風呂上りにホカホカになっている子供とは、(とにかく内実を考えずに外見だけを見るならば!だが)微笑ましいものである。 ふっくりとした頬が赤くなって、身体から湯気を上げている。 「さっさと寝ろよ。9時過ぎたら強制部屋送りだぜ」 「そんな早く寝れるか、バーロー」 「起きてるにしても、部屋でな」 といっても、時間になればあの部屋の電源は一切落としてしまうのだが。 窓からの月明かりといった採光も、部屋の光源も無しには本だって読めないだろう。 「あー。あと、名探偵が寝起き良いから言い忘れてたんだけどさ」 「んあ?」 名探偵は踏み台に登り自分でコップに水を入れて飲んでいる。 テーブルの上には、昨日と同じく牛乳を入れて置いてやっているというのに。 もっとも、昨日の今日で口にする事もないだろうと、中身はただの牛乳なので、後で自分で飲んでしまおう。 「鍵開けるパネルの起動時間は朝6時から9時だ」 「…へぇ」 「時間外は動かない。出たかったら、さっさと出たほうがいいな」 「朝メシは怪盗さんの仕事だろ」 「…教えてやっから、朝から手伝えよー。オメー少しは料理の基本覚えろ」 「昨今の怪盗ってのは家庭科指導をしてくれんのか。クリーニングに料理に、…そのうち裁縫でもするのか?」 「それも悪くねーな」 「多芸多才で結構なこった」 「無芸大食よりマシだろ」 がしゃっと耳障りな音がして、水で濯いだグラスが水切りトレイの上に置かれる。 乱暴モンめ。 図星を指されたくらいで!というのは言い過ぎか。 しかし、振り返った探偵は怒ったような顔ではなく、人を罠へ誘いかける狡猾な眼をしてるワケでもなく、ただ不思議そうに首を傾げて俺を見た。 「なぁ、なんで、オメーなんだ」 「…さぁな」 ―これは 無防備な子供を装っているのかもしれない。 俺は、肩を竦める素振りだけをし、椅子から立ち上がって軽く腰を折り、「寝所へどうぞ?名探偵」と促した。 「……」 無言でダイニングテーブルの脇をすり抜けて、歩いていく。 廊下の先で、パタリと扉が閉じられた。 「素直…なワケねーよな」 扉の閉錠ロックが掛からない。 扉になにがしかの細工がしてあるのだ。 問答無用で細工を取り除きに行くか、催眠ガスで寝かしつけてから作業するか。 どっちにしても、手間のかかる相手である。 |