「ちょっとまてーッ!」

ぐらぐらぐらぐら

たっぷりの水が沸騰している。

その上で、名探偵が卵を構えている。
俺は慌てて、子供の手から消失マジック。

「っだよ?!」
「ゆで卵作れって言ったんだが?」
「だーかーらー、茹でるんだろ?その為にお湯を沸かしたんだろーが!」
「ええー?!」

本気か。
本気らしい。

「解った…、アレな、温泉卵にしようか…」

いそいで、火を止める。
ジャーと水をグラスに一杯と少し、鍋の中に。
それから、名探偵の手から取り上げた卵と、もう一つ卵を入れて、鍋に蓋。

ゆで卵程度なら、小学校の家庭科で習うと思ったんだが。
いや、遣り方によっては、沸騰したお湯から作ることも可能だ。

しかし、あんなボコボコ空気が上がっている鍋に、今コイツ適当にポイっと入れようとしてたよな?
割れるだろーが!

「へぇ、これで温泉卵になるのか?」
「10分ぐらいでな」

ほーほー、と。
割と本気の感心声。
しかし、こんな事ぐらいでイイ気にはなれない。

先が思いやられる。

ご飯炊いといて良かった。
米を洗剤で洗いそうなタイプだ、コイツ。
もしくは泡だて器でかき混ぜるとか。

味噌汁は簡単にワカメと豆腐。
簡易な出汁を入れたもう一つの鍋も沸騰してきたので、適当に切ったそれらを投入。
からんと、空いた容器をシンクに置く。
温泉卵在中の鍋は一旦下ろして、代わりにフライパンを乗せる。
ウィンナーでも焼こう。
ついでに、味噌汁用の味噌も出しておく。

冷蔵庫を開けて、ガサガサしていると、温泉卵鍋前に移動した探偵が(もはや手伝う気は無いようでちゃっかりと椅子に座りやがった)、何気なく聞いてきた。

「消費期限、見なくても大丈夫なのか。その冷蔵庫の食材、全部袋詰めだよな。…容器に入ってない豆腐なんざ、滅多に見ねぇ。豆腐屋から直接買ってるのか?」

「さぁなー、ま、色々考えてみればいいんじゃね?―時間はあるぜ、多分」

名探偵は、やはり名探偵らしく。


  **  **  **



やけに早く部屋から出てきた名探偵は、開口一番俺に聞いてきた。
おそらく、昨夜からずっと考えていたのだろう。

『今日の日付を―年月日を知りたい』

『それって三つになるな?』

『じゃあ、何月だ?』

『何日じゃなくて?』

『―何月だ?怪盗キッド』

『…12月だよ、名探偵』

そうか、と小さく言ったあと、彼は俺を見て言った。

『で?今朝のメニューは何だ?不本意だが、手伝ってもいい』

調理能力なんぞこれっぽっちもないクセに、やけに偉そうな。
何だ、ちゃんとポーカーフェイスも出来るんじゃないか。



2010/12/14 13:03 !
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