「困ったわ…」

朝食は、バターロールにサラダにハムと果物にはオレンジを添えて。
コンチネンタルブレックファーストは火を使わないので用意が楽だ。
唯一暖かいミルクパンで沸かした牛乳は、コーヒーに多めに入れてカフェ・オ・レに。
…数分前まで柔らかに湯気を上げていたけれど、今はゆっくりと冷めて行っている最中。

「坊ちゃんったら、今日はお寝坊さんなのね」

時間は朝の8時半。
俺的朝食希望時間を越えている。
目覚めた日から、探偵は7時前後には起きて部屋を出てきていたのに。

「んー…」

人差し指を頬に宛て、小首をかしげる動作。
さて、どうしたものか。
まさか出られない、という事は無いだろうが。
昨夜は―医大生の見立てでは、探偵の体調に不具合は無かったはずだ。
では部屋から出たくないのか。
いや、深夜のうちに体調不良を起こした可能性も一応ある。

「しゃーねぇな、チェックすっか」

観客の居ない一人芝居が不意に空しくなって、なんとなく頭を掻いた。



30分後―俺は探偵の部屋へ向かう。

扉は閉ざされたまま。声をかけたりはしない。どのみち聞こえやしないし。
今まで使った事がない扉の仕掛けをいじる。平たい扉の上部の一角を叩くと、パネルが上がった。―暗証番号を押して、その場を去った。


ピピピ… と、いつもは名探偵の脱出完了を告げる電子音が、忙しない様子。室内にあるセンサーはちゃんと作動しているようだ。
ポンと手を叩いて、両手ほどもない小さなサイズのパソコンを取り出して、電子音を発している機器とラインを繋ぐ。
程無くして、小さな画面に緑・青・オレンジ…色味で示された部屋の内部―ベッド上の画像が現れた。
―サーモグラフィー。

「熱い…?」

画像の中央部に捉えている人影は、かの探偵君に他ならず、…示される色と数値に俺は眉を顰めた。

「知恵熱かぁ?」

昨日の様子を思えば、それが妥当という気がした。

「…これは、緊急事態ってヤツだな!」

うんうんと俺は肯いて、よっと椅子から降りる。
都合よく俺の姿は看病するのに適している。診察するなら昨日の姿だが、どうせお医者さんごっこなど名探偵は嫌がるだろうし。

「お世話ならメイドにお任せ、ってな〜」

腰に手を当てて、ケケケと笑ってみた。



  **  **  **


扉を開錠すると、予想通り頬を赤く染めてぼんやりした顔の名探偵がベッドに転がっていた。呼吸音は、はっはっと浅く、通常よりも大分早い。体内の熱を逃がしているのか。

勝手に開かれた扉に驚き―警戒しているのを承知で近づいて、ベッドで寝た姿勢のままの探偵のすぐ顔の横に、腰を下ろす。ギシ…とベッドのスプリングが音を立てた。

「お加減、悪いんですか」
「何で入って…てめ、ンっだよ、そのナリは…」
「こっちの方が看病されて嬉しいだろ」
「ば…ロォ」

力ない罵倒に、これは本格的に不味いのかもしれないと、俺は手を額に当てる。―やはり熱い。探偵は振り払いもせず、ジッとしている。メイド姿が効いたのだろうか。
いや、体調の悪い時には、いつもこうされていたのだろう。
今の彼は素の―コナンである所の姿でいるような気がした。小さくなった工藤とか名探偵とかいうよりも、俺が何度か彼の―江戸川コナンとしての日常を垣間見た時にいた子供の姿。

「今、氷枕と何か食べるもの、持って来ますね」
「…おい」
「あ、私メイドの瀬戸と言います。宜しくね、坊ちゃん」
「誰、が…だ」

咳は無いようだ。
やはり知恵熱か。

「起きちゃ駄目ですよー。大人しく横になってて下さい」

にっこりメイドの顔で笑ってやると、探偵は嘆息して好きにしろ、とばかりに眼を閉じた。



2011/02/07 21:01 !
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