外壁をこの部分だけ膨らませるか内壁を凹ませるかして、窓枠分の空間を作った程度のモノだろう。見せ掛けの窓、いや、見せ掛けの壁である可能性もある。しかし、材質はコンクリートかそれなりの堅い材質だと思われた。 キック力増強シューズは無い。サスペンダーは、博士の発明品ではなく、特殊な伸縮やボタンのついてない市販品だった。こじ開けようにも、子供の力では無理がある。 「やっぱ扉か…ん?」 窓の横−ベッド脇のチェストの横に洗面台があった。白いチェストに隠れてベッドの上からは見えなかったのだ。 ご丁寧に踏み台が置いてある。乗って鏡を覗き込んだが、白い壁とか白い棚しか映らなかった。蛇口を捻れば水は出る。洗面台の下の棚を開けてみれば、簡易トイレが出てきた。これは、病院の個室に備え付けられているタイプのものだ。―だったら、ナースコールも置いておけっての!内心で毒づく。 「トイレ……使うのは嫌だなー」 素直な感想を漏らしながら、とにかく扉を開けてみよう、と思った。 もう一度トライして、今度は次々にキーワードを入れていく。「通っている学校名?…さっきといい、どっちだっつーの」ボヤキながらも可能性の大きい方の答えを入れていく。 三つ目を入力しところで、 ピー ピー ピー と、音が鳴って、かちん とロックの外れた音がした。 警告音が鳴った事で、誰かが部屋にやってくるかと思い扉の内側で様子を窺う。 だが、足音も声も聞こえてこない。ならば出るしかない。おそらく開錠した事はバレているだろう。武器になるものを何も持っていないのは非常に心許なかったが、誰かに出会うまでに調達なり簒奪なりするしかねぇ、と覚悟を決めた。 だが、そんな覚悟は肩透かしを喰らったように霧散した。 物音のする部屋の扉を開けた先で、エプロンを掛けた怪盗の姿を見たことで。 |