「連絡を入れるから、ここから出るのは待て。普通にゃ飛行機乗れねーから、ちょっと手間かかるぞ」 そういえば、不承不承ながらも彼は肯いてくれた。 かつて無茶をした結果がこのおよそ一週間の出来事だったのだ、と判ったならば、コチラの言い分も理解できるだろう。 「あー、だったら、ここ全部見せろよ」 「いや、大体見たじゃん」 「玄関。鳩の出入り口。つーか、あの食料の持ち込み方法とか」 大体はわかってるんじゃねーの? と聞いてみれば、まぁ、でも裏づけがいるもんなんだよ、と呟く。 推理をしたなら、それが正解かどうかが気になるのが探偵のサガというものかもしれない。 あまり確認されたくないなーと思いはしたが、まぁ名探偵を止めることなど不可能なのだ。 どれだけ奇術師のタネを見抜いたのか、こちらとしても実は興味も有る訳で。 ** ** ** 一体どういう眼やら知識を持っているのか、名探偵は名探偵だった。 いくつかの推論の裏づけを取ったのか得意気な満足そうな様子。 それを見て、 ―ああ、これで彼女は幾らか心を軽くするだろう、と思った。 名探偵の家にて彼の異変を知り、隣家に住まう彼女達を連れて行けば、つい数分前に見た名探偵とは違う身体が部屋の床に転がっていた。 意識の混濁。酷い発汗。細く荒い息遣い。 散々にのた打ち回ったのか、身体に数箇所打撲痕のような内出血。 『工藤くん!』 少女の叫び。 ―大丈夫だと思ったの。 その手が作り出した結果に、真白になるほど唇をかみ締めて、それから懺悔するようにその経緯を語った。 ラットを使った臨床では、一番効果があって、成長を減退させた状態から、解毒剤を投与したあと、元に戻って、ちゃんとその状態を維持もしてた。 もし、解毒剤が完全でなくて、また元に―子供化してしまっても、これまでの解毒剤と同様に、また『江戸川コナン』に戻るだけだと― しかし。 『誰?』 ほんの少し目を離した隙に、高校生探偵工藤新一から大分小さくなった少年は、その場にいる全員に対して、不審な眼差しを向けた。 『ワシじゃよ、隣の阿笠じゃ』 動揺する灰原は黙し、誰と聞かれて揚々と答えるべきか迷った怪盗はどうしたものかと天を仰ぐものだから、一番彼に近しい博士が声をかけたのだ。 ―なのに。 「なにしろ、記憶退行も起こして、お隣さんもロクに覚えていなかったもんな」 慌てて、博士は外国で暮らす両親に連絡を取った。 一応、偽の『工藤新一』が出現したと伝えてあったから、いつでも米花へ来る準備はしていたらしく、最も早い空路を取って工藤家に久しぶりに家族が揃ったのだ。 そして、そこで怪盗は奇妙な依頼を受けることになった。 ** ** ** 『ごめんなさい。無理を言っているのは百も承知なのよ。でも、コチラの状況を知って、その上で工藤君を抑えられそうな人、他に知らないの』 「アレは、なかなかの口説き文句だったもんなー」 パソコンの画面に定期報告―いや最終報告を打ち込んでいく。 『それに、貴方なら、探偵がどんな人間か…あの人がちゃんと貴方を追うに相応しい人間か判るはずだわ』 「確かに、探偵君がちゃんと探偵してるかなんざ、判りたくなくても、判るもんな。…コレばっかりは」 怪盗の―追われる者のサガかな、と思って自嘲めいた笑いが浮かんだ。 「しっかし、報酬まで見当つけるって何だろ…やっぱ偶然で俺ンち来たとか嘘じゃねーの?」 そこだけは、どうしても納得できなかった。 ** ** ** ― 送信のボタンを押した。 |