掃除をするなら、窓を開けて換気をしながら。 その程度のことは解っていたが、あいにくと俺が寝かせられている部屋には窓の形をした装飾物があるだけだった。 だからと言って、部屋の扉を開け放ったまま? ひょいと顔を出して『お、やってるな』などと子供のお手伝いを褒めるような揶揄を飛ばしてきそうな人間が傍に居る事を考えると、何が何でも扉は閉めたままにしておきたい所である。 「とりあえず…」 怪盗から受け取った掃除道具を検分する。 箒の柄の先はプラスチックキャップが付いていて、紐が出ているごく一般的なタイプ。 いや、柄の部分に穴が開いていて、そこから吊るす金具が付いているほうが良く見る。 キャップを動かしてみる。 割と簡単に外れて、中からは黒いチップ。 バケツはプラスチック製で緑色―仕掛けられそうな場所は無し。 雑巾は、まぁ…濡らして絞れば良い。 「ふん」 ベッドの脚・ベッドの裏側に一見それとは解らないように、部品のナリをした異品を見つけたのは一昨日だったか。 ソレを見つけたあと、洗面台や本の棚や窓辺を探って発見した品は昨日までで計5つ。 場所によって大きさが違っていたから、まぁ音を拾える範囲を勘案しての仕掛けと思われた。 掃除をする間だけ手元にあるモノにわざわざ仕掛け付きの品とは。 タネを潰しきったか。 この得物で、何かすると思われているのか。 「……」 しばらく手の中で転がしていたソレを指先で摘み、グッと力を入れ―ようとして、ふと止めた。 ポケットに一旦仕舞う。 それから。 ベッドからシーツを剥いで埃を落とすように床上で振ってから、また敷きなおす。替えは棚に入っていたが、大して気になる汚れは無かったから構わないだろう。 床に落ちた埃を箒で集める。 ついでに部屋の中もざっくりと掃いた。 「雑巾掛け…か。せめてモップよこせってんだバーロー」 ゴミを掃きとっても、何となくスッキリしない。 白い部屋だからだろうか。 床を蹴る。 不浸透製の―リノリウムの床。 衛生管理が気遣われる場所でよく使われる抗菌性のある素材。 病院か、とここで目覚めた時に感じた一番の要因かもしれない。白い部屋内の配色と同化した天井と床。 絨毯が敷かれているなり、木目のあるフローリングなりだったら、ナースコールがあるような部屋は連想しなかっただろう。 「んー…水汲むか」 バケツを手にして風呂場へ向かった。 怪盗は、台所で作業中だった。 視線に気付いたのか、ン?と振り返ったその手にはゴム手袋と、商品記載等のないプラスチックスプレー。聞いていないのに、クエン酸スプレーだぜ?と言ってきた。 …ここで目にする怪盗キッドはどうにも所帯染みてていけない。 バケツに半分程度の水。 それと、風呂場の手桶をその中にコッソリ入れて。 怪盗が背中を向けているのを確認して、さっさと部屋に戻った。 |