言葉づらだけを捉えるのだとしたら。 料理とは、理(ことわり)を料(はか)ること。 調理とは、理を調えること。 つまり、素材に旬・食べごろがあることの意味を理解し、適した方法での処理があることを知って、それに従って実践出来れば大抵失敗はしないものなのだ。 しかしそこに推理が入るとどうなるのか。 推理とは、理を推し測ることだろう。 推す、物事を突き詰めて考えていく、ある根拠を起点にして示された事象について独自の判断でその理を測っていく段階にある―理は曖昧不確定な状態だ。 だから、きっと推理するような人間は、定められた理にさえ独自の思考展開を割り込ませて色々と台無しにしてくれる人種なのだ、おそらく。 そうでなくて、どうしてアレがこうなるんだ。 なんでわざわざ一番面倒な下拵えをしてやったと思ってるんだ。 叩いて柔らかくして、下味を付けて。 ケシズミ状態になった肉塊をフォークの先でつつく。紳士らしからぬ無作法さであるが、だからといってこの目の前の物体を優雅に口に運ぶというのは論外だった。 口に入れた瞬間、紳士も何も吹っ飛ぶこと間違いなしだ。 「名探偵って不器用なのか?それとも味覚障害?はたまた自爆覚悟の嫌がらせだったりするわけ?」 「言われたとおりにしたが?オメーの言い方が悪かったとは思わないのか」 「いやいやいやいや、これ以上なく適切に説明したぜ?!」 「焦げ目が付くまで焼く」 「脂身の方を先にフライパンで焼けば油が出るし、焼き目がついたほうが食感がいいって話なのに、焼き目ないぐらい真っ黒って何」 「引っくり返して、白ワインを振って蓋をして蒸し焼き」 「風味付けが吹っ飛んで焦げ臭さしかしてねぇし。だいたい蒸し焼きなのに、両面真っ黒じゃねぇか」 「加減が言い抜けてたぞ」 「見たらわかるだろー?!」 「あっという間だったしな…」 「火加減のほうか!」 それは盲点だった。が、だからと言ってコレを俺にせいにされるのはいたく心外である。 俺はもう、いっそ悲しくなって首を横に振って問いかけてみる。 「強火以外に選択肢が無かったのか…?」 「さっさとやっちまいたかったんだよ」 隠滅や喪失の目に遭わぬよう証拠確保に走り、犯人確保に更に走り、時に時効と戦う―時間に追われている職種の人間は、料理に向かないということなのか。人目を縫って、機を窺って、時期を見逃さずに動く怪盗と違って。いや、その辺は探偵も変わらない気がする。 結局は、生来の気質か天然の不器用か、不慣れゆえの結果なのだろう。 ―あー、作り直すのメンドくせー・・・ しかし昼食は、怒りまくる探偵の攻撃を避けたり何だりしていたせいで食べていないし。夕食まで無しというのは辛い。 大きく溜息を一つ吐いて、さって、やり直すかーと俺は椅子から立ち上がった。 その時に、小さく呟いた声が耳に入ってきた。 「旨そうだったし、早く食いたかったんだ」 「……」 人を誑すのは、何も怪盗だけの得意技ではないらしい。 |