「そろそろ部屋の掃除すっか?」 洗濯機にアレコレと放り込むのを終えて。 台所使用者が加わってから水跳ねだの油汚れが増えたキッチン周りの掃除をしねーとなー、と思ったついでに名探偵にも提案。 「そんな汚してねーぞ」 「いやぁ?俺の予想では―結構埃っぽくなってるだろうと」 「何を根拠に」 スッと細まる眼差し。 ムッとした態度ではなく、鋭敏なソレ。 おやぁ?と思いつつも。俺はただ肩を竦めて、思ったままを口にする。 「着替えないでそのまんま寝たことあったしな。昨日だって細かいゴミついただろうし」 「あー。でも、掃除道具なんか」 「箒とちり取りと雑巾は絶賛無料貸し出し中!」 「…無料で掃除させてやってもいいが?」 「今ならバケツのオプション付き!」 「サービス悪いな。掃除機出せよ」 「今はコレが精一杯〜」 「怪盗違いだろーが」 しかし、渋々と名探偵は道具を持って彼の寝所スペースへ。 お手伝いとは違って、彼が彼の納得するようにやればいいだけの事。 バタンと扉が閉まったのを確認して、俺もシンク下の棚から各種道具を取り出した。 「やっぱ重曹だな!」 取り出したるエコかつリーズナブルと巷の主婦層に人気らしい粉末を気になる汚れに振りかけて。 さて、と。 俺はシルクハットの中から小さなイヤホン取り出して耳に当てた。 「気付くかなー」 部屋に予め仕掛けていた幾つかは、名探偵の手でさっさと破壊されていた。 もっとも、その事について彼は何も言わなかったし。 だから、俺もわざわざ口にはしなかった。 割と想定内。 けれど、監視者として気になる事はある。 「裁縫もアレそうな名探偵だったら、わかんねーと思ったが」 ワンポイントは忍ばせた極薄型の機器を破損をしないように手縫いしたのだ。 アイロンで貼り付けられれば楽だったが、そうもいかない。 「もしかして、エプロン気に入ったのか…」 朝食の支度を終えた後、彼は一旦脱いだ。 そのまま台所専用になったら意味ねーな、と思ったが、意外にも「洗濯と少し手伝いしてもらうから着ろよ。折角作ったし!」と言えば、素直にまた紐を結んだ。 「ワザとだったら、名探偵恐るべし、だな」 そうかもしれない。 だが、まだ盗聴器は生きている。 道具を動かしている音、息遣い、想像のつく音を除いて行って、部屋の音を探る。 まだ、窓や壁に穴が空いている様な空気の振動音は聞こえなかった。 『何からすっかな…』 「何から始める?」 他者への警戒とは、つまり自身に隠し事があると言っているのと同じ事。 |