折角、気合を入れて『工藤新一』になったというのに。 俺の姿を見るべき相手は、どうも天岩戸に御篭りになってしまったようだった。 熱がぶり返したのか、と念のため確認したが体温は平常な状態にあり、ベッドの上で座っている姿が色味で判った。 つまり起き上がるのに問題は無い状態で、かつコチラに出てきたくない状態、ということだ。 気まずくて顔を見れないのかと名探偵が相手でなければ考えるところだが、…あの探偵に限ってそんなワケは無いだろう。 トレイに乗せたシリアルバーは、チョコではなくプレーンの素っ気ない物をあえてチョイス。鉄分にビタミン剤など各種の栄養補助サプリを添えて、ついでに飲み物はコーヒーの粉に組み立てる(指で力を加えれば出来るという簡単な)紙コップ。…あの部屋に水道はあってもお湯はないので、粉の溶けきれないアイスコーヒーが自作できるだろう。 「あー、なんかコレって凄く『工藤新一』っぽいメシな気がする」 よく新聞やメディアで見た彼は、事件を追ってばかりでロクにメシを食わない、ような、十秒チャージ片手に走り回っているような…いや、それすら取らないような、妙に生活感が薄い印象だった。 そんなわけは無いのだが。 体調が悪くても不本意でも、頑張って食って、よく寝てる小さな探偵君と同じなのだし。 「そもそも小学生と高校生って時点で印象が違うってヤツかな」 まぁ何にせよ、俺はヤダなーこんな味気ねー食事は。 などと思いながら、扉をドンドンと大きく叩いた後、昨夜修理した差出口にソレラを放り込んでやった。 「…さて、出てくるのかねぇ」 基本的に大した運動もないここでなら、あの食事でも問題はないだろう。 「ま、トイレ行きたくなったら、出てくるか」 うん、問題はソッチだろうな、と俺は思った。 |