怪盗の一日。 朝メシ作り・後片付け・洗濯・鳩の世話・掃除・昼メシ作り・謎の書き付け作業・謎の工具による細工?作業・昼寝・ストレッチ・風呂沸かし・夕メシ作り・後片付け …… 一応、相手の動きに注意を払って目で確認した限りでの、監禁者の行動である。 なんとも。 かんとも。 ごく普通に生活しやがっている。 リビングの椅子に身体を傾けて預け、脚を行儀悪くテーブルに乗っけた姿勢で。顔にシルクハットを充ててピクリとも動かない状態の怪盗を見た時は、一体何の真似だと椅子の背を蹴っ飛ばして倒したくなった。 もう一つ、俺の目に映った怪盗の仕事。 俺が居なければいけない部屋の扉のロックは、夜に怪盗自身が行っているらしい。 扉が完全に閉まらないように、―どの程度の感知作用があるのかを確認したくて、薄い紙(部屋の書籍から拝借した。本を傷つける行為に心は痛んだが、緊急時だから仕方ない)を挟んでおいたら、怪盗自身が確認にきやがった。 書籍の中にはナカナカ良い角を持ったハードカバー本もあったので、それを脳天に叩き付けたくもあったが、残念ながらシルクハットが邪魔だった。 ならばと、扉を確認している怪盗の小指の上にでも落として遣ろうとしたが、うさぎのぬいぐるみがひっついたような形状のスリッパが衝撃を吸収しそうな感じではあったから、それも諦めた。 『もう、電気も切るからな!さっさと寝ろよ、お子様は』 そう、言い捨てて部屋を出て行く怪盗は、一瞬だけ俺が手に持っていた本に視線を送った。見ただけ、だったが。 棚の中にあった本。 見たことのあるモノと、未読のモノが混在していた。 未読の本だけを取り出して、裏付けの年月日と出版社を確認する。 一冊だけ、納得のいかない本。 ここに来る前の俺が一番楽しみにしていた新名香保里の新刊。 思わず、読み出そうとして、違和感。 帰宅した俺の前で、いつものように、事務所の所長席で酔っ払っていた毛利のおっちゃん。早い時間に、何でそんな状態なのさ、と。子供らしく呆れながら聞いてみれば『暑いからに決まってんだろぉ!』。 確かにその日も暑かった。 夕暮れになっても、鳴き止まない蝉の声。 ヒグラシではなく、ミンミンと。 午後になって。 外出からいつの間にか帰ってきた鳩。 居間のちゃぶ台の上で、何やら作業していた怪盗が、ふっと顔を上げて例の鳥小屋の部屋へと移動した。当然俺は付いて行った。怪盗が無防備に置いて行った見たことのない工具が気になったけれど、恐らくワザと置いて行ったのだと思ったし。 『おかえり』 一体ドコから戻ったというのか。 怪盗の手下は、鳥の癖に神出鬼没マジックが可能らしい。 帰りたてらしい鳩たちが、部屋の中を飛び回っていた。 その中の一羽がふわりと肩に乗ってきた。 何となく手を出せば、ぽぽぽ…と言いながら移動してくる白い塊。 羽を撫ぜれば、少し熱い。 日光の照射による暑さか、と思った。 しかし。 「あ…」 フッと部屋が真っ暗になった。 電気が落とされたか。 けれど、空調は静かに動いているようだった。 完全にコントロールされているらしい室温で、外の季節感は除外されている。 それでも、鳩の身体が乗せてきた日差しの強さ窺える熱さ。 それは、暑い日に発生するモノと何ら変らないような気がしたが。 しかし。 「一日、一つ、ね…」 怪盗から引き出さなければいけない答え。 俺は何を知るべきなのか。 ここから出る為に。 |