「さ、コナンくんお茶が入ったよ〜」

ニコニコと被った面(ツラ)の皮に合わせて俺は俺でない人間のまま。
居間で本を読んでいた探偵は、昼前からこの姿を取ったままの俺にいい加減慣れたのか、軽く顔を上げて「あー、わぁった」と生返事。
昼食時に向けていたジト目は無い。
適応力が高いな、と思う。

静かに一人で読書を好むと思いきや、探偵の部屋には背凭れのある椅子もなく、床に座り込むには絨毯もなく硬いからと、本を読む時は居間にくるようにしているようだった。

そんな所も、適応力があり―要はふてぶてしく逞しく出来ていると思う。

「僕ね、薬膳茶にも凝ってて。口に合うと良いんだけど」
「似非医大生」
「手厳しいなぁ。あの時は僕なりに手伝ったじゃないか」

風邪を引いた彼を診てやったこともあるというのに。
あの時は手持ちの解熱剤で対応したが、後に探偵の抱える特殊な事情を知った時は下手な薬を投与することにならなくて良かった、と思ったものだ。

「あの時か…」
「…ん?苦いかい」

一口濃茶色の液体を啜った探偵は少し眉を上げた。

「いや。…タンポポか?」
「正解。コーヒーみたいだろ」
「カフェイン抑制?」
「子供の身体に過剰摂取は良くないからね」

医大生らしく人差し指を振って、見ている方が苦くなりそうな探偵の飲み方がいかに非常識かを語ってやろうとした。
だが、不意に漏らした一言にピクリと指先が止まった。

「黒羽。…黒羽盗一…だったっけ」
「は?イキナリなんだい」
「あのロッジで集まったメンバーが、どのマジシャンが好きか、って言い合ってた時。オメーが言ってた?」
「ああ!言ってたね。正確には荒さんが最初に言ったんだけどね。僕も黒羽さんのステージは好きだったから合わせたんだよ。…コナンくんこそ、あの時その場には居なかったのに、よく知ってるねぇ」

指先は一回だけくるりと円を描くだけにして、手を閉じて。
俺は両手を組んで顎の下に宛て、揺れるティーカップの中を見つめている探偵の言葉を待つ。

「……ああ。オメーが化けてた奴だからな。山から降りる時に、蘭と園子からオメーの発言はおおよそ拾ったんだ」
「へぇ!…全く怖いね、探偵君は」
「土井塔がオメーの作った架空人物なら、奇術愛好家の集まった場での発言てのは…マジシャンぶったコソ泥のモンじゃねぇのか」
「ええ?僕は僕だよ、やだなぁ」
「自分以外の奇術師なんか下に見てるのかと思ったがな」
「まさか!」

図らずも強い口調になる。

「怪盗の扱うマジックなんて、いくつものショウを何千何万て観客の前でこなして夢を与えてきた一流のマジシャンの足元にも及ばないよ!」
「観客動員数だけなら、負けてねーだろ。毎度毎度派手な演出でTV中継、予告状付き観戦チケットは発行数最大手の新聞なんだからな」
「心外だ。奇術師愛好連盟に名を連ねる者としては、彼の演出は完全じゃないと言わざるを得ないね」

組んでいた手を開いて肩を竦めヤレヤレとポーズを取った。

「自己評価が低い奴だとは意外だな」
「じゃあ、探偵君は彼のショウが楽しいかい?」
「はッ!ソレを俺に聞くのか、コソ泥さんよ」
「ホラ、観客全部を魅了出来ていないんだから、まだまだだろ?」

ニッコリと殊更に笑ってやれば、名探偵は非常に苦々しい顔をした。

「観客じゃねぇ…」

低い声音は子供らしからぬ迫力に満ちている。
タダでさえ逆立っている彼の頭髪の一部が、いや、身体全部が威圧感に満ちて大きくなったような気がした。
気迫で体格差を埋めてくるとは恐ろしい。





2011/01/30 23:14 !
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