くるりくるりとペンを指先から手首の近くまで回して、最後に弾いてサッと持ち直す。そんな動作を3、4度ほど繰り返してみて、さてやるか、という合図にパチンと指を鳴らして、垂直に飛んでいたペンを握った。 観客がいなくても、指先で何かを扱う仕草はもはや呼吸と一緒の行為に過ぎず、ソレを見て「無駄気障?」と言われるのは些か心外なことではあった。 答える気にもなれず、肩をすくめるパフォーマンスだけを見せて、さらさらとホワイトボードに綴っていく。 時間と簡単な単語。 そんなジッと見て、筆跡でも覚えようというのだろうか? ふと、その可能性を考えて、行ごとに筆跡を―字体を完全に変えてみた。 行書・楷書・POP体・思い切ってギャル文字も入れてみれば「暗号?」という呟きが聞こえた。小学生もしくは男子高校生に、この難解文字はそんな風に見えるらしい。まぁ、探偵の幼馴染やらお嬢様が使う文字には見えない。いや、あのお嬢様なら平気でこんな字を使っていそうだが、さて。データ漏れか、とちょっと仕事の甘さが恥ずかしい。 「はい、これね」 きゅっとキャップを締めてから、コンコンと書きあがった表をペン先で示す。 一日のタイムスケジュールだ。 「…起床・名探偵のお目覚め次第」 「個人的には7時には飯がいいんだよなぁ」 「朝食・7時半…」 「こっちに来ないときは、この時間になれば扉の受け取り口から差し入れしてやっから、安心して、開錠作業に勤しんでいいぞー」 「つまり、あの部屋が俺の部屋で?開錠作業は毎朝必要ってことかよ。大体あの部屋時計なんぞ無かったぜ。タイムスケジュールが聞いて呆れる」 「ま、トイレと水道は部屋にあったろ?開錠放棄して一日部屋にいたって大丈夫だ。むしろ、その方が俺は楽だ」 「……アレ、オメーが設定してるのか?」 「さぁて?そうかもしれねーな。でも毎日考えて設定入れなおすって面倒じゃね?」 「つぅか、いい加減この状況を説明しろよ」 「オメー探偵だろ?推理しろって」 じとり、と音がしそうな目線を向けられる。 朝食後、何も言わずとも、勝手に部屋を見て廻っていたが確信には至っていないらしい。 必要以上の情報は探偵には不要だろう。 なにしろ探偵なのだから。 「風呂場に着替えとタオルはあるから、その辺適当にな。夜は9時には部屋に戻ってもらうぜ」 「大人しく従うと思うか」 「…従ってもらう、って言ったら?」 「出来るのかよ、ハートフルな怪盗さんよ」 「ちゃんとベッドで寝る場所に連れて行くんだ、ハートフル極まりないだろ。―駄々こねないでね、コナンくん」 駄々…から、彼の弱点たる女性の声音を使った。 おーおー睨んでる睨んでる。 まぁ、それでこそだろう、と俺は思うわけだが。 しかし、俺としてはもっと気になる点がある。 「でさ、俺としちゃ、オメーが毎日こっちに出てくるっていうんなら、食事と掃除と洗濯は当番制がいいんだけど」 「はぁ?!」 別にそれらの家事は苦ではないが、探偵も暇になるはずだし、多少見た目が小学生だってお手伝いに使ったっていいだろう。中身は高校生なんだし。 「当番とか、この部屋に居るしかないスケジュールとか、あの部屋もそうだし、お前もだし、もうここ全部に関してツッコミどころが多すぎるんだが、確認しておくぞ」 「んー?」 「俺、監禁されてるよな?」 今日の質問タイムは終了しているので、俺は何も言わずにニヤニヤ笑うだけにした。 |