力になるから話してみなよ




「旦那ァ・・・」


目前には、見慣れたスナック。
少し目線を上げれば、そこにはやはり見慣れた万事屋の看板が。


ここに来るまでの間、何度愛しい人の名前を呟いたことだろう。
幾度となく押し寄せる感情は、俺じゃどうしようもならない。
かといって他人にどうにか出来るようなものでもない。
結局のところ、この感情は、誰にも動かすことが出来ないのだ。


「旦那」


もう一度その名を呼ぶ。
すんなりと心に落ちてくるその言葉は、今の俺には少々辛い。


「やっぱり旦那なんか嫌いでさァ」


そう悪態をつくと


「俺は沖田くん好きだけどねー」


なんて声が聞こえてきた。


「・・・・・・旦那」


振り替えると、仁王立ちで此方を見る旦那の姿が目に入った。


「・・・・ったく、俺の悪口を家の前で言うなって」


頭をガシガシと掻き回しながら旦那は俺に近付いてくる。


「そりゃあ配慮がなくてすいやせんね」

「すいませんなんて思ってないでしょ」

「何でわかったんですかィ」

「・・・・・はぁ」


旦那は気付いているのだろうか。
俺がここに来た理由。
そもそも、全ての原因を。


「溜め息を吐くと幸せが逃げるんじゃなかったんですかィ?」

「沖田くんに避けられてんのに幸せも何もねぇよ」

「・・・・土方さんが、いるじゃねぇか」

「はぁ?」


堪えきれずに溢した言葉は旦那には聞こえなかったらしい。
不思議そうに此方を見ている。


「あのさぁ、な」

「銀時さん」


俺は旦那の声を遮るように、その名を呼んだ。
最後くらいは、ちゃんと名前で呼びたかった。
そんな俺に旦那はびっくりしている。
が、次の瞬間、旦那の表情は一気に曇ることになる。


「俺を、殺してくだせェ」


刀を抜き、旦那に差し出す。
本当は自分で死のうと思っていたが、気が変わった。
愛しい人の手で最期を迎えるのもなかなか悪くないだろう。
俺は、微笑みながら更に刀を押し出す。
反射的に刀を握ってしまった旦那は、硬直していた。


「さ、いつでもどうぞ。心の準備は出来てるんでねィ」

「な、んで・・・・・」


深い悲しみが混ざったその表情、信じられないと訴えかけているその瞳。
全てが今、俺に向けられていると思うと、笑みが更に深くなる。








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